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夢想罪

作者: 小泉九十九

「先生、また夢を見ました」


毎週金曜日になると、その男は私の元に受診しに来た。

その男の話によると、夢の中で自分が犯罪を犯しているというのだ。その犯罪というのは窃盗や詐欺というものではなく、殺人らしい。

その殺人がどうもリアリティがあり、不安に押しつぶされてしまうそうなのだ。それでこうして毎週見た夢を私に報告し、対策を伺いに来ているのだ。


「田中さん、では今回の夢について落ち着いて話してもらえますか?」


「はい・・・。また、やってしまいました。殺人です。先生、私はもうおかしくなりそうです」


「田中さん、落ち着いてください。殺人は夢の中の出来事です。決してあなたが実際に殺人を犯している訳ではないのです」


田中はすでに夢の中で3人の命を奪っているらしい。その3人は、夢の中で顔が黒くなっており、誰だかわからないそうだ。


「そうですね・・・。そうです。僕はやってない。やってないんですよね・・・」


「そうです、落ち着いてください」


どうやら田中は夢での殺人に相当参っているようだ。わずかでも良いので田中の症状に変化をつけたいところだ。

田中は深呼吸をし、今回見た夢について話し出した。


「今回も相手の顔は真っ黒でわかりませんでした。ただ、相手は女の方でした。場所はおそらく、彼女の家の中だっと思います。彼女はテレビを見ていて、私には気づいていません。お酒を飲んでいたようでした。夢の中の私はそれをチャンスだと思い、持っていたナイフで彼女を・・・」


田中は気分が悪くなってきたのか、それから一言も話そうとはしなかった。


「田中さん、無理なさらないでください。話していただき、ありがとうございました」


夢の中の話とは言え、田中にとっては現実に起きたと等しい体験をしているのだ。私は少し気を使って、夢占いの話で場を和まそうと試みた。


「夢占いをご存じですか?夢占いでは、殺人は普段溜め込んでいる不満、つまりストレスが原因とされています。田中さんが普段溜め込んでいるストレスが夢の中で殺人という形で発散されてしまっているのです。何か最近ストレスを感じることはありませんか?何でも良いです」


田中は唐突な夢占いの話に戸惑い、歯切れ悪く答えた。


「・・・そうですね。最近はやはり夢の問題が解決されないことがストレスかもしれないです」


私は少し頭に来た。それはつまり、私の診察に対する不満ということなのだ。確かにまだ夢の問題について解決策が見つかっていない。田中にももう少し粘り強くなってもらわなくては困るのだ。こういった問題は、すぐ解決できるというものではない。


「確かに、この問題は田中さんに深刻なストレスを与えていますね。田中さん、少しずつで良いので解決策を一緒に探しましょう」


それから、田中と夢への対策として、どうストレスを軽減していくか考えた。初めは、寝る前にスクワットや腹筋などの軽い運動をしてみるということにした。


「・・・わかりました、さっそく今日から実施してみます」


田中は煮え切らない様子だったが、今はいろいろ試してもらうしかない。このようなケースは前例がないのだから・・・。





私は今日の仕事を終え、スーパーでお酒と今日の夕飯を買って帰った。


ップシュ!


缶ビールの蓋を開け、まずはお疲れ様の一杯。


私は毎日お酒を飲まなければ、やってられなかった。毎日、毎日よくわからない受診者たちの言葉に耳を傾け、解決策を考え、うまくいかなければ責め立てられ・・・。

仕事のストレスの反動が私にお酒を飲ませた。


酒を飲みながらテレビでも見ようと思い、リモコンを手に取り、赤いボタンを押す。

丁度ニュースが放送される時間だった。


「先週から行方不明となっていた男性がR市のE山で遺体で発見されました。男性は会社員、46歳、鈴木丸元さん。先週から行方が分からなくなっていました。鈴木さんは鋭利な刃物で刺された形跡があり、警察はこれを殺人事件として捜査する行方です」


まったく、最近物騒になったものだ。せっかく仕事を終えたのにこんな暗いニュースは見ていたくない。私は長い髪を後ろからかき上げながらチャンネルを変えた。


チャンネルを変えるのにテレビの方へ前のめりになると、なぜか私の影が濃くなった。

いや違う。私の体を照らしていた光が何かによって遮られているのだ。




おかしい、この部屋には私しかいないはず・・・。


気づいた時には既に遅かった・・・。

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