第三十六話 漁網の活躍
今回は、やっと持って来れた漁網を試してみる日だ。ユズ達をバックに、オレと兵士達でそれぞれで網を両手に広げて持つ。網の大きさは、オレの背丈ほどもなく、小さい。
・・・・・・投網だ、これ。
「地引網じゃ-ないんだな」
「ええ、投網ですよ」
ルーガ少尉が書類を見ながら答えた。あまり詳しくなさそうだ。軍事物資に漁網ってないのかなあ。海軍とかだと、使わない?漁網とか釣竿とか。ああ、そうですか。補給物資には入ってませんか。誰か釣り糸ぐらいは軍艦から垂らしていると思うけど。
「コクヨウ、地引網ってなんですか」
「なになに~」
「う~ん、大きな網で、船で沖合いに出して張り巡らせて、その両端を海岸に持ってきて、人力で引き寄せて魚を網に捕らえて、海岸に引き上げる漁法かな」
「ほー」
みんな感心していたが、網はあるんだし地引網もあると思うんだが、火竜島のメンバーは誰も知らなかったか。うーん、投網だと獲れる量が少ないなあ。しかし、投網を繋ぎ合わせて地引網にするには、強度が足りないだろう。
「網の種類までは考えが及びませんでした」
「種類と言っても、網の大きさとか網の目の大きさの差くらいなんだけどね」
まあ、いいか。地引網は岩などが無いところで使わないと破けてしまう。今目の前の浜にも、そこかしこに岩が見えている。アレ避けて地引網を使うのは面倒か。海中には大きめの石もあるだろうし・・・・・・コリン隊長のストーンバレットで吹き飛ばせないかなあ。今は関係ないか。
まず、オレが海岸から投網を投げてみる。投網の端の縄はしっかり持ったままだ。
バシャン
「うーん、あんまり開かなかったな。まあ、最初はこんなものか。それにここには多分、魚いないし」
「えっ、コクヨウ。獲れていないんですか」
「浜際だからねー。ここは魚いないと思うよー。小魚一匹でも引っかかっていればいいところかなー」
ユズにそう答えつつ、オレは縄を引っ張りあげて網を回収する。魚はいない。
あっちゃー・・・・・・
「しまった。コレ網目が粗いから小魚無理だ」
「そうなんですか」
投網のクセして、目が粗いなあ。川用でなければこんなもんなんだろうか。
「うん、まあ、小魚獲っても仕方ないしね」
資源保護も必要だ。という事にして。
実際のところ、小魚獲っても、調理に困る。一匹ずつ焼くのは手間な上に身が少なく、まとめて煮込んでも骨が厄介だ。骨ごと食うにしても、小骨が喉に引っかかる。フライに出来ればいいんだけどね。
「大きな魚のいるところですか」
「沖の方でしょうかな」
「どうやって行きましょうか」
みんなの目線が浜に上げている筏に向いた。そして、ギョウコを見た。ギョウコは嫌な顔したが、それはそれ、ここは・・・・・・って、ユズがしらっと、オレの漁網を持った。行く気だ。
「ギョウコ、筏は慣れているな。まずはお前がやってみろ」
「は、はい」
察したコリン隊長がギョウコに命じ、それに応えて彼も慌てて筏に向かう。ユズはちょっと残念そうに漁網から手を離した。あぶないあぶない。
ギョウコの指示に従って、ウココ達他の兵士も手伝って筏を海に浮かべた。彼はその上に乗ると、コリン隊長から漁網を渡してもらって、沖に向かった。
うん、なかなか手馴れている。何度も海に落ちただけの事はある。
「その辺でいいだろう」
コリン隊長の呼びかけにギョウコはいかだの上から投網をぎこちなく振るった。簡素な筏の上での投網は難しいはずだ。海に落ちなかっただけ十分だろう。彼は投網を回収して、筏に載せて戻って来た。
「おお、結構取れてるねー」
「お魚、お魚~」
「これは、一度でこれほどとは、網というのはすごいのですね」
ギョウコの成果は、初めてにしては上々だろう。大きさは数十cmくらいで、十匹にも満たない。所詮は投網だし、魚群に向けて投げたわけでもないのだから、こんなものだろう。しかし、みんな驚いている。今までオレと桜が銛突きして、一匹ずつ。ギョウコの釣りでも同様に一匹ずつだったからな。
なんというか、初めて網の成果を見た人達の反応だ。微笑ましい限りだ。
ザシュッ、ジャブジャブ、ボッボーッ
オレは、一匹を掴みあげると腹を割いて内臓を取り出し、三枚おろしのような切り方をした。不恰好で、切ったというよりも割いたと言った方が良いか。それを海水で洗うと火を吹いて焼き上げた。焼き魚の匂いが漂ったところで、一つを桜に渡してもう一枚を
ペロリ
一口で食べた。美味い!
「コクヨウ・・・・・・小躍りまでしなくてもよいではありませんか」
ユズに呆れられてしまったようだ。
残りの魚もその場でさばいて、オレと桜と椿で焼き上げてみんなで食べてみた。今までは日干しして保存した後で焼いたので、鮮度が違う。
鮮度の良い魚は刺身で食べるのが美味いかもしれないが、醤油も何もないからなあ。塩味だけで食う事になる。当然だが、焼き魚も鮮度の良い魚の方が美味い。
網で獲った場合は網の中で魚が暴れて身崩れするから、銛突きの方が上物になるんだっけ。今後は、網で獲った奴を日干しして、銛突きで獲った奴はその日の内に食べてしまおう。ただ、今日の網はそのまま焼いて食べてしまっていいだろう。
魚はこれくらいでは足りない。まだまだ欲しい。投網は小さいが、オレと桜で両端をそれぞれ持って、泳いで魚を捕らえてもいいかもしれないな。そっちの方が魚群を捉えられるかな。
「コクヨウー!ちょっと手伝ってください」
いきなりユズの声が海から聞こえてきた。いつの間にか、筏に乗って投網を投げていたようだ。気づかなかった。
慌てて泳いで近づくと、コリン隊長とウココが筏に同道していたようで、海中から筏を押さえている。ユズがオレを呼んだのは、どうやら投網に大量に魚を捕らえたのは良いが、筏に持ち上げられないでいたようだ。
それにしても、あれほどギョウコが苦労していた筏乗りだが、ユズは難なくこなしている。コリン隊長達のサポートがあったとしても、ユズの運動神経は良いのかな。
大漁だったので、筏に載せるとひっくり返るかもしれない。投網の縄を筏に括りつけて、それをオレやコリン隊長が押しながら泳いで浜に戻った。
大漁となったので、これをさばいて焼いて食うのと、日干しするのとでその日は終わってしまった。