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啓蒙は言葉ゾンビの髄液に (異世界もの)  作者: みよよよよよよよよよよ
プロローグ
14/15

快晴



それから数日して…



その日の松尾はクラリッサとルーファスの仕事のない午前に付き合う形で、王宮近くの高原まで来ていた。




「松尾くん見て、蝶々が遊んでいるわ」




「本当ですね。あれはモンキチョウとモンシロチョウでしょうか?この世界にも居るんですね」




「そうね。違う種族同士でも仲が良いのよ。素敵なことだわ」




クラリッサはそんなことを言って笑う。



松尾はその笑顔にむず痒い気持ちを覚えた。



そんな二人に遠くからルーファスが手を振る。




「おーい、ここすっげえ見晴らし良いですよー!」




「今そっちに行くわ!松尾くん、行きましょ?」




「は、はい」




二人は()()()気持ちのまま、ルーファスの元へと走った。



爽やかに撫でていく風が心地よい。



息を切らして辿り着くと、そこは小高い丘の頂上だった。




そしてそこから地平を見下ろすのに遮るものはなかった。故に、彼方まで広がる見事な白亜の街並みを見ることができた。



区分けにされて整然と並ぶ街並み。その合間を縫って蠢く人々、飛ぶ渡り鳥。




「壮観ね…!」




「ですね…」




「なんかこうやって街を見てると、こんなでかい街をたった三十人前後の騎士団数個が守ってるなんて、信じられないな。精進しねぇと」




「あら、そんなこと言ったらこんな大きい街を一人の王様が治めてるなんてもっと信じがたいわよ。


…全部、お父様の意思でこの広大な街は動いているのね。身内ながら、恐れ多いわ」




「そうだな、確かに」




そこで会話が止まり、松尾は不思議に思い隣の二人の方を見やった。



すると、クラリッサが慈愛深い表情で風景を眺めていた。



ルーファスと目が合う。彼もまた、目をキラキラに見開いて、ぼうっとした風にクラリッサを見ていた。




それもその筈、彼女の美しい顔は今この瞬間、誰もが目を見張るほど女神めいていたのだ。



その様は柔い癒しの光を纏っているように錯覚するほど。



まだうら若い少女がここまで母性に満ちた顔をするなんて。



まさに、寵愛の女神のようにこの街を慈しんでいる_松尾は瞬間的に、これほどまでに愛される街を恐ろしくすら思った。




「私、この街を守りたいわ」




クラリッサは微笑みを二人にも向け、そう言った。




「_あぁ。それが主人様の願いなら、俺もこの街を滅私奉公、身を粉にして守りますよ」




ルーファスもまた、そう言って笑った。




そんな二人を見ながらふと、自分はどうしたいんだろう、と松尾は思った。




『クラリッサ達は?』



あの日、不意に浮かんだこの言葉の意味が、自分には分からなかった。



そして、気に止めるほどのことでもない筈なのに、今でも暇さえあればその答えを探している。



答えを探して二人を見ると、胸が締め付けられて苦しくなる。




…自分でもまさか、とは思う。




しかし、どう考えてもそれは「ありえない」のだ。




松尾は考えを振り払おうとした。



この後、アラン王にから直々に呼び出されているのだ。



失礼がないようにする為にも、ネガティブな因子は事前に取り除いておかねばならない。



…だが、立ち込める暗雲はどこにも行かなかった。




そんなときに、ルーファスが「さて」と伸びをした。




「そろそろ俺の隊の訓練の時間だ。帰りますぜ主人様。


護衛が俺だけじゃなかったら、もう少し居させてやりたかったんですが」




「ううん、大丈夫よ。さぁ松尾くんも、一緒に帰りましょう」




「えぇ、はい」




「念のため聞くが、信治さん今日は見学来るか?」




ルーファスの曇り気のない目がこちらに向く。



またいつも通り、見学に誘われた。



いつだって彼は無邪気に松尾を誘うのだ。



いつか誘いに乗ってやりたいという気持ちはあるのだが、いつもなんとなく憂鬱になる。



特に今日の心は、先程悩んだことが理由かいつも以上に薄暗い。



松尾は複雑な気持ちで誘いを断った。




そして、先に歩き出した彼の後ろ姿をじっと眺める。




あの日から、ずっとどこか後ろ髪引かれるような思いを感じている。



きゅっと胸が苦しくなった。





_次の瞬間、つんざくような破裂音が轟いた。





驚いて音のした方を見ると、街の木に雷が落ちたらしく、遠くで火の手が上がっていた。




空には気持ち悪いほどに一片の雲もない。




どこか不穏な気配を感じて、松尾は思わず後ずさった。



しかし、クラリッサは「行きましょう。消火に人手が必要かもしれないわ」と言い、二人の手を引いて現場へと走ったのだった。

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