第四十一話 海底散歩
”日本”にはドラ○もんという漫画・アニメがある。コレに出てくる秘密道具の能力のアイデアは秀逸だ。ほとんどの能力のアイデアはここで出尽くしている言って良いだろう。当然、オレも参考にさせてもらっている。
「さすが、私のサファイアです」
先日のサメとの交戦でも役に立った、海中でのスポット作り。本日はそれを転用しての海底散歩だ。
「あー、大きな貝だー」
キノト王子とそれにくっついて土の精霊トパズがはしゃいでいる。海底散歩なんてのは、やったことは元より見たことも聞いたこともないだろう・・・・・・
「あれ?水の精霊って、存在自体は認知されているよね?」
海岸から遠目でユズたちを見ながら、傍らのスゥーイに聞いてみる。
「そりゃ、認知はされているさー。数は多くはないけど、水の精霊使いもいるし、水の魔法使いで今回のように水を寄せて避ける事が出来る魔法使いもいるでしょうねー」
やっぱり?
「しかし、こういう使い方は聞いた事はないさねー」
あー・・・・・・うん、そうだよね。やっぱり異例な使い方だよね。水に濡れることなく海底を歩くという発想はなかなかでないのだろうな。
「うん、こういう使い方は”日本”の知識によるものだよ。やっぱり異世界の発想はすごいね」
何か、スゥーイの目が疑わしい。
しかし、こっちはアレほど便利ではない。人力・・・・・・精霊力なので、海水を避けられる範囲や深さに限りがあるし、持続時間にも限りがある。ただ、浅瀬の海底散歩や落ちている貝や魚を集めるくらいならば十分だ。
しばらくして、ユズたちが戻って来た。収穫は上々だ。
「だいたい、30分くらいは問題なく持続出来るようですね」
ルーガ少尉が記録をしてくれている。
今日はそのまま、磯焼きで食事をする。先日の台風のせいて備蓄は吹き飛んでしまい、保存食がないのだ。獲ってその場での磯焼きの方が鮮度が良いから、いいけどね。
・・・・・・備蓄はやり直しだなあ。
その後も、海底散歩は続くが、ちょっと問題はある。スポットの広さや持続の問題もあるが、サファイアの契約者であるユズが必ずついていかなければいけない点だ。精霊は、つながりのある人の近くにしか存在できない。このため、引っ張りだこになっているユズが歩き回ってちょっとお疲れだ。
名づけ親であり、なんか水とも関わりのあるオレがついていけばいけるのだが、それをすると今度は広さが足りなくなる。オレが巨体のために一人半か二人分を占めてしまうため、同行出来るのは一人が限度である。それだと、貝や魚の収集に手間取ってしまう。どうしたものか・・・・・・そうだ。
「ためし、ためし」
「また、妙な事を・・・・・・」
サファイアの休憩が終わり、次の海底散歩に出る。
ユズは休ませて、海水をのけたスポットにはウココたちを数名入れ、オレはその外にカゴを背負ってついて行った。顔だけをスポットに入れて呼吸をする。そのまま海底散歩をしたが、案外にいけるいける。問題ないな。
「いや、これ・・・・・・」
「コクヨウ殿の顔だけが・・・・・・」
「なんとも言い難い、微妙な感じが・・・・・・」
問題なく、ウココたちが貝や魚を確保し、オレがそれを受けてカゴに入れる。収集体勢の完成だ。
「あっ、カゴから魚が逃げた!」
「ちっ、生きていやがったか!」
多少の問題はあったが、カゴの入り口に縄を張ってしのいだ。カゴの魚がビッチビッチだ。
・・・・・・
コレ駄目だ。カゴが壊れる。海水の中の魚は勢いがいいなあ。一度、スポットの中にカゴを置く。魚は勢いよく跳ねるが、海水中よりはマシだ。せっかくなので、鮮度が良いまま持ち運びたかったが、トドメを刺してから背負い直した。早めに戻らないとなあ。
魚の血が海水に漏れていく。うーん、身が崩れるかなあ。
! 奴が来る!
魚の血に引かれたのか、再びサメが現れた。
「う、うわあ!」
ウココたちは腰を抜かしたようだ。兵士と言えども海底でサメに会うなんてのは、初めての敬虔だろう。しかしオレにとっては一度勝った相手だ。ウココたちを尻目に、オレは息を止めてスポットから顔を離して振り返り、体をサメに向けてドラゴンパンチを繰り出した。
ガブッ
リーチ足りないぃぃぃぃ。
サメの奴、オレの口に噛み付きやがった。
痛い、この野郎。ええい。
スポットの方に転げてサメを海中から引き抜き、そのまま勢いに任せて火を吹いた。噛み付かれているため、オレの口は閉じているが隙間はある。そこからサメの口に勢いよく火を放り込んでやった。
ボンッ
サメは口の中を爆発させて、倒れた。
ザマミロ
それにしても、サメ二匹目か。この前の台風で、サメの群れでも逃げてきたのかな。サメって、群れるっけ?
いや、それは後でいい。まだサメとの勝負は終わっていないのだ。
オレは倒れたサメの尻尾を掴み、
「戻るぞ!」
サファイアとウココたちを急がして、海岸に戻る。
「コクヨウ! 血が!」
「それはいい! サメとの勝負はコレからだ! 怪我に構っていられない!」
オレは、サメを裂き、内蔵を掻き出し、桜や椿と力を合わせて火を吹いてサメに対処した。そして・・・・・・
「うん、アンモニア臭しない!」
焼いたサメの切り身は美味かった。オレはサメのアンモニア化に勝ったのだ。
なお、後でユズに正座させられた。竜が正座出来る事に、スゥーイが驚いていた。オレも驚いたが、竜って案外柔軟なんだなあ。と重いながらユズの説教を聴いていた。ああ、なぜ怒られなければいけないのだろうか、保存食問題も一気に解決させたというのになあ。