第三十四話 貴重な人材
今まで、火竜島と大陸との航路は南海洋丸一隻による独占だった。他に船はなく、そのためにおよそ半月程度に一往復だった。しかし、南海洋丸にカミン王国の南部砦への補給も任務となったために、火竜島に訪れるのは1ヶ月に一度か、それ以下になる。
代価に、交易における南海洋丸独占の条件は取り消され、キノト王子下の船籍ならば取り引きできるようになったのだが、その船が簡単には手に入らない。火竜島で作ろうとしても、材木の数が少なく一隻くらいだろう。船作り出来る人材も居なければ試行錯誤をする余裕もなく無理だ。
「ところで、随分と往復に時間が掛かるけど、大陸との距離ってそんなにあるの?」
「そうですね。300キロくらいでしょうか。頑張れば丸一日で着きます。最短往復二日です。ただ、頻繁に強風の来る海域でしてね。出航日も出来るだけ風の良い日を選びますし、途中で逆風の強風や波が荒ければ、時間が掛かります。」
「ほへー」
「無理をして、余裕のない状況で強風にたたられると厳しいですから、余裕はかなりみて出向しています。これに加えて停泊日ですね。荷物の積み下ろしにも時間が掛かります。結果、半月に一度くらいの往復となります」
なるほどー。
積み下ろしは、まあ、なんとでもなるな。コンテナ方式を取れば良い。ひとつずつ下ろしていられるか。運搬用のボートも別に構えればいい。いざとなれば、筏でも足りるだろう。
「それになんと言っても、人力ですからね。短期間での往復は色々と無理が出ます」
「そうじゃな。新造するにしても、人員の問題があるな」
あー・・・・・・難義だなあ・・・・・・、ふむ。
「船を南部で新造することは可能かなあ」
カスボ王子派の邪魔が入るのは主に王都だ。南部までその影響が強いとは限らない。コリン隊長とルーガ少尉が顔を見合わせた後、答えてくれた。
「可能ですな」
「南部も材木は少ない地域ですが、火竜島よりかは融通が利きますね。王都よりは割高になりそうですし、製作期間も長くなるでしょう」
「ふむ、特注は可能?」
「・・・・・・可能ですよ。そもそも、船舶に厳密な規格なんてありませんから、大半は特注みたいなもんです。軍船はまだ大量発注で規格はあるんですが、一般にはありませんね。今回船を新造するとしたら、船籍は軍籍になるはずではあるんですが」
「コクヨウ殿、何をなさるおつもりですか」
そりゃーねえ
「オレと桜の二火竜力でこげば、火竜島と南部地域との航路は数日で往復出来るんじゃないかと」
二人が驚いて、顔を見合わせる。
「・・・・・・ご協力いただけるのですか」
「そりゃー、南部の食材、調味料には興味あるし、砂糖とかあるでしょ」
「ええ、まあ、砂糖や香辛料とかありますよ」
「よし」
なんのために人間に協力しているのか、それは今はまだ入手出来ていない、出来ても極少量な調味料達のためだ。特に砂糖なんて、火竜だけでは中々手に入らないだろう。それを考えれば、せっかくの南部との交易路だ。なんとしてでも確保したい。
「あー・・・・・・オレ達は南部では姿を見せられないから、その辺の工作は頼むねー」
「気楽に言ってくれますね・・・・・・」
「そうそう、南部の散歩したくもあるからさー、その辺の工作もよろしくねー」
「・・・・・・」
「わしには無理だぞ」
「ええ、なんとかしますよ。なんとか」
何か、ルーガ少尉が遠い目をして、ブツブツ呟き始めた。彼に任せておけばなんとかなるだろう。
ガシッ
突然ルーガ少尉がオレの肩を掴んだ。
「コクヨウ殿にも知恵を出してもらいますよ」
「えー・・・・・・」
「コクヨウ殿には日本の知識があるのでしょう」
「そんな、都合の良い知識なんてないよう」
「そんな都合の良い知識を私に出せと」
「うぐっ、考えるよー」
うん、さて、船底は火竜が入れるくらいの大きさにしないといけないが、そのまま発注するのはまずいと、取り外し可能な天井を作ってもらって、広さを誤魔化すか。オレ達が出入りするために、広めの横ハッチも作ってもらう必要がある。
とは言うものの、まだまだ生まれて一年も経たないオレ達の大きさは、人と比べて2倍も3倍もあるわけじゃない。スゥーイに聞くところ、成竜ともなれば10mほどにまでなるそうだが、そこまでになるには数十年掛かる。今の高さは2m弱程度、数年後の成長を見越しても3m程度を見込めばよく、十分誤魔化せるだろう。
そして、オールは太くて硬くて折れない奴が必要だろう。偽装用のも必要だろうな。オレ達以外で、人間もこげるようにしておいた方が良いしな。何があるか分からない。
速さを誤魔化す必要は少ないだろうな。移動が早くても頻度が半月に一度程度の就航で十分だろうから、それならば南部都市側では船の速度は分からないだろう。
ああ、なんだ、割となんとかなりそうじゃないか。
「一応、火竜が乗っているのは誤魔化せそうですかな」
「なぜ、広さを大きく取る必要があるのかの説明はしておいた方が良いと思います」
「大きな荷物を運ぶためって事で、なんとか誤魔化してよー・・・・・・」
「変な要求をするトップがいると言えば、多少は納得してくれるはずですけどね」
ルーガ少尉、そんな悲しそうな遠い目をしないで。
「その辺の演技ならば、任してください。慣れてますから」
うん、彼に無理な要求はしないようにしよう。なるべく。
「演技でもないし」
彼がボソッと言ったことは無視しよう。
「変な要求をする人ねえ・・・・・・」
二人はオレを見た。オレはそっと目線を逸らした。
いやいや、オレの名前を出すわけには行かないでしょうが。
「変な要求をしても、疑問に思われない実績のある人っているかなあ」
「コクヨウ殿に勝てる人はいないかと思いますぞ」
「ハーサ王妃は常識人ですし、キノト王子は大人しい方ですから、違和感はあるでしょう」
・・・・・・
全員が顔を見合わせて、全員一斉に目を逸らした。
「ああ、まあ、ユズがこいでみたいと言い出したから、相応の設備が要るとか何とかで、広さも必要と言えば、納得はしてもらえるかなあ」
「いやいや、ユズ王女様は、そこまでご無体ではありませんぞ」
コリン隊長が急いでフォローを入れるが、さっき目線逸らしたばかりではないか。
「それっぽくはありますね・・・・・・ひょっとしたら、コリン殿が気付かれていないだけで、ここに来る時に、船底に行かれてこいでみたことがあるんじゃないんですか」
はっはっは、そんな馬鹿な
三人で笑いながら、互いに目線を逸らした。
こうして我々は貴重な人材のおかげで、南部との航路確保の目処が立ったのである。