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第九話 火の精霊の火力で焼き物を作る

 椿の雨対策が必要だ。

 火の精霊である彼女にとって、雨は天敵である。ほら穴を作りはしたが、突然の雨などには間に合わない可能性もある。傘を作れれば良いのだが、構造がよく分からん上に、火竜の手先は器用ではない。


 現状は、ユズ達が火竜島に持ち込んだ鍋をひとつ借りているが、大きくて重い。皿はあるのだが、茶碗のような物はなく、椿が被るのに適当なものが無い。


 無ければ作る。


 幸いにして、ここは火山島である。花崗岩は至る所に有り、それが風化して植物などの有機物と混ざって粘土となる・・・・・・で良かったかな? 林にまで足を伸ばせば、粘土の入手は簡単だ。ただ、量はそんなに得られないかもしれない。ともかくも、まずは椿が被る分が作れれば良い。次に島で少人数が使う分で足りるか。


 粘土を確保したら、川の水と混ぜながら形を作っていく。

 うん、オレ無理。手が届かない。ユズ達にやってもらう事にした。


「ふふふ、任せてください。カミン王家の芸術性を見せてあげましょう」

「ぼくもやるー」

「私も手伝いましょう」


 ユズとキノト王子だけでは、カミン王家の威厳に関わるのか、ハーサ王妃も参戦してくれた。王族全員が参加してくれた。


「王妃様、そのような事は我々~」

「はいはい、コリン隊長、他にも仕事あるでしょ。それに、穴窯作らなければいけないんで、こっちにも兵士回してね」

「ぐっ」


 嬉々として土いじりに熱中するユズ達。一番熱を入れているのはキノト王子か。あの年齢の子供だと、土いじりは嬉しいものなのだろうか。そういうのはもう少し年齢下の子供な気はするが、この島に来るまで王宮暮らしだったろうから、珍しいのかな。


 侍女達は食料保存や下ごしらえ、コリン隊長と兵士数名は巡回かつ地図作り。護衛に残った女性兵士のサンも陶器作りに借り出されている。残りの兵士を連れて、窯の適地を探す。遠くに行けば適地はいくらでもあるんだろうが、あまり拠点から離れ過ぎても、使い辛くなるだけだ。


 うーん、地面は岩で土の部分は少なく、その部分も掘れば硬い地層に当たる。拠点にしているような場所は少ない。遠征するか、強引に岩を削って穴を掘るか。


 火山を見る。

 山の斜面ならば、掘れるしちょうど良い。だが、火竜の産卵地に近くて触れたくないのと、拠点からは遠すぎる。そこまで行かなくても、もう少しだけ探索範囲を広げよう。拠点から数キロ範囲に拡大して、候補地を探した。以前にコリン隊長たちの探索により、発見されていた数箇所の候補地を見て回った。そして、検討を重ねた結果、数キロ離れた地点にある斜面を選んだ。

 うーん、まあ、ここでいいか。

 遠いけど、火山よりかはマシだ。


 川からも随分と遠い。海の方がまだ近いな。それでも数キロある。硬い地層、岩か何かに当たった場合の、加熱・急冷がやり辛いな。木桶で海水を・・・・・・数キロだと、運搬が大変だな。


 ともかく、掘ってみる。しばらくは掘れたものの、すぐに硬い地層に当たる。その時点で日が傾いたので、今日はそこまでにした。翌日は、鍋を二つ借り受けて、水を入れて向かった。少しだけ掘った横穴に、オレと桜と椿で加熱して、水を掛ける。何度か繰り返して、掘削を続ける。


 拠点の横穴のような大きさも広さ要らない。入り口は狭い方が良い。奥は広い方が良いのだが、そこまで手を付けられない。原始的とも言える、小さな穴窯を作り終えたら、そこでまた日が暮れた。

 更に翌日。天日干ししていたユズ達の力作を窯の中に入れて、焼く。いや、焼くというより熱する。オレ達限定の秘儀、火の精霊・椿による焼成だ。


 窯の中に椿が入ると、窯に蓋をする。そして、椿が熱を発する。火の精霊の熱は、別に酸素を消費しているわけじゃない。燃えている割に。酸素がなくても燃えるものは燃える。例えば、ナトリウムを水につけると燃えるものだし、水中花火なんてものもあるのだ。


 火の精霊としては、自身が燃えているか、近場に火があれば良い。おそらくだが、ナトリウムが大量にあれば、水中遊泳すら可能となるだろう。用意するのは無理な上に、やはり水の中というのは、嫌がるだろう。


 念のため窯の外でも火を灯しておく。空を仰いで見るが、白い雲がまばらにあるだけで、雨は降りそうにない。

 念話をしながら、中の椿と状況の確認をしていく。念話と言っても、椿は明確にはしゃべれず、なんとなくの「はい」か「いいえ」だけしか反応が無い。ただ、それでも出来具合の確認は十分だった。同行しているウココには、その記録をお願いした。それにしても、かなり反則な窯焼きである。煙突も作らなかったし。


 焼成は3時間で終了し、窯の蓋を開けて椿を外に出した。拍手で出迎えられた椿は、やりきった顔をしていた。その後はゆっくりと冷まして、出来上がりを待つ。取り出せたのは夕方になってからだ。焼成は出来上がったものの、残念ながら全部何がしかの割れが有った。特にユズのそれは真っ二つだった。


「ああー! 私の力作が、カミン王家の芸術がー!」

「ユズに芸術は無理と言う神からのご請託だな」

「そんなわけないじゃないですか。私はカミン王家を代表しているんですよ」


 ユズにカミン王家を代表して欲しいとは、誰も思わないだろう。


「まあまあ。ユズ、落ち着きなさい。割れていても、色合いは良いではないですか」

「はっ、そうね。良い出来よね」


 ハーサ王妃の宥めが功を奏したのか、すぐに復活した。

 一方、キノト王子のも欠けている椀だが、出来た中では欠けは少ない。才能有るんだろうか。カミン王家の芸術力は、ユズよりもキノト王子に託されているだろう。キノト王子は自身が作ったモノに喜び、それを椿に差し出した。


「椿ちゃん、これ上げる。大事にしてね」


 椿は端が欠けた椀を満足そうに被って、飛び回る。これは、当初の目的は達成したという事で良いかな。椿用の雨具は出来上がった。


 しかし、陶器作りとしては上手く行っていない。何故か。

 最初だからこんなものとも言えるが、考えられるのは、天日干しの時間が短かったか。あるいは、粘土の形作りが歪だったか。そもそも、粘土材質が不均一だったか。いや、温度の上昇をもっとゆっくりすべきだったか。水分が抜け切らないうちに高温にしてしまっただろうか。指揮を執ったのはオレだ。オレの失敗かなあ。


 今後の試行錯誤によって、それらを判別して行くか。しかし、これで陶器作りに目処が立った。雨水を溜めるための壺とか瓶とか、色々入用だろう。椿の消耗度も考えれば、再々やりたくは無いが、必要なものは早めに揃えたくもある。


 急ぐ必要があった椿用の椀は出来たのだから、他は早急にってわけじゃないか。それに水漏れを気にしないでよい物ならば、野焼きで作ってもいいだろう。ま、ゆっくりやろう。

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