第三十七話 道を作ろう
道を作ろう。
今まで林には道のない草原を通って行く。林から伐り出した丸太を運ぶのは、ソリを使った力技のごり押しだ。整備された道が欲しくなる。それに芋畑も作ってあるため、拠点との行き交いは多くなる。
「と、いう事なんだけど」
「道~?」
「整備された道ですか」
「舗道ですな。行き交いの多い箇所には必須の代物でしょう」
林に向かう草原を歩いているのは、オレ、桜、ユズ、スゥーイ、一歩下がってコリン隊長。それに椿とサファイアは浮かんでついて来ている。
「あれば有り難いですな。大八車が使い易くなります」
「そうね。雨の後のぬかるみを歩くのは辛いですね」
「そう? 泥んこ楽しいよ~」
ふふふ
桜とサファイアは泥んこも楽しんでいる。確かにアレはアレで楽しいが、移動しにくく時間を取られるのは困るのだ。
「ふーむ。火竜が泥遊びをするのは目撃例があるけれど、やっぱりそういう習性なんだねー」
相変わらず、スゥーイはオレには関心がないようだ。
「泥遊びは泥遊びでやるとしてだ。大八車が行き交い出来る程度の幅の道を作りたいな。そして」
オレは火山を見上げて
「出来れば火山まで道を通したい。溶岩の熱を利用したいんだ」
「なるほど、しかし、それは時間が掛かりそうですな」
「コクヨウ、良いのですか。火竜の重要な産卵地なのでしょう」
あっと、その問題があったなあ。
「あーうー・・・・・・」
「それに、途中に川がありましたから、橋も必要になりますよ」
「うぐっ」
困ったな。確かに、橋作りまで考えれば、どれほど時間が掛かるか。全部やろうとしたら年単位になりそう。
「と、とりあえず、芋畑の奥あたりから丸太運びのために、林までの道を作る事を考えてはどうですか。何も全部を一斉に考えなくても良いでしょう」
コリン隊長がフォローしてくれたので、それに乗る。
「そうだねー。なんにしろ、その道は必要だから、そっちが出来てから考えればいいかー」
こっちの方は、問題ないだろう。
さて、道作りだが、言うは簡単作るのは難しい。単純に踏み固めるだけで道が出来れば楽なんだがなあ。普通だったら、オレたち火竜の重量で踏み固めれば、それだけでそこそこの道が出来るはずなんだよなあ。
「何度も、ここを通っているんだろう。その割りに道にはなってないね。獣道くらいは出来そうなものなのにさー」
火竜島は風雨の強い島だ。そのために、なかなか踏み固めるということが出来ない。すぐにぬかるんでしまうのだ。多分、オレと桜が何日も掛けて往復すれば、道になるとは思うんだが、今はそこまではしていない。地盤固めのためにはやらないと駄目だろうか。
しかも地盤固めをしても、長期間風雨に晒されれば簡単に崩れるだろう。
道を作るとしたら煉瓦などを敷いた方が良いだろう。オレと桜の家の居場所用に作った、脆い土器では駄目だ。野焼きの方が楽に作れるんだが道としては無理だろう。かといって、椿に焼いてもらうとしたら、どれくらいの時間が掛かるか。数キロ分の道の煉瓦なんて、作っていられない。
「岩を砕いて、石を作って、それを敷くか」
「ふむ」
「石と石の間に粘土を詰めて後から焼けば、モノになるんじゃないかなあ」
「焼くの~」
ふんす
桜と椿が焼くという事に反応した。粘土を焼くのは、オレ、桜、椿の3人掛かりでやれば早く終わるだろう。道全てではないし、粘土の固さは土器程度になると思うが、メインが石ならば大丈夫なんじゃないかなあ。セメントとかアスファルトとか使えればいいんだけど。
アスファルトは原油からだっけ・・・・・・セメントは何から出来てるんだっけ。えーとセメント土あったかなあ。石灰石だったっけ?火竜島にあったかなあ。あんまりそれっぽい石は見なかったけど。
貝殻を集めて砕けば、石灰になるだろうか・・・・・・行けるかもしれないが、量が足りないな。弱そうな箇所への補強材くらいなら、使えるかなあ。
もし石灰を使うならば、大陸から購入する必要があるかな。やはり今は粘土で隙間を埋めていくか。
「粘土は焼かない方が良くはありませんか。硬くしてしまうと、割れそうです」
「む。その可能性もあるかー」
「大丈夫じゃないかな~、焼いちゃおうよ~」
ふんす
桜と椿はやる気である。
「うーん、そうだなあ。どっちにしろ、試してからだなあ」
そんな風に喋りながら歩いていたら、芋畑に着いた。芋畑ではすでに芽が出ており、順調そうである。あとどれくらいで収穫できるだろうか。収穫した後の運搬を考えれば、それまでには道を作っておきたいな。
「道を作っておきたいねえー」
足に付いた土を拭いながら振り返った。長いなー。
「そうですね」
みんな、足に付いた土を除けている。うっとうしいよねー。今朝雨が降ったせいなのか、思ったよりぬかるんでいた。
「コリン隊長は、椿と協力して、粘土の固まり具合を確認してみてー」
「はい、分かりました」
「オレと桜は、地固めと行こう。雨が降れば台無しになるが、短期間で集中して踏み固めればいけるんじゃないかなあと思う」
「ふに~、踏むよ~踏むよ~」
「火竜の道作りか・・・・・・初めてだと思うけど、参考にはならんさねー・・・・・・土竜ならば例があるんだけどさ」
「ほう、土竜の道作りだと」
「道を作る竜と言えば、土竜くらいさねー。火竜が道を作るなんて聞いた事はないよ。成長すれば飛べるってこともあるんだろうけど」
「火竜が幼竜時代に過ごす、この火竜島でもそれらしい道の跡はなかったですな」
少し対抗心が芽生える。火竜が道作りで土竜に劣ると?
「ただ、そうは言ってもね。土竜は邪魔な石や岩をどかして、巨体の重量で道を踏み固めるだけさ。ここのように雨が多い場所じゃないから、それで十分に道になるってだけさ」
「ふむ、土竜の移動速度は早くないと聞きますが、時間は掛かるのではないですかな」
「掛かるさねー。道が出来るのは年単位さー。でも一度出来てしまえば人間も通商路として重宝しているからねー。ほら、イアリカ大道ってあるだろう」
「えっ、あれって、土竜が作った道路なんですか」
「大元はねー。かなり昔の事だし、その後の改修・整備は人がやってるから、知らない人も多いけどさー」
ぬっ
大きな道は現時点では作れない。ならば、オレたちはもっと早く作ろう。実際のところ、年単位も費やしていられない。さて・・・・・・
「桜! やるぞ」
「うん、いいよ~」
ドラゴンローリングロードローラー!
ゴロゴロゴロゴロ
オレは巨体を道に横たわらせ、そのまま転がっていった。桜も同様に道を転がる。火竜の巨体でのロードローラーだ。これで地盤固めを速攻で終わらせる!
「コ、コクヨウ、そっちは川の方ですよ! ああ、サクラちゃんそっちは・・・・・・」
うん、泥遊びは出来たからよしとしよう。