第四十四話 土の精霊トパズの家作り
過日の台風で今までの家は吹き飛んでしまった。現在は簡単に作り直しているだけだ。そろそろ本格的に家を作らないといけないだろう。しかし、再び木で作ってもまた吹き飛ぶだけだろうし、石造りにするには少々危険だ。
台風に吹き飛ばされずにすんだ石垣を見る。
台風には耐えたし、間単に崩れるわけではないが、ここは火山島で地震の警戒が必要なので、高く積むのも居住スペースの近くにするわけにもいかない。また、無骨に積み上げているので、壁面が平たくないのだ。突起がそこかしこにあるため、ぶつかってけがをしかねない。これを家の壁にするのは無理があるだろう。
さまざまな検討の紆余曲折の末、土の精霊トパズに協力をしてもらって、土作りの家を作ることにした。これならば万一崩れても危険性は低いし、台風に対しても頑丈だろう。
まずは、地面に図面を描き、壁の部分に大八車などを使って土を盛り上げていく。キノト王子が土壁のイメージをして、それをトパズが形成する。そうやって土壁が作られていった。
土壁には、地面から伸びるように草花の文様が描かれている。キノト王子のイメージによるものだ。彼はこういうのが好きなようだ。
順調に思われた土壁作りだが、1mの高さが限界のようだ。大地から離れ過ぎると、大量の土を操るのは難しいようだ。そういえば椿やサファイアは空中に浮いているというのに、トパズはずっと地面を歩いている。土の精霊ゆえの特徴なのだろうか。
しかしこれだと、ほら穴を改造した方が良かっただろうかと思いはしたが、ほら穴はほら穴で石が多く、これもまたトパズにとっては操りづらいようであった。
いくつかの思案の中、大地から離れていなければ、トパズの能力が効く。地上で上部の壁と屋根部分を作ってから積み上げることにした。この手の組み立ては”日本”で見られるアイディアでもあり、こちらの世界でも大型船の建造方法でもあるとの事だ。以前に発注した大型船の上部の作り方もこれらしい。さすがに、輪切り方式は採用されていないようだ。木製だし、あれって溶接前提だったっけかなあ?
しかし、家作りには輪切り方式が採用された。上部の壁や屋根を大地で作るのは良いが、持ち上げるのが厄介だ。火竜のオレと桜だけで、これを持ち上げるのはバランスが取れない。土で作る以上、落とせば割れる。それでなくても、持つだけでもボロボロと崩れてしまう。
手がちょっと短いから、持ち上がらないとかそういう問題ではない。輪切りで、ひとつひとつ作っていけば、もし一部分を落としてもやり直しは容易だ。一気にやるよりは軽いので、扱いも楽になる。安定を取っただけだ。
大地の上で上部の壁を形成して、日干しをしてから引き揚げ作業をした。材木と同じように、サファイアと椿に水抜きをしてもらう事も考えたが、陶器のように割れ易くなっても困る。ある程度は水分がないと、弾力性に欠けるんじゃないかと、水抜きはほどほどにした。上手く行くかどうか、ためしだ。
レンガ造りが出来れば良いのだが、材料の量に不安があるし、石造り同様に崩れた時が怖い。
こうして、家の上部の壁を載せていき、接着には粘土と貝殻を粉にした簡易のセメントを使った。
屋根部分は難しかった。接着剤が乾くまでオレが下から支えていなければいけなかった。しかも、これ、体勢が良くない。
ぬ、ぬおー
「コ、コクヨウ、頑張って下さい」
オレの背丈だけでは屋根には届かないので、踏み台として大きな石を持って来て、その上に乗って支えているわけだ。大きな石のために、微調整で動かし辛く、結果、屋根を支えるバランスを取るため、妙な体勢の維持が求められた。
残念ながら、他の者の助力は期待できない。土台となる大きな石を持ち込むのも大変なのだ。オレが乗るスペースしか用意ができない。桜にやってもらうには、同じ大きさの踏み台が必要だし、ウココたちにやってもらうには、高さが必要になってバランスがさらに取りづらくなる。
しかし、一部分ずつとはいえ、オレがやるにしても無理がある。重いしバランスが取りづらい事には変わりはない。
あーだこーだのあげく、下から4~5本の丸太を差し込んで支えるようにした。誰か最初から思いついてよ。と思ったが、自分も思いついていなかったので、何とも言えない。
オレと桜で持ち上げ、そのあとはオレが踏み台に登りながら屋根部分を支え、丸太が差し込まれるまで維持すれば終わりだった。最初の、あの苦労はなんだったんだろうと思うが、それがあったから、こういうやり方に行き着いたのだと自分を納得させる事にした。
こうして土作りの家の外形は数週間を経て完成した。随分と苦労をさせられたものだ。あとの内装に関しては、ユズたちに任せる事にした。オレたち火竜はそんなに器用でもないから。
出来上がった家の内部には、屋根を支える柱がいくつか並んでいた。それを見て、ふと思う。
「あれ、これ、柱を増やすか、内壁を増やしていたら、屋根部分はもっと小さくて良かったんじゃない?」
柱や内壁を増やすのは手間が増えてしまうが、屋根の取り付けにあれだけ苦労したことを考えれば、そちらの方が楽だったのではないか。そもそも、日本の屋根瓦のように、木板か何かを張って土の板をその上に置いていけば、屋根部分はもっと小さくしても良かったはずだ。今更、そんなことに気がついても、あとの祭りだが。
全員の目線が泳ぎ、微妙な空気が流れた。
ほんとうに、あの苦労はなんだったんだろう。
・・・・・・うん、次回作るときはそうしよう。次回の教訓という事で、今回はこれで良しとしておこう。