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第八話 刹那の必殺王女様

 本日は晴天なり。

 雲ひとつ無い晴天である。

 オレと桜、椿、ユズ、コリン隊長とサン、ウココのメンバーで林を進む。大熊と遭遇した林だ。目的は火山に登り、火口に放置していたタマゴの殻の回収だ。


 中身の入っていない殻だけだが、火竜のタマゴの殻は貴重で、大陸では高値がつくらしい。ただ、それ以前に材料として欲しかった。硬い代物だから、なんとか銛先にならないかなと、それにタマゴの殻ならば錆びることはないだろう。


 回収用のカゴさえ借りられれば、オレ達だけで良かったのだが、ユズが山登りをしたいと無理矢理に同行してきた。また、ユズの護衛兼地図作りにコリン隊長他2名の同行となった。コリンは剣を佩き、他2名、サンとウココは身長より短い槍を背負って簡略地図を描きながら歩いている。


 この世界、紙あるんだなー。


 林を抜け、川を渡ったところで昼食とした。食料はカゴの中に入れていたものを先に食べる。カゴ以外にも、コリン隊長達が携行しているものがあるが、こちらは帰り様だ。先にタマゴの殻を入れるカゴの方を空にしないとな。


 食事を終えて森の中を進む。地図描きは中断している。周り全て木ばかりでは、描きようもないだろう。


ズルリズルリ


 早足で森の中を進む一団。周りの状況に気を配る意識が薄れていたのだろう。何かいるのに気付いた時は、かなり接近されていたようだ。


「止まれ!何かいる!」


 念話で全員を止める。声を出さずに会話できるので、静かに動けるのは、利点であろう。

 早速、ユズを中心に陣形を組む。ユズは杓丈を構え、コリン隊長達は剣を抜き、サンとウココは槍を構えた。


 音はする。何かの音。だが周辺は木々のみ、虫がうっとおしく飛んでいる。妙な匂いもしない。ただ音だけが不気味にしている。


 ガサリ


 近くでした音、これは、


「上だ!」


 木の上からそれが飛び掛ってきた。口を大きく開けた大蛇だ。


「ぴぃーー」


 それを見た桜が頭を伏せて怯えだした。タマゴの時の記憶か、トラウマが刺激されたようだ。


「くそっ、この野郎!」


 悪態をついて火を吐くが、大蛇は器用に避けた。くそう、ブレスの射程が短いのか。だが、コリン隊長が反応した。大蛇が回避した先を見据えて見事に剣を振り当てた。


 キシャー


 ダメージを受けた大蛇に対して、サンとウココが槍を突き出す。


 ズサッ、ズサッ


 更にダメージを受けた大蛇は身を翻した。逃げるか。

 止めを刺すべきか、逃がした方が良いか。桜が伏せってしまっている以上、置いて追撃はしたくない。


 油断


 大蛇は一度身を縮めたが、そこから跳ねて飛び掛った。逃げる様子を見せたのは、フェイクか。思いっきり騙された。


 奴の目標は、ユズだ。まずい。誰もがほっとして動けない瞬間を狙われた。

 野生の危機管理能力か、オレはその時金縛りになった。オレの瞬発力とパワーならこの状態からでもまだ大蛇を噛み伏せられるはずだが、芯の底から危機を感じた。


 ユズは驚きからか目を見開き、それと共に杓丈の一方を地に刺した。


 カツン


 石の上だ。そして杓丈の先を切迫した目の前の大蛇の口に向けた。


 ズシャアー


 大蛇は避ける事が出来ずにそのまま杓丈に突っ込み、自分から脳天を貫いた。


「きゃあああー!」

「姫!」


 ユズは杓丈を放り投げ、腰を抜かしてあたふたとその場を離れようとした。コリン隊長が追いつき、ユズを抱き寄せる。オレの金縛りは解けた。もう、危機は全く感じない。


「ウココ、サン止めを刺せ!」


 コリン隊長の命令に、ウココとサンが必死に槍で突き刺す。やがて、大蛇は動きを止めた。


「はあはあ、危なかった、運が良かったです」


 ユズのその言葉は嘘ではないと感じる。だが、あれは運ではない。間違いなく、オレはあの時のユズに戦慄させられた。


 ・・・・・・今後、ユズには逆らわないようにしよう。



 早々にその場を離れることにした。桜が大蛇に参ってしまっているし、大蛇の血の匂いが何かを呼ぶかもしれない。大蛇の肉や皮はおしいが、これから山登りなので邪魔になる。だからと言って、帰りに取るのもどうか。オレ自身も早く離れたいし、再び来る事も避けたい。大蛇はオレも苦手かな。


 やがて、森を抜けてそこで一泊することにした。日はまだ高いが、寝床の準備は早めにしておこう。山を少し登ったところで野営の準備をする。野営予定箇所の周辺を、オレと桜で掘った。


 大蛇対策だ。


 大蛇が怖かったのか、桜がかなり頑張って、即興で作ったにしては大き目の堀が出来た。そこに砂利を入れておく。これで大蛇が入ってこようとしたら、音がするだろう。しかし、差岩にもその日はそれ以上は何もなかった。翌日の山登りも順調で、昼前には頂上に着いた。


「おー・・・」

「クアー」


「あっ、あそこが、みんながいるところですね」

「魚獲った海はあそこかー」

「結構広いですね」

「ウココ、サン地図を描け」


 頂上で一休みしたのち、オレと桜と椿はタマゴの殻の回収に向かった。ウココとサンは眺望を地図に書き写し、ユズは一休み、コリン隊長は周辺を警戒していた。ここでも大蛇が出たからね。


 タマゴの殻の回収は無事に終わった。風雨に晒されていたし、大蛇は出る場所だし、殻が無くなっている可能性もあったが、ちゃんと2つ回収できた。欠片になっている部分も無事に回収した。これは銛の穂先の有力候補だ。


 オレと桜はカゴにタマゴの殻をそれぞれ入れて背負い、皆のいる頂上に戻って来た。そこでまた一休みをする。まだウココとサンの地図作りが終わらない。いや、これ、島の全貌描いていたら、いつまで経っても終わりはしないんじゃないか? コリン隊長が恨めしそうにしていたが、途中で止めた。


 地図は軍事上機密情報になるんだっけ。それを欲しがるのは、どういう了見だろう。と言っても、火竜対人だと軍事的な策動にはならないだろうから、意味は無い。食糧生産、農業漁業やるにしても必要な情報ではあるが、あんまりそれを拡大されても困る。

 ・・・・・・オレ達火竜と友誼を結んだ事が分かれば、カスボ派が攻めてくる。その可能性でも懸念しているのだろうか。


 下山は特に問題なかった。大蛇の再来を警戒したが、警戒だけに終わった。山を降りて、前に利用した野営地で一泊した後、今度は川沿いに下って拠点に戻った。ウココとサンの地図もそこそこの精度になっただろう。


 戻ったあと、ユズは勇んで大蛇討伐を吹聴した。


「こう、大蛇が飛び掛った時に、私は臆せずえいやっと杓丈で突いて・・・」

「もう、危ない事はしては駄目よ」


 話半分に聞かれて、ユズは不貞腐れた。コリン隊長が、ユズが止めを刺した事を説明したが、それは偶然に近いという説明だった。


「もう、私が止め刺したのは事実よ。こう、えいやっと」


 ユズは言葉に合わせて杓丈を突き上げる動作をする。あまり鋭さの無いその動作では、とても大蛇を仕留める事は出来ないだろう。実際に、ユズの筋力で突き刺して倒すのは無理だ。アレは、大蛇から飛び込んできたから出来た事だ。

 このユズの動きは、はたから見れば微笑ましい一面だろう。そして、どうやら当人も偶然と言う認識のようだ。


 だが、オレは知る。アレは確実に大蛇を仕留めに行った動きだと。オレは、回収したタマゴの殻を磨きながら、遠くを見てそしらぬふりをした。

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