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第四話 大熊をうろ覚えで解体してみる

 拠点というよりは、まだ薄い灰色の布を張った、天幕? テント? らしきものが複数あるくらいで、っむしろキャンプに来ているような風情だった。

 場所は川原で、斜面を降りたところに立てられている。目立たないように配慮しているようだ。


 そこに4人で近づいていたら、向こうから2人ほどの兵士らしき者達が近づいてきた。剣を抜いてこちらに向けてきている。


「ひ、姫様、ご無事ですか? 早くこちらへ!」


 おおっ、王女というのは本当だったのか。ちょっと驚いた。ユズがこちらを睨む。勘が良い。


「コクヨウさん、変な事を考えませんでしたか?」

「いや、本当に王女様だったんだな、産まれて一番の驚きだよとか、思ってないよ」


 オレはそう言って、目線を逸らして遠くを見た。


「もうっ」

「いやいや、それより、連中を抑えてよ」

「・・・・・・そうですね」


 ユズは一歩前に出て、彼らに宣言する。


「剣をしまいなさい。この二人は私の友達です。ともに、その大熊を倒した戦友です」


 手にした杓丈を鳴らし、胸を張るユズであった。戦友って、確かにそう言えばそうだ。戦友だ。しかしだなあ。こっちは、大熊に襲われているところを助けたわけなんだがなあ。大熊に止めを刺したのは彼女だけども。

 二人の兵士は、顔を見合わせ、どうするか戸惑っているようだ。オレは声を掛ける。


「あーー、こっちは暴れたりしないよ。危害を加える気はない。それより、腐る前に早くこの大熊の解体をしたいんだが、手伝ってくれないか」

「えっ、声がする? 誰?」


 念話に驚いたようだ。そう言えばユズは全く驚かなかったな。大熊と戦っている最中で、驚いている余裕も無かっただろうけど、その後もすんなり受け入れていたな。

 ・・・・・・図太いのかな。


「なんですか?」

「なんでも、あ、いや、早く説得してくれ、この熊も重いし、早く処理したい」

「・・・・・・そうですね。火竜、コクヨウさんとサクラさんは念話が出来ます。今の声は、コクヨウさんの念話です」

「えっ、は、はい」


 二人はまだ戸惑っているようだ。だが、なんとか、状況を飲み込もうとしている。


「いいですか、この獲物。大熊の解体をお願い致します。肉と毛皮を取ってください」

「は、はい!」


 二人は、ユズの指示を聞いた。若干、思考停止気味に感じるが、大熊の処理を早くしたいし、突っ込む事でもないだろう。一人が天幕の方に連絡に戻って、もう一人がおずおずとこちらに近づいてきた。


「あー、川に行こうか。そこで解体しよう。それで、問題ないか?」

「は、はい、大丈夫です」


 顔色はあまり大丈夫そうではないが、承諾はもらったので、川に行こう。


「桜はどうする?」

「う~ん?」

「あっサクラさんは、先に母上に挨拶しませんか。解体はコクヨウさんに任せれば良いのです」


 なんかちょっと、冷たい。オレ達戦友だよね?


「それでは、頼みましたよ」


 ユズは兵士の一人に向いてそういうと、桜と椿を伴って天幕の方に向かった。オレは川に着くと、大熊を背中から下ろした。重かったなあ。やっと荷物を下ろせた。その後、天幕からもう一人も駆けつけてきて、解体を手伝ってくれた。


「解体ってやった事ある?」

「いえ」

「私たちは兵士なものですから、こう言った事はやった事が有りません」


「クアー・・・・・・」


 ちょっと鳴く。オレの知識頼りか。日本の知識にない事はないが、一般的でもないからなあ。

 どうするか。吊るす必要があるが。


 オレは丸太を一本用意してもらい、なんとか逆さづりにして、血抜きを始めた。

 あんまり血は落ちない。

 ユズが心臓一刺ししたナイフを外した時に血が流れていたが、あれが全部だったのだろうか。それとも、既に遅くて血が固まっているのだろうか。すぐに血は落ちなくなった。仕方ないから、ここから解体を始めよう。


 二人には両脇から大熊を抑えてもらい、オレがナイフで切った。ナイフが折れないよう、じわりじわりとなんとか切り裂いた。


 グロイ。


 う~む。火竜の精神構造ではないのかな。日本の知識が有ると言っても、人としての記憶があるわけでなし、精神的には火竜だと思うが、火竜もこういうのは苦手なんだろうか。

 オレだけかな? 桜は・・・・・・苦手そうかな。


 川原の水を汲み、それで大熊の内臓を洗いながら、内蔵を剥ぎ取っていく。内蔵物が溢れないように、慎重に、慎重に。


 きついわ、ぐろいわ。


 なんとか内蔵を剥ぎ取ったら、あとは肉を切り分けていく。剥ぎ取った肉は匂い的には、腐っていないようだ。内蔵も匂いは酷くない。だが、避けた方が良いか。切った肉を川の水で洗いながら、内蔵をどうしようか、埋めるか焼却かにするかと思っていたら、天幕の方から、ゴツンという大きな音と、


「プギャー!」


 という叫び声がした。ユズの声だ。王女様と思えない叫び声だが、ユズの声で間違いない。アレ、本当に王女様なのかなあ。


「あっ、コリン隊長が戻って来られた様だ」


 兵士の一人がそう呟いた。


「コリン隊長?」

「はい、私たちの上官です。ユズ姫様がいなくなったときに、一名を連れて捜索に出ていました」

「えっ、それって入れ違いになっていた? 林に行っていたのか」

「え、いえ、まあ、その、隊長はさすがに火竜の近くになる火山の方向には行かれないだろう。浜で貝を取っている可能性が高いと、海岸の方を捜索されていましたので」

「ああ、なるほど、良い判断だ。ただ、対象がユズという点を除けば」

「ははは・・・・・・」


 しばらくして、こちらに近づいてくる者がいる。それを確認して、二人の兵士は敬礼をした。

 コリン隊長だろう。

 老齢の騎士?かな。馬に乗っているわけでもないし、鎧兜を着ているわけでもないが、騎士然としている。軽装で剣を佩いている。


 強い。


 力だけならば、オレの方が多分上だが、技術面では完敗だろう。戦えば、どうだろう、負けるかな。


「コクヨウ殿ですな」

「あっ、どうも、コクヨウです」

「姫を助けて頂いたとの事で、ありがとうございます」


 ゆっくりと頭を下げた。こちらでもお辞儀の所作があるようだ。


「いやいや、こちらこそ。この大熊の止めはユズ・・・・・・王女様が刺したものですし」


 思わず呼び捨てにしそうだった。オレがそういうと、コリンは頭を振って、溜息をついた。苦労していそうだなあ。


「大熊の解体は、私たちにお任せください。王妃様も、お会いになりたいとの事です」

「あーそうだね。碌に挨拶もせずに大熊の解体の方を急いだな。腐る前にやりたかったとは言え」

「いえ、命の恩人ならば、こちらが礼を尽くさねばなりません」

「うん、ちょっと水浴びしてからにするよ」

「ご配慮、ありがとうございます」


 オレは、自分の身の匂いを嗅ぐ。思ったとおり血生臭い。川の上流で水洗いした後、


 ぶるり


 身を震わせて水を弾くと、兵士の一人がふき物を持ってきてくれた。それで水をふき取った後、コリン隊長の案内で一番大きく飾り付けのある天幕に向かった。

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