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第三十一話 島を一周してみる

「おおお! 速い速い、コクヨウさすがです!」


 オレはバッグを背負って杓丈を振り回すユズと、その肩に座っているサファイアを乗せて四つんばいになって走る。

 火竜の手は短く、通常は二足歩行をしている。二足歩行でも人より早く走れるが、高速で走る場合には四足歩行の方が速くて便利だ。通常時の二足歩行は、道具を使う必要性や手荷物を持つためだ。あとは、視点の高さを得るためだろうか。それさえなければ、わざわざ二足歩行をする必要性がない。


 人も四足歩行の方が早いのだろうか? 陸上選手でそんな走り方をしている人はいないが、重心は安定すると思うけどなあ。オレ達火竜の場合は明確に四足歩行の方が適している。背中にある二対の翼の位置や、重心が胸のところにあるようなので、平行になって移動するようになっていると思う。


 四つの足でガンガン前に進む。


「うひゃー、まるでドラゴンライダーの気分です」


 オレは座席を背負い、それを紐で肩に結び付けている。ユズをそこに座らせて、落ちないようにしっかり縛ってある。これって、ユズはドラゴンライダーなんだろうか。空も飛んでいないしなあ。


 乗り物になるというのは、不本意ではあったが、ユズが同行する以上、歩かせていては時間が掛かる。単純に背負うのでは長時間は持たないので、こういう形に落ち着いた。


 この遠出にはオレ1人だけで行きたかったのだが、ユズが反対して同行を申し出た。逆にユズが同行する事にはギョウコ達が反対したのだが、抑えられずユズの意見が通った。

 ハーサ王妃もコリン隊長もいない現状では、ユズに勝てる者がいない。


 しかし、今回の遠出は大した目的も意味も無い。ただ島を一周するだけ、島の様子を一通りみようというだけの事だ。一周にどれくらいの時間が掛かるかの検証も兼ねてはいるが、そっちはおまけだ。そんな事に、ユズが同行する必要性もなく、オレ1人で良かったのだがなあ。


「コクヨウを一人にするのは心配です」

「いやいや、オレ火竜だよ。強いよ。タフだよ。今なら大熊にだって勝てるよ」

「確かにコクヨウ殿ならば、大熊にも勝てると思いますが・・・・・・」

「そうだよ。ね。ギョウコ。ってなんで目を背けるのさ。ってスゥーイや桜までなんで・・・・・・」


 という事があって、オレ1人での行動は許可されなかった。何故だ。



 一走りを終えて、崖のあるところに来た。拠点近くでは見ない地形だ。

 ユズを一旦下ろし、崖の上から そおっと海面を見た。ユズもオレの隣で同じように崖の下を覗き見る。


「おおー、これはこれは、結構高いねー」

「そうですね。こんな崖になっている場所もあったんですね」

「うーん、どう思う? ここに船寄せられそうかな。深さはありそうなんだけど」

「深さが何か関係するんですか?」

「あー・・・・・・今の浜だと浅くて近寄ると船底が海底の砂に引っかかって、ひっくり返るんだ。だから、船底の浅いボートで船と浜を行き来している」

「そ、そうだったんですか。さすがコクヨウは物知りですね」

「えっあっ、うん」


 ユズは王女だ。この手の事は知らないのだろう。こっちの教育水準と日本の教育水準との差でもあるのかもしれない。船の基本構造ですら、船員以外には知られてないのかな。まさか機密情報扱いになっているなんて事はないだろうな。


「しかし、この高さだと、乗り降りは大変じゃないですか。拠点からも遠いと思います」

「言われるとそうだなあ。嵐の時の退避場所・・・・・・としても微妙かな」

「他には、特になさそうですね。次に行きますか」

「そうだね」


 オレは崖から身を引いた。そしてユズをまた座らせて、座席に縛り終えるのを待ってから、再び走り出した。


 多くの海岸は岩が多く、海の中にも幾つか岩が突き出しており、船を止められそうなところはなかった。また、昆布や藻の群生地でもあればと探した。それは数こそ少なかったものの、何箇所かは見つけられた。


「おっと、ここは走り辛いな」


 山が海近くまで迫っていて、歩き辛い場所も多い。そういう場所はユズを下ろして、ゆっくりと歩いてしのいだが、ひっくり返って海に落ちそうになりそうだった。


「おおっとお」

「あぶないですよ、コクヨウ。慎重に行かないといけません。あっキャア」


 ユズもよろけたが、そこはオレの体躯で支えた。


「ユズも気をつけてな」

「うっ、はい」


 ふふふ


 それをみて、サファイアは楽しそうにしていた。

 こんな調子で、島の未知の箇所を廻った。


 太陽が上がり昼に近づいたところで、見晴らしの良い場所をみつけて昼飯にする。ユズが背負っていたバッグから昆布茶と干物を出して準備をする。オレは周辺の枯れ葉や枯れ木を集めてから、火を吹いて着火して、昆布茶を温め干物を焼いた。

 サファイアは何故か、昆布茶に浸かっていた。どういう訳か気に入っているようだ。


 オレとユズとサファイアの三人だけだが、こういう落ち着いた感じの食事もノホホンとしていい感じだ。多少食事量が少ないのは不満だが、島の一周にどれくらい時間が掛かるか分からないから、節約も必要だ。そもそも、重くなるのであまり量は持ち出していない。


 一息入れたあとは、さらに島の海岸沿いを廻る。

 ただ、あとはもう、同じような風景が廻るだけだった。


「う~ん、大したものはなさそうだなあ。少し退屈かな」

「そうですか、私は楽しいですよ」


 ユズがオレの背中の上で、風を切りながら嬉しそうに言った。海の向こうの景色、雲の動き、ゆっくり見る分には良いのかもしれない。ただ走っているオレにそんな余裕は無いんだけど。


 ふふふ


 サファイアも上機嫌のようだ。


 やがて、日が海に落ちようとしている時に、目の前に見慣れた風景が飛び込んできた。どうやらこれで島の一周を終えたようだ。


 桜やギョウコ達が出迎えてくれる。ギョウコはかなり焦っているようだった。ユズに何かあったら大変だもんな。


「コクヨウ~」


 桜が頭を擦り付けてきたので、オレも擦り付け返した。


 スリスリスリスリスリスリ


 いつもよりちょっと長い。寂しかったのかな。そう言えば生まれてこの方、ここまで長く離れていたことはなかったな。夕食後、1日走りっぱなしだったオレはすぐに眠りに着いたが、そんなオレに桜はピッタリと引っ付いて眠った。

 今後、あまり長時間離れるようなことはしないでおこう。

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