第三十五話 火竜対毒キノコ
今回は、オレたち男性陣とサファイアだけで林に来ている。ミミズの試食会と言ってしまえば、ユズ達は着いて来なかった。予定通りだ。桜だけは興味津々だったが、ユズ達に止められていた。
サファイアも止められそうになったが、ミミズには稀に毒持ちがいるからと説得して、解毒魔法を使えるサファイアの帯同はなんとか許可された。
そして、竜生態研究家のはずのスゥーイも着いて来なかった。
「私は、竜生態の専門家だからねー」
彼女の言い分に納得は出来なかったが、着いて来ないのは好都合なので、放置した。
今回の試食は、ミミズではない。ミミズは土を耕してくれる大事な生き物だ。ミミズを食べるなんて勿体無い事は出来ない。食べるのは、キノコだ。
キノコはヤバイ。
だからこそ、火竜のオレの体力でごり押しで試して、万一の場合はサファイアに解毒してもらう。これを繰り返して食べられるキノコを探しだすのだ。少しでも食べられる物が増えれば助かるからな。シイタケやシメジあたりを引ければ、最善だろう。
これを試そうとするとユズが全力で止めに来るので、秘密裏に実行しなければいけない。解毒の出来るサファイアが着てくれて良かった。これで、キノコ漢探知の体制が整った。
そうこうしているうちに、男手を結集してキノコが採取され、オレの前に積み上げられた。いつものように、ルーガ少尉に記録を頼み、オレは赤いキノコを掴み上げて口に放り込んだ。
「グハッ」
オレはそのキノコを噛みしめると、吹きだして倒れた。
「コ、コクヨウどのー!」
コリン隊長やルーガ少尉達が慌ててオレの名を呼び、サファイアはオレの頭上で首を振った。
ふふふ
「こ、これは」
「まさか、竜でも耐えられない、解毒魔法も効かない猛毒か!?」
コリン隊長たちが慌てている中、オレはなんとかゆっくりと立ち上がった。
「ま、まずい!」
オレは急いで水筒を掴んで口に入れ、口内をゆすいだ。
「えっ、はっ?」
ペッ、ペッ
毒ではない。サファイアが首を振ったのは、毒に侵されていないというジェスチャーだ。全然大丈夫だ。大体、火竜がやられる毒がそうそう有ってたまるか。
しかし、このキノコはまずい。えぐみと苦味のハーモニー、ジャリジャリとする食感、鼻にツンと来る酸味、どれをとってもまずい。
「世の中に、こんなまずいものがあるとはなー」
やはり、赤いキノコは駄目だったか。
「毒ではないのですか?」
サファイアにもう一度確認するが、首を振るばかりだ。つまり、毒ではない。
「毒ではないねー。でも、相当まずいよ。それに、火竜のオレがここまでえぐみと苦味を感じるならば、人間にとっては毒なんじゃないかなー」
「なんにせよ。わざわざ、食べるものではないでしょうね」
「うーん、日干しすれば、キノコ茶にいけるかなあ」
「無駄にチャレンジすることないじゃろ・・・・・・」
コリン隊長が呆れながら呟いた。仕方ないので、諦めた。
「やはり、派手な色は駄目かー、確か食べられた奴もあったように思ったけど」
「食べられるキノコがあるにしても、食べられないキノコの方が多いのではないですか?」
「うーん、多分ねー」
「ならば、避けたほうが良いでしょうな。可能性の低い事に挑戦しても、分が悪いじゃろ」
「そうだねー」
「しかし、それを言い出すと、そもそも食べられるキノコ探しと言うのが、分が悪いでしょう」
「そだねー」
わっはっはっは
三人で笑ったが、サファイアと何人かの兵士が目を逸らしていた。
いいじゃん、分が悪くても。シイタケあてるとでかいんだよ!
おいしいものを食べるのに、毒のひとつやふたつで参っていられるか。
パクッ ムシャムシャ
「おお、これはいけるぞ」
「ほう、今度は、あたりを引きましたか」
「うん、これは美味い。舌にピリッと来る痺れるような辛味が良いアクセントになっている」
「あの・・・・・・サファイア殿がさっきから解毒魔法を掛けているように見えるのですが・・・・・・」
「え・・・・・・そう?」
パクッ ムシャムシャムシャ
パシャン
ムシャついていると、後方からサファイアが水の塊を投げて来た。それを合図にして全員に取り抑えられ、そのキノコは取り上げられてしまった。
「毒ですね」
「毒ですな」
ふふふ
ルーガ少尉が無慈悲にも、そのキノコを毒と記載した。
「えー・・・・・・美味いのにー」
「毒です」
「いい加減にしないと、ユズ様をお呼びしますぞ」
うっ、そんなことしたら、キノコ祭りが終わってしまう。
「はーい」
オレは渋々ながら、そのキノコを諦めた。美味かったんだがなあ。
パクパク
ゴホッ
グハッ
「うーん、これ味無い」
集められたキノコを食べていき、その結果をルーガ少尉が記録する。
たまに毒にあたるが、それはサファイアに解毒してもらって、事なきを得ている。こうして、キノコ漢探知は順調に進んでいった。
「あっ、コクヨウ殿がまた倒れた」
ふふふ
順調だった。
しかし、結果は散々だった。食べられるのは一種のみで、後は全滅だ。シイタケもシメジも無かった。キノコとはかくも厳しいものなのか。こうして、キノコ祭りは終わった。
「食べられるのが一種だけでは、大元から諦めた方が良さそうですね」
「労力の割に合わないか」
「判別も簡単ではありません、似たような毒キノコもありましたから」
・・・・・・結局のところ、オレが毒を食らってドッタンバッタンしただけに終わってしまった。
いや、あの痺れる様な辛いキノコだけでも。
「毒ですね」
「毒ですな」
ふふふ
なんでもありません。みんなが怖い。特にサファイアがちょっと怖かった。