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啓蒙は言葉ゾンビの髄液に (異世界もの)  作者: みよよよよよよよよよよ
プロローグ
3/15

少女と騎士



灰一色の兵の中から、目を見張るような唐紅と栴檀(せんだん)色が飛び出した。



それらは若い騎士と少女で、そのうち栴檀(せんだん)の髪の少女は、殊更松尾の目を引いた。




遠目に見ても柔らかそうな薄絹の髪。まるで孔雀のしだり尾の様に、豊かに風にたなびいている。




まずはその美しさに驚いた。が、驚きには次があった。

松尾の目の前に差し掛かると少女はくるりと旋回したが、その顔がまっすぐこちらに向くと、真っ先に瞳が松尾の視線を吸い込んだのだ。




星の煌めきを落としたような金色(こんじき)の瞳。えもいわれぬ濃密さを持つそれの最奥が、やけに視線を引き留めて逃がさない。



それで心が、真夜中の興奮のように正体不明の不調を訴えてやまないのだ。




そして、彼女が近づいてふわりと()()風の香りがしてくると、いよいよ心がかき乱されてざわついて、正気ではいられなくなった。




しかし少女は、松尾の心などそしらぬ歩みでより一層無遠慮に近づくと、目と鼻の先で淑やかな顔を、なんの悪意もなく悲壮に歪ませるのだった。




「初めまして、勇者様。私はこの国の王女であり、アラン・ベルの娘であるクラリッサ・ベルです。


突然お話を遮ってしまい申し訳ありません。


そして、勇者様の父の_いえ、私達の突然の横暴にお怒りになる気持ち、大変良く分かります。


それについて、私からも心からお詫び申し上げます。


申し訳ありませんでした」




そう言って少女が頭を下げると、王や兵達も同様に頭を下げた。唐紅の青年も、少女の立つ斜め後ろで頭を下げた。




そこで松尾はようやくハッとする。



松尾はひとまず何か返さねばと思い、うろ覚えの礼らしき礼をして、震える口をそっと開いた。




「お、王女様直々のご挨拶と謝罪、痛み入ります。えっと…か、お顔を上げてください」




少女は言われた通りに顔を上げる。



その深い影から浮き上がった不安げな形相を見て、松尾は焦った。



自分の怒気にあてられたであろうこの少女の為に、何か弁解をしなければと思った。




「えっと、その…私も少し、興奮して強くまくし立てすぎてしまったことを、謝ります。


ですが、私は帰してもらいたいのです」




「この世界の皆さんには申し訳ありませんが…


私には何も特別な力などありませんし、勇気もないですし……


本当に存亡を危ぶまれているところ申し訳ないのですが……」




松尾はしどろもどろになって言い訳した。



雄弁の勢いを削がれて、すっかり萎縮してしまったのだ。自分の言っていることが一方的に残酷なことのような気さえする。



先程まで鬼のようだった彼の心は、今や無害な泣き虫少年のそれだった。



しゅんと落ち込んだ松尾を見て、少女は更に悲しげに眉を下げる。




「…それは…」




帰してもらいたい松尾の要求。



それは最もだが、この世界と他所を一方的に接続する魔法はあっても、逆向きに接続する魔法は存在しないということを少女は知っている。



無論、この場にいる松尾以外の全員もだ。




だが、ここである程度平静を取り戻した松尾もまた、少女のその決して良いとは言えない反応を見て、今度こそ本当に帰れないということを理解した。



そこで必然的に松尾に残された選択肢は、自分の要求から荒れたこの場を丸く収めるということだけだった。



松尾はボソリと言葉を絞り出した。




「…わかりました。ひとまず、お二人の言うことに従います。


ですが、追って事の説明はしてください…突然のことで、分からないことが多すぎます。


あと、勇者のことも…ひとまず保留にさせてください」




「は、はい、承知しました…では、ひとまずお部屋の方案内させていただいてもよろしいでしょうか」




紳士が二度目の提案をする。

松尾は従うしかなかった。




「はい、大丈夫です…」




「分かりました。ではクラリッサ、案内の前にご挨拶を」




「はい、お父様」




改めて、というような雰囲気だった。



とりあえず場が持ち直したことに松尾は安堵する。



それは少女も同じだったようで、先程よりも少し柔くなった表情で松尾に向き直り頭を下げた。




「改めまして、クラリッサ・ベルと申します。


まだ青く経験は浅いですが、ありがたくも臣民の皆様からこの国の王女としての立場を賜っております。


以後お見知り置きを」




「はい。王女様直々の再三のご挨拶、光栄に存じます。


改めまして私、松尾信治と申します。


余所者の立場で礼儀も弁えておらず申し訳ありませんが、どうぞよろしくお願いします」




招かれた勇者の立場で王女に述べる挨拶の仕方など、松尾にとってわかりようもない。



なんとか思いつく限りの丁寧と謙遜を尽くして、自分自身よくわからない挨拶をした。



だが、それを聞いたクラリッサ王女は少なくともにこりとはした。



ふんわりと品の良い笑みである。



それを顔にたたえたまま、王女は騎士の紹介へと移った。




「先程より後ろに立っておりました、こちらが私の家臣のルーファスです。


彼については詳しくはお部屋で説明致しますので、ひとまずお部屋に参りましょう」




「は、はい」




ルーファスと呼ばれた騎士の青年は、名前を言われると軽く微笑んで頭を下げただけで、てっきり彼の再三の声も聞けると思っていた松尾は、少し拍子抜けすると共に焦らされているような気持ちになった。




早くこの厳粛な時間から逃げ出したい。




そして早く泣きたい。




そんな思いに急かされてるように、松尾は二人の後を追ってこの謎の大広間を出た。

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