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銃剣と薙刀 1

 アリーフは目覚めたらまず最初に、枕元の腕時計を掴んで時間を無意識に見る癖がある。だが、今日は何故かその腕時計が見当たらない。上半身だけ身体を起こして付近を探してみるが、どうも見つからない。

 ふと毛布の右側をめくって見ると、寝る前は抱きしめていたリウがいつのまにか自分から離れ、膝を曲げたうつ伏せ姿でシーツをよだれまみれにして、心地良さそうに寝ていた。


「……」


 アリーフは何となくリウを転がしてみたくなり、欲のままそれを行動に移すと、探していた腕時計はリウの腹で潰れていた。彼はリウに毛布をかけ直すと、腕時計を手に取って時刻を確認した。7時10分。

 アリーフは目をこすって起きる気配が無いジェスタフを跨いでベッドから起き上がると、軽いストレッチをして洗面所に入って服を脱ぎ、昨日サボったシャワーを浴びた。シャワーが何分待っても冷たいままだったので、苦行と思ってそのまま髪を洗った。

 髪を洗い終わると、無意識に脇に手を当ててみたら、ざらつきを覚えた。彼は眉をひそめて浴室から一度出て髭剃りを取り出し、石鹸を脇の周りに塗りたくって無駄毛を綺麗に剃り落とした。

 アリーフは年が16歳になった辺りで髭や脛毛がやんわりと目立つようになった。彼はやや神経質なまでにこれを気にして、少しでも自分が気に入らなかったら血が出ても御構い無しに剃る。

 毎朝早起きし、鏡に映る己と頬擦りしては気に入らない箇所があればそこに冷たい剃刀を当てて剃り落とし、ニキビがあったらどうせすぐ治るので、養鶏家があっさりと鶏の首を断つように、一切の躊躇なく削ぎ落とす。

 アリーフは泡と剃った毛を洗い流すと、タオルで身体を拭ってトランクスを履きながら鏡に映る裸身を眺める。昨日はホットチョコレートを飲んでしまったから、またニキビが浮いてないか少し気がかりだった。幸いそれらしきものは無かったが、ニキビはすぐには現れないものなので不安は消えなかった。

 彼は用意した衣服を蜘蛛が巣を作るようにゆっくりと着込み、仕上げに香水を振りかけてネクタイを締めた。そして、2人を起こそうとドアノブに手をかけた刹那、彼は静電気に感電したかのようにドアノブから手を振り払って自分の指を凝視した。


「指に毛が……見落としてた」


 彼は屈んで膝立ちになり、髭剃りを水を張ったコップに入れて毛を取り除くと、素早く液体石鹸を掌に馴染ませた。準備が済むとうずくまり、水で髭剃りを濡らし、神妙な面持ちで刃をそっと小指に当てた。


「にい、何してるの?」


「ふやっ!? ギャァアアアアアア!!」


 彼は指の毛に気を取られるあまり、いつのまにか起きて背後を取っていたリウに気づかず、驚天のあまり小指を骨まで深々と切ってしまった。


「なにー? どうしたのー? 」


「どっから出てきてんだよ...」


 アリーフが痛みに悶える悲鳴を聞きつけたレーゼが、寝癖を直しながら黒いスウェット姿で浴室の換気扇をブチ抜き駆けつけた。すると、リウがおろおろとすすり泣いていたので、とりあえず彼を抱きしめるところから始めたら、リウに容赦なく服で鼻をかまれて笑顔が硬直した。


「にい、ごめんね……」


「いや、いいんだよリウ。ただ次からはこっそり背後に忍び寄るのはやめようね。僕じゃなかったらケジメつけてたから」


「ついでに言うなら、人の服をティッシュと同じように扱うのもやめましょうね」


 アリーフが傷が塞がった手でリウの頭を愛おしそうに撫でると、リウは途端に泣き止んで、視界に入った小さな菱形の瓶を爪先立ちになって掴むと、気を紛らすつもりなのか、そのまま中身を飲もうとした。


「あっ」


 それは、アリーフが愛用する香水だった。蓋を開けっ放しにしていたので、漂う甘い香りにリウはシロップと勘違いしたらしい。慌ててレーゼが引ったくろうと腕を伸ばした時、後ろからやってきたジェスタフがリウから瓶を取り上げた。


「これは香水だ、シロップじゃねぇ、飲もうとすんな」


「いやだ飲みたい飲みたい」


 リウはしかめっ面でジェスタフのパジャマに噛み付いたり、膝を小さな拳でポカポカと殴ったりしたが、彼は朝は血圧が低く、制する気力も湧かず面倒だったからか、反抗するリウにされるがままになっていた。


「おー若干4歳で兄に拳で抵抗することを覚えたか。こりゃ将来は立派な兵士だな」


 そうして、顔を洗って大欠伸をするとアリーフと目が合った。ジェスタフは彼を舐めるように見つめ、服装がすでに整っていることを知ると、にんまり笑った。


「よし、俺もすぐに着替えるからちょっと待ってろ。朝飯は外で食べよう。レーゼ、今日一日リウを頼む……え?お前今度は換気扇かよ、何考えてんの?」


「後で直しとく」

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