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第四十二話 逆鱗

「ふひゃー」

「ふにゃ~」


 風雨の強い日は、家でゆっくりするしかない。火竜島は今日も外は暴風暴雨だ。これまた台風かね。家を吹き飛ばされた時と比べればなんて事はないレベルだから、慌てる必要はない。オレと桜は仰向けになってユズの撫で回しを堪能している。


「火竜のお腹・・・・・・なかなか見られるモノでもないんだけどさー」


 相変わらずスゥーイは何か言いたげである。見るのは何度目かだろうに。


「動物って、お腹を見せるのは完全降伏って意味なんだけどさー」

「そうかい、完全に安全を悟っている動物もお腹見せて寝ているよ」


 失われた野生と言う奴だ。あれは降伏しているわけではない。ペット特有と見られるが、ペット以外でも完全に安全が確保されれば野生でも有り得る。まして竜ほどの強さならば、オレたち以外でも腹を見せて寝る奴もいるだろう。


「見た事も聞いた事もないさねー」

「ただ、知られて無いだけじゃないかねー」


 これはスゥーイ、いや、人間の竜研究が進んでいないだけだろう。現に完全に安全と悟っているオレたちは腹を見せて寝ている。


「コクヨウは別にしても、サクラちゃんまでやるという事は、そうなのかねー。ただコクヨウを真似ているだけでもありそうだけどさー」

「まあ、いいじゃないですか。二人ともかわいいのだから」


 そうそう。細かい事は言いっこなしで。


「いや、本来は火竜ってのは竜種の中でも攻撃的で危険なんだけどさー」

「ただの風評被害じゃないのー」


 オレだけでなく、桜もこんなに大人しいと言うのに。タマゴの時代には大蛇に食われそうになった事もあるのだからなあ。生物の頂点とか言うわけじゃない。それに、ただ火を吹いたり攻撃力が高いからそう見えるだけじゃないかなあ。性情とは関係ないところでそう思われているだけじゃないかなあ。


「火竜に滅ぼされた国も多いけどなあ」

「それ、滅んだ理由を適当に火竜になすりつけているんじゃないの」

「うーん、まあ、竜研究家の間では、火竜が滅ぼしたとされている内の9割は偽って言われているけどね」

「ほら、やっぱりそうじゃないか」

「風評被害なのかねー」


 なお、残りの1割がどうなのかは、触らずにおいた。


 隣では、サファイアが昆布茶に浸っており、雨漏りの水を制御して浮かしている。聞いてみると、海水は色々混ざりすぎていて、あまり合わないらしい。昆布茶くらいが丁度いいとの事だ。


 椿は


「ふみゃ!?」


 ユズに撫でられていると、突然痛みにも似た妙な感覚が刺した。


「あら、これは」


 痛みとくすぐったい中間の妙な感覚が襲ってくる。


「ここのウロコ、他のものとは形が違っているわね」


 こしょこしょ


 オレからは見えない位置のウロコだ。その形が違うといった部分を、ユズはくすぐっていた。


 ふひゃー


 オレはたまらず奇声を上げる。


「ユズ、ちょっと待って、そこ待って」


 さわさわ


 オレの懇願を無視して、今度はゆっくりと撫でるように触ってきた。


「ユ、ユズ王女様、それ、逆鱗では・・・・・・」

「逆鱗?」


 逆鱗、それは竜のウロコの中で一枚だけ逆さに生えているウロコで、これに触れられた竜は温厚であっても大激怒するというウロコだ。

 ”日本”のことわざにある「逆鱗に触れる」と言うモノがこちらにもあるようで、しかもその逆鱗が実際にあるとは・・・・・・


「いえ、これは・・・・・・」


 何かを言いよどむと、サファイアを見上げた。サファイアはそれに応じて頷く。なんだろうか。


「これ、病気の一種ですよ」


「は?」

「えっ?」


 オレとスゥーイが驚きの声を上げた。逆鱗って、病気なの?


「見てください。サクラちゃんにはないでしょ」


 ユズに撫でられながらご満悦な桜のウロコは全て綺麗に整っていた。逆さになっているような歪なウロコはない。


「なんらかの原因で・・・・・・皮膚病でしょうか。ウロコの形成が上手くいかなくて、形が歪になったまま成長したのでしょう。それが逆さに見えるようですね」


 空中でサファイアも頷いている。


「今はまだ強く触らない限り痛みはないでしょうけれでも、成長して周りのウロコとの干渉が強くなれば、触られただけでも痛くなると思います。トゲみたいなものでしょうか」


 なんと、逆鱗ってトゲだったのか。そりゃ、触られると痛くて暴れるわな。って、いわゆる逆鱗がそうなのかは知らないけど。


「取ってしまえば、あとは自然治癒で正常なウロコが生えてくるでしょう」


 うーん、トゲよりもイボとか魚の目とか、そんな感じなんだろうか。そんな事を考えていると、体が動かなくなっていた。


 アレ?


 オレの四肢は、土から現れたリングで抑えられている。いつの間にか、近くにキノト王子とトパズが来ていて、土を成型していたようだ。


 アレ?


「ユ、ユズ~?」


 ユズの指示のようだ。


「少し痛みますよ」

「えっ?」


 ユズはナイフを取り出して、椿に熱してもらっていた。


「ちょっ、ちょっと、治癒魔法でパッと治すんじゃないの?」

「これは、病気ですけど、ある意味正常でもあるのです。これに治癒魔法を掛けてしまうと、歪なまま成長してしまいますよ。なので、一旦切除してから治癒魔法を掛けます」

「・・・・・・麻酔とかは?」

「なんですか? それは」


 麻酔なんてものはない世界だった。


「コクヨウ、男の子でしょ、強い火竜でしょ。耐えなさい」


 みぎゃーーーーー!


 そう言えば、三国志で麻酔なしで腕の外科の手術を囲碁だかなんだかを打ちながら受けていた豪傑がいたっけ。信じられないわ。

 せっかくのゆっくりしていた日だったのに、災難な日になってしまった。

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