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第七話 火竜改めペンギン 断じて鵜ではない

 海である。洋上に船は無い。

 ユズ達が火竜島に来た時に使った船は、次の入植者を呼ぶために既に大陸に戻っている。


 オレと桜。火竜二人で並んで海をみている。桜は波におっかなびっくりだ。オレも事前知識がなければ、驚いていたのだろうか。椿とユズ、ハーサ王妃ととキノト王子は後方で構えており、その護衛としてサンとウココが付いている。


 ばさりばさり


 オレは背中の翼を動かし、調子を測る。

 まあ、なんとかなるかな。


「それでは行って来る。みんなはここで、貝を採っていてくれ」

「コ、コクヨウ、本当に泳ぐの?」

「おう、行ける行ける」

「火竜って泳げるんだー。初めて聞いたよ」

「はい、ユズ様。火竜が泳いでいる目撃情報はありません」


 椿は首を傾げている。海から一番遠くに配置したが、彼女がいつの間にかフラフラと前に来ていた。波に近づき、驚いて下がった。


 あぶない。


 すいっと、後ろに下がり、用意されていた鍋の中に逃げ込んだ。連れて来るのはまずかったかなあ。しかし、獲った魚を干物にするのに、手伝ってもらいたいからなあ。・・・・・・いつまでも鍋じゃまずいなあ。なにか椿用の傘か合羽か・・・・・・燃えない奴でなんか作らないとなあ。


 海の様子をもう一度確認して、荒れていないのを確認したら、ウココから急造の銛を受け取る。島に落ちていた黒曜石を割って、尖った部分を木の枝の先端につけたモノだ。簡易もいいところだが、数本用意しているので、これでなんとかなるだろう。


 オレはゆっくりと海に入って行った。みんなが見守る中でゆっくりと海に帰っていく怪獣・・・・・・夕方だったら、なんかのワンシーンだなあ。


 海に顔を入れて、目を開く。

 問題はないな。


 ゆっくりと泳ぎ始める。しばらくして、慣れたら一気にスピードを出す。足をバタつかせるのと一緒に翼を羽ばたかせる。鳥類であるペンギンは空を飛ばないが、海を飛ぶ。スピードがついたら翼を折り畳み、勢いのまま進む。


 海の中には様々な魚がいる。その中で大き目の魚を狙い、直進し銛を突き刺した。

 魚が取れた。

 これで、挑戦して三度目である事は、この際小さな事だろう。浜に上がって、獲った魚をサンに渡す。


 ふう


「最初だから試しではあったが、それでもあまりペースは上がらないな。網が欲しいところだけどなあ」

「網は持ち込んでいません。先に大陸に戻った船に頼むのも忘れていますね・・・・・・」

「仕方ないか。今度機会があれば頼んでおきたいね」

「そうですね。次は頼んでおきます」


 再び海に潜り、魚を突き刺して浜に戻ってきてウココに渡すという行動を繰り返した。


 一匹ずつ、一々帰っていては効率が悪い。銛に魚を刺したあと、帰り際に小魚狙って口を大きく開けて捕らえてみた。数度試して、なんとか魚群に突っ込んだ際に小魚を咥える事が出来た。


 フゴフゴ


 しまった。息がし辛い。顔を海上に上げても鼻でしか息が出来ない。鼻だけでも息が出来れば十分なのだが、口を閉じるの意識している中ではきつかった。慣れの問題もあるんだろうが、やり辛いな。


 あっ


 波が顔に掛かった。空気を吸おうとしたタイミングで鼻に海水が入る。


 ぶへっほ


 鼻で吹いたが、なんとか口を開かずに済んだ。半泣きになりながら、なんとか浜にまで戻った。苦労はしたが、銛で刺した魚と、口に入れた小魚を持ち帰ることが出来た。


 ぺっ


 小魚を吐いた。


「ふへー、酷い目にあった。だけど、小魚を追加で持って来れたな」


 なんとなく、日本の知識にある鵜飼いを連想したが、気にしないでおこう。だが、それを見たユズは顔を歪めて嫌そうな顔した。


「汚い」


 がほっ!


 オレは打ちひしがれて横たわった。桜と椿はよく分かっていないようだった。


「えっ、いえ、ユズ様。ほら、海水も一緒に含まれていたので、涎とかついていませんよ。そんなに汚くは有りません」


 ビクリ


 サンがフォローという名の止めを刺してくれた。なんと言う事だ。火竜であるオレは鵜にもなれなかったのか。オレはしばし、心と体を休めた。ずっと泳ぎっぱなしだったからなあ。


 桜達が貝を掘っているのを眺めていた。また、ウココとサンは魚を開いて干し、椿がそれを炙って乾かしていた。


 日が真上に来た時、それぞれの作業を終えて、昼飯とした。まだ干していない魚に海水を掛けて、椿に焼いてもらった。持ってきた芋は砂浜に埋めてから、火で炙る。焼き芋状態にして、温めておいた海で洗って砂を取るとともに、塩味をつける。鮮度の良い魚は美味かったし、塩味の効いた芋も満足した。


 食事が終わると、銛を換える。黒曜石と余った枝で作っただけの銛の耐久は低い。既に数本が駄目になっている。錆びてしまいかねない鉄製の槍を使うわけにはいかないからなあ。


 午前中は慣れる事を優先させた。本格的に獲るのはこれからだ。ウココに木桶を持って海に入ってもらう。桜達の貝堀りは午前中で終了してもらい、椿と一緒に魚を干して乾かす方に回ってもらった。貝の獲り過ぎを懸念するのは、日本の知識に毒され過ぎだろうか。さすがに数人程度は影響しないはずなんだけど。


 オレは海中を飛び、獲物を銛で刺す。ペンギンだ、オレはペンギンになるんだ。ペンギンマスクとかあったっけ。水中プロレスとかあったなら、虎よりペンギンだよなあ。

 オレは多分、世界初のペンギン型火竜だな。いや、水竜とて、あれも泳いでいるに過ぎない。飛べるオレの方が速い。決して鵜ではない。


 慣れた事もあるが、火竜の速度に魚は反応出来ない。次々と獲っては、ウココのところに行って木桶に入れ、また潜って獲る。これを繰り返し、木桶がいっぱいになったら浜に戻って、桜とユズに渡して魚を渡して銛を交換する。午後いっぱいはこれを続けるつもりだったが、その前に銛が尽きてしまった。

 オレとウココは河口で海水を洗う。その後、全員で大量の干し魚を何度か往復して拠点に運び入れた。


 オレ達がいない間に、拠点は整備されていて、ほら穴の補強も進んでいた。食と住の確保が一段落した。これで、雨に降られても大丈夫だろう。

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