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第六話 火竜改め土竜

 翌朝は早々から雨だった。勢いの良い雨で、横殴りも混じる酷い雨だった。

 あたふたとするコリン隊長たちは、ユズ達王族を濡らさない様に苦戦していたが無駄だった。

 ハーサ王妃は自身が濡れるのは気にしていないが、ユズとキノトを濡れるのは気にしていた。


 だが、結局は濡れてしまう。天幕が飛んでしまったのは痛い。オレ達火竜の体躯も壁にはならない。身長は成人男性とさほど変わらないから、大きな壁にはならない。コリン隊長よりかはマシと言う程度か。


 そのオレと桜は鍋を逆さにしてずっと持っている。火の精霊である椿は、濡れると大変なのだ。小雨程度ならば問題にならないが、ここまで酷い雨だと危険なのだ。下手をすると消失してしまうとは、桜の談だ。いつもは陽気な椿も鍋の中で震えていた。オレは鍋を持つ以外に何も出来ず、ただ空を仰いでいた。


「あー・・・・・・」


 ポッ


 試しに火を吐いてみるが、湿気っているのかつかない。


「あー・・・・・・」


 何も出来やしない。


 雨はやがて上がって、朝も明ける。気温が不安定な時に降った様だ。雨が上がった後も、全員あたふたとする。飛んでしまった天幕の回収と、濡れた人たちを乾かすのに、てんてこ舞いだ。幸いにして、この火竜島は暖かい。火山の影響か、赤道に近いのか、海流が暖かいのか。乾かしてしまえば、風邪も引かないだろう。


 乾かすために、椿とオレ達で火を出した。ほとんど濡れてしまったため、火をつけられるそうな物がない。乾いた布の確保はいくつか出来たようだが、全員分は無い。なんとか全員乾かして、やっと一息つけたのは、日が高くなってからだ。


「さて、風雨を避けるのはどうする予定だったの?」

「温暖な島ですから、当面は天幕で、そこから島の木を使って家を作る予定でした。ここまで雨に降られるとは思いませんでした」

「う~ん・・・・・・」


 王族が居るのに、その対応ってどうなの? と言うのは、もう今更か。刺客を送られていないだけ、マシなのかね。


 オレ達としては、別に彼らと一緒に行動する必要はないかもしれない。桜とオレだけならば、雨に降られようが大した事はない。だが椿はまずい。鍋を持ってうろつくわけにも行かない。


 空を見上げて、雲の様子を伺う。さっきの風雨は嘘のように晴れてきている。雲は火山の方に掛かっている分だけだ。

 火山に退避するのもまずいか。頂上付近ならば、雲の上になるかもしれないが、そこまで行く前に降られると厳しい。彼らと協力をして、風雨を防ぐとしても、布製や木造は拙いか。

 椿は火の精霊だ。

 延焼してしまう可能性も考えなければいけない。こっちの人はその辺のところ、大雑把なようだけど。


 今回はしのげたが、それも早々に雨が上がったくれたからだ。次はもっと長くなるかもしれないし、川の氾濫もあるかもしれない。何らかの対策をしておきたい。次に大雨が来るのは、早ければ今夕か。場合によっては、昼間のうちか。

 即興で風雨を避けるには・・・・・・


「よし、穴を掘ろう」

「穴ですか?」

「ほら穴だな。横穴。どこか良さそうなところを選んで、火竜の力で強引に掘ろう。それが一番早く風雨を防げるだろう」

「協力頂けるのでしょうか」

「こっちも、必要だからな」


 椿の方に目をやる。椿はまだ布を炙って乾かしている。そばには火を吐き疲れた桜が、まだ鍋を抱えて伏せっていた。


「こちらの方が、協力して欲しいが、そっちはそれで良いか?」

「はい、今回のような事は私共も避けたいです」

「おっし、まずは場所の選定だな。天然の洞窟が有れば楽なんだけど、どうかな」

「洞窟自体は、海岸に幾つかありますが、いずれも小さい上に、満潮時に水没しそうです」

「残念だな。仕方ない。やっぱり掘るか」


 手の開いた兵士で周辺を探索してもらう。彼らが上陸して数日経っており、周辺探索もある程度していたとのこと。その結果、水場の川近くを選んで天幕を張っていたわけだ。それまでに小雨程度の通り雨が何度かあったが、今朝ほどの風雨はなく、油断したらしい。


 オレと桜と椿、そしてユズに女性兵士一人男性兵士一人は連れ立って林にまでやって来た。横穴を掘った際の補強材が必要なので、そのための木材を取りに来た。なお、唯一の女性兵士はサンという名前で、男性兵士その1はウココという名前との事だ。


 用意されていた斧は一つしかない。ウココとかわりばんこで伐ることにした。オレは斧を片手でしか持てなかったが、それでもなんとか伐り倒す事が出来た。竜の手って短いなあ。柄がもっと長ければ、扱えたかな。


 同行したユズとサンは、燃料用の枯れ木を集め、桜は食料用の芋を掘り返していた。枯れ木は濡れていたものの温暖な気候のおかげか、乾くのは早かった。椿は桜の周りを廻っているが、桜が背負っている鍋からは一定の距離を保っている。今朝の雨には随分と懲りたようだ。


 丸太を10本伐り出して、それをオレと桜で引きずって一応の拠点である川原まで運んだ。ユズよ、丸太の上に乗るな。


 作るのは、ほら穴・・・・・・防空壕かな。予定地は川原から数キロ程度離れた小山だ。

 まずは入り口部分を掘る。あまり大きく掘ると崩れ易くなる。風雨を避ける事が第一なので、居住性とかは考えない。自分の体格で入れるくらいの大きさならば、大丈夫だろう。


 入り口部分を高さ1m半、幅2mで掘った後は、コリン達で崩れないように木枠を作ってはめるその後、またオレが深さを求めて掘る。水が流れ落ちるようにして、奥に溜まらない様にするために、少し上向きに掘る。形は多少歪でも、整地はあとでするとして、ともかくほら穴を作っておきたい。


 1mも掘り進まないうちに、


 ガリッ


 と掘っていた手から音がした。硬い地層に当たったようだ。手の先を舐める。ちょっと痛い。


 火山島だから、花崗岩あたりだろうか。一旦、掘るのを止めて、外に出る。

 シャベルとか少なくてもスコップとかがあれば良いのだが、そもそもこの世界にそういうものはないらしい。この島に持ち込んだ鉄器も多くはなく、斧と天幕用の鉄柱、剣と槍程度だ。


 う~ん。


 火竜の力で殴る。多分、壊せるが、一緒にほら穴が崩れそうだ。

 斧で削る。時間が掛かりそうだなあ。

 斧をシャベルの様に使う。壊れそうだな。斧を使うのはどの道駄目かな。元々、木を伐り倒す用で、岩の掘削など向いてはいない。


 シャベルも厳密には掘削用じゃないけど、アレ頑丈だしなあ。雑な扱いしても大丈夫な奴って、便利だよなあ。


 仕方ないので、椿とオレで熱してから水を掛けて急冷して脆くしてから掘る方法を取った。

 ・・・・・・蒸気がやばかった。


 うん、失態失態。


 水を掛ける時は念のため椿を外に退避させたが、オレはそのまま穴の中で水を掛けてしまった。

 蒸気が熱い。慌てて穴の外に逃げ出した。オレは耐熱性の高い火竜だ。この程度などなんともないと過信してしまった。高熱というよりも蒸気がやばかった。息が出来ん。


 いや、蒸気の事を全く忘れていたわけじゃないよ。穴なんだから水を掛けたら蒸気が篭るのは当たり前じゃないか。ユズの目が怪しかったが、そしらぬふりをした。


 数度、熱して急冷をしてやっと硬い地層を掘る事が出来た。掘り出した土の色は白を主体に黒い部分が混じっていた。


 う~ん、やっぱり花崗岩あたりかな。


 風化すると崩れ易いんだっったっけ? やっぱりあんまり深くは掘らない方が良さそうだな。


 掘りが詰まるごとに、熱して外から水を掛けて、蒸気を抜いてからまた熱してを続けた。そこそこ掘ると、外から水を掛けるのは無理になり、オレが穴に少し潜って水を掛けた。水を掛けてすぐ退避、これを続けてやっと5mほど掘り進む事が出来た。


 10人全員が座れて、椿も入れるのならば、この程度でも十分だろう。残念ながら、オレと桜は無理だ。まあ、オレと桜は風雨に晒されても大丈夫だろう。今朝の奴でも晒されたが、特に問題なかった。一番の懸念だった、椿の場所が確保できたのならば、十分だ。


 あとの作業はコリン達に任せた。木枠を作って、ほら穴の補強を淡々とこなしていく。日は欠けてしまい、今日の作業は終わってしまう。夕方に早速雨が降ったが、小雨の通り雨で済んだ。椿は早速ほら穴に逃げ込んだが、直ぐに止んだので、何か消化不足で残念そうだった。余裕が出てきたのは良い事だろう。


 ほら穴を中心に、天幕を張って食事にする。芋と貝、そして大陸から持ち込んだ保存食だ。昼とあまり変わりない。


 食事どうするかなあー。


 明日は魚でも取るかなあ。と思いつつ就寝に入る。当然、ほら穴では寝ない。崩れないとは思うが、寝ている時に崩れられると死にかねん。もっと補強をしないと危なっかしいし、雨が降らなければ入る必要もない。こうして、この日は終えた。

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