第三十八話 土の精霊
ルーガ少尉が旅立った。
南部への補給ついでに、大型船を南部で注文するためだ。細部の詰めや、オレたち火竜がこげるように船底を大きく取るためのごまかしに、直接出向いて説明する必要があるのだ。
船は王都で物資を積んで、南部の街にルーガ少尉を下ろしてから砦に向かう。ルーガ少尉は船が砦から南部の街に戻ってくるその間に設計をツメ終えれば、帰りの便に乗って1ヶ月ほどで火竜島に戻ってこられる。
大型船が出来るのは3ヶ月から半年くらいになるだろうか。工期がどうなるかもこれからの打ち合わせになる。
「それじゃあ、南部の調味料一式よろしくね」
重要案件を伝えると、ルーガ少尉は苦笑いしながら応えた。
「王都での買い入れもありますから、たいした量は運べませんよ」
「調味料なら大丈夫でしょ?」
「ま、まあ」
調味料なんて、樽2~3個分だ。余裕余裕。
「南部の酒も頼むな」
「数樽分くらいなら、なんとかなるでしょう」
コリン隊長も要望を伝えている。南部の酒って美味いのかな。いや、そもそもお酒を飲んだことないなあ。
「アクセサリーや織物もお願いしますねー」
ユズたち、女性陣からの要望もある。
「はいはい、ただ、私には良し悪しは分かりませんから、向こうの店任せになりますよ」
服飾などはかさばるから、買えるのは織物になる。それを裁縫して服を作る方法を取る事になった。桜の服も作ると言っていたが・・・・・・オレのは?
火竜は大きいから、桜の分くらいがやっとだとか。余ったら作ってくれるらしい。
いいさ。火竜のオレが着ても、燃えてしまう可能性が高くてオチオチ火も吹けなくなるから。
「それでは、そちらも道の建設をお願いしますよ」
「ルーガ少尉が帰ってくる頃にはなんとか作れるじゃろう」
「思うよー」
「それくらいには、作っておきたいですね」
こうして、道の建設をオレたちに任せ、みんなの要望を抱えてルーが少尉は出航して行った。
漁を行う者、芋畑の世話をする者、家とトイレの建設の追加をする者。色々と必要な仕事はあるが、オレや桜たちは道を作る事にした。
コリン隊長たちには、排水用に道の脇を掘ってもらい側溝を作る。そして、道の部分と側溝を火竜の巨体で踏み固める。
ドンドンドンドン
ちょっと楽しい。
一気に踏み固めても直ぐに雨でぬかるんでしまうので、晴れている日に少しずつやっていく。
踏み固めた後は、岩を割って大石を作り出してそれを敷いていく。その大石の間の隙間には林から取ってきた粘土を詰めて、出来るだけ平たくなるようにする。キノト王子が楽しそうに詰めていた。
手を掛けても大石の高さは個々で変わるので、ガタガタになるかと思ったが綺麗に平たく作られている。キノト王子は土関係と相性が良いのだろうか。
こうして一週間ほどで数メートルの道が出来上がった。
「進捗が遅いー」
「思ったより手が掛かりますな」
「雨も多いから、中々進まないですね」
「雨楽しいよ~」
今日も雨が降る。
オレと桜はユズに撫でてもらいながら、のんびりと雑談するくらいしかやる事がない。すると、キノト王子が桜を撫でながら聞いて来た。
「ねえ、桜ちゃん、僕に土の精霊を呼び出せないかな」
「ん~・・・・・・大丈夫だと思うよ~」
桜はあっさりと答えた。姉のユズも水の精霊サファイアを呼び出しているし、王族の血は精霊を呼び易いのだろうか。それともただ個人の資質だろうか。
「おー、呼んでみて呼んでみてー」
「キノトなら、大丈夫でしょう」
ユズも太鼓判を押した。キノト王子は普段から土に慣れ親しんでいるからな。
土の精霊が参加してくれれば、道作りも進むだろうか。やってみないと分からないが、試す価値はある。道作りだけではなく、土の精霊が居てくれる方がいろいろな事が出来るだろう。
「精霊ってそんなに簡単に呼べるものでしたか?」
「いやー・・・・・・普通はさー」
周りの戸惑いを無視して、桜がキノト王子に何かを教えている。オレにはその言葉は分からない。この世界の言葉だろうか。”日本”の知識に偏りすぎているオレには理解出来ないもののようだ。という事は、オレには精霊を呼び出せないのかな。
やがて、キノト王子が土に手をかざすと、にょっきりと薄茶色の小人が現れた。土の精霊を呼び出すのに成功したようだ。キノト王子と桜が喜んでいる。
「おー! さすがだなー」
「ふふ、随分とかわいい精霊ですね」
「あっ、あっさりと・・・・・・」
「なんとも・・・・・・」
オレとユズは出来ると確信していたのだが、周りはそうでもなかったようだ。
姉弟揃って精霊持ちか。多分、すごい事なんだろうな。オレには今ひとつ分からないけど、周囲の反応的には余程の事なんだろう。
土の精霊は周囲を見回すと、多くの人に驚いたのか、キノト王子の後ろに隠れた。
ふみー
「あらあら」
「んー、人見知りかな」
「精霊に人見知りも何も・・・・・・」
精霊は人見知りしないものなのか?しかし、今の土の精霊は明らかに人見知りしているし・・・・・・
ちらり
ふんす
ふふふ
火の精霊の椿と水の精霊サファイアの個性をみるに、精霊によって性格がかなり違うんではないだろうか。
「スゥーイ、あまり精霊を脅かしては駄目ですよ」
「脅かしているわけじゃないけどさー」
ふんふん
桜が土の精霊を嗅いでいる。精霊に匂いってあるんだろうか?
火竜の桜を間近にしても別に怖がっている様子はない。怖がっているのは知らない人間のようだから、やっぱり人見知りだよなあ。
土の精霊はキョロキョロとあたりを見回して、オレと目が合ったらほっとした笑顔を見せたので、なんとなく笑顔で返した。オレも大丈夫なようだ。
「ねえ、この子の名前を、コクヨウにつけてもらえないかなあ」
「ん? キノト王子、それでいいの?」
「うん、ユズ姉さまの精霊、サファイアもコクヨウが名付け親って聞いているし、コクヨウにお願いしたい」
うーん・・・・・・
周りを伺うが、特に異論はなさそうだ。
さて、薄茶色の精霊、ユズのサファイアに合わせて宝石でいくなら・・・・・・
「なら、トパズ、でどうかな」
「トパズとは? 宝石の名前でしょうか」
ユズが聞いてきた。
「そうだよ。淡褐色の宝石、トパーズ、また黄玉とか言われているー」
「コクヨウ、ありがとう」
キノト王子はそういうと精霊を両手のひらに乗せた。
「君の名前は、トパズだよ」
そうすると、土の精霊は淡い状態から存在を強くして、はっきりとした形を取った。椿やサファイアと同じだ。
キノト王子は、トパズをそっと地面に下ろした。椿とサファイアとは違い、トパズは空中に浮く事が出来ないようだ。土の精霊だからだろうか。
こうして、土の精霊トパズが仲間になった。