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第三話 我輩は火竜である。名前は今回付けた。

 竜二人、人間の女性一人、そして火の精霊一人で、やっと大熊を倒した。オレと妹は火竜なのになあ。さすがに生まれたばかりでは厳しかったか。


 もっとも怪我は軽症で済んでいるので、そんなものだろうか。戦っている時は必死だったが、手ごわい相手でもなかったようだ。

 怪我は人間の女性が魔法で治してくれた。この世界に治癒魔法が有り、そして目の前の女性が使えるというのは助かった。痛みが和らいでいく。

 この世界は日本の知識で言うところのファンタジー世界で確定か。オレや妹のような竜や火の精霊がいるのだから、そうだろうとは思っていたけどな。


 いや、そもそも日本の方が夢うつつなのかもしれない。知識だけしかなくて、実感はない。あっちが空想の世界なのかもな。


 人間の女性の先導に従って、オレと妹は並んで歩いていた。

 オレは大熊の死体を背負い、妹は火の精霊を連れている。

 大熊は血抜きなどの処理をしたかったが、林の中でやろうとした場合、血の匂いに惹かれて何がやってくるか分かったものじゃない。肉の質は駄目になるかもしれないが、食える事は食えるだろうし、また毛皮は取れるだろう。


「私は、ユズ・カミンと申します。これでもカミン王国の第一王女ですよ」

「クアー!?」


 いきなりの王女様である。なんでそんな人がここにいるのか。それは本当なのか?


「ほ、本当ですよ」

「何故、こんなところに?」

「話せば長くなるのですが、その・・・・・・」

「・・・・・・王位争いに負けて、島流し?」


 適当に、言ってみた。


「グハッ」


 彼女、ユズは膝をついた。当たったらしい。


「おういあらそい~?」


 妹はよく分からないらしい。火の精霊と一緒に首をかしげた。そりゃそうか。


「ううっ、母方の祖父であるムライお爺様がなくなった途端に、腹違いの第二王子、カスボ王子一派がこの火竜島攻略を弟のキノトにするよう父王に進言して、それが通ってしまったのです」


 キノト王子は、ユズと同じ母親らしい。


「火竜島? ここ、そんな名前だったのか」

「えっ、はい、そうです。この島は火竜の産卵地、幼竜が育つ島として有名でして、人が入れない島となっています。ここに入植しても火山島ですので、作物を育てるのはなかなか難しく、幼竜とは言え火竜が住む島ですので人の拠点は作れなかったのです。次代の王となるのであれば、それを攻略するべきだと」


 こちらにとっては、はた迷惑である。しかも、


「その理屈、かなり無理がないか?」

「はい、ですが、ほとんどの者がそれに賛成してしまい、父王は反対したのですが、押し切られてしまいました。キノトはまだ8歳だと言うのに」

「無茶苦茶だな。そんな事が通るのか」

「ううっ」


「それで、君一人がここに居た理由は?」

「えーと・・・・・・それは、その、他の者は拠点作りに忙しかったので、私は食料を確保しようかと、林に来てみたんです」

「一人で?」

「ええ、まあ」


 しばらくの沈黙。

 うん、お転婆? 無謀? 考えなしか。跪いてたユズは立ち上がり、先導を再開する。


「ううっ、この島には火竜以外の脅威はないという話だったんです。まさか、こんな大熊がいるなんて」


 ユズは、オレが背負っている大熊を恨めしそうに見た。確かに、島の大きさ的にはおかしいかな。それに、林の雰囲気的に熊がいる感じはしなかった。


「たま~に、熊が大陸から泳いでいるのか流されているのか、島に向かっているのが目撃されるくらいだって言ってたのに」


 おい、出会う危険性あったじゃないか。それはそれとして、大熊の出どころが分かっただけでも良かったのか。とりあえず、もう一度大熊に出くわす可能性は低そうだな。


「どっちにしろ、火竜の脅威はあるじゃないか」

「えっ、お二方は優しいじゃないですか」

「ふに~」


 妹は、何か自慢げだ。


「いやいや、それはただの結果論だろ。行動がうかつだったのは変わらん」

「ううっ」

「それに、この島に人間に居座られるのは、困るな。オレ達だけで判断できる事でもないし」

「そ、それはその~」

「他の火竜たちはどうなんだろうね~」

「あっ、多分、今この島にいる火竜はお二方だけだと思いますよ」

「そうなの」

「はい、火竜は20年周期で1~2個を産卵するそうです。そして孵化した火竜は10数年間ここで育って、その後は大陸中央の大霊峰に向かいます。一度に火竜島にいる火竜は、最大で2頭なのです。だから、今この島にいる火竜はお二方だけのはずです」

「ふ~ん。いやいや、今だけの問題じゃないよ。火竜の重要な産卵場所なんだから」

「ううっ。今追い出されたら、行く場所ないです」

「争いになるかね?」


 ユズに目を向けてみた。威嚇に見えたのだろうか。ひるんでいる。


「どうなんだろうね~」


 妹はのんびりとしている。こっちもあまり考えていないか。


「ま、こっちの邪魔にならないなら、いいんじゃないかね。攻略とやらに、火竜の討伐が含まれるのならば、やりあうしかないけど」


 ギロリと睨みつける。今度は明確に威嚇だ。


「だ、大丈夫です。重要なのは拠点ですから、たぶん」


 本当に大丈夫なのかね。ま、他の連中にあってから判断するか。どちらにしろ、この大熊の解体が必要だ。日本の知識でも解体の知識はおぼろげでしかないからな。出来る人が居てくれると助かるんだけど。


「拠点建設中だっけ?」

「はい。」

「結局、何人くらい、この島に来ているの?」

「はい、私と弟と母と・・・・・・」


 指折り数えている。それくらいの人数かい。人数が多ければどうしようかと思ったが、大丈夫そうか。


「えーと、船に残っている人を除いて10人です。船に残っているのは、20人くらいかな。」


 船員の方が多いのか。10人が上陸、そのうち非戦闘員が最低3人か。


「火竜と戦おうって人員じゃないよね」

「はい、戦う気は全く有りません」


 それは言い切って良かったのか。こっちが心配する必要がなさそうなのは助かるけどな。

 話が少し途切れたのをみて、ユズが話題を変えてきた。


「ところで、お二方のお名前は?」


 名前? オレ達に名前なんてないなあ。


「名前? 何それ~」

「えっ?」

「理屈で言えば、個体を識別する記号かな」

「無粋ですね~」

「まぁな」

「それで、お名前は?」

「ない。産まれたばかりの上に、親にも会ってないからな」


 少し考える。

 火竜は火竜だし、無くてもいいような気もするが、名乗ってもいいか。自分の鱗をみて、


「そうだなあ。黒曜とでも名乗っておこうか」

「コクヨウさんですね」

「う~ん、コクヨウ? 私の名前も付けて~」

「うん?いいのか?」

「うん」


 妹はそういうので、名前をつけてみよう。白い鱗、やや赤みがあるか。


「桜、でどうだ」

「サクラ~? じゃあ、私、サクラ~」

「ほうほう、サクラさんですね」

「ああ。白くてやや桃色のある、花の名前だよ」

「ほうほう」

「私の鱗と同じ~?」

「ああ」


「そうだとすると、コクヨウも花の名前なんですか」

「いや、こっちは鉱石だな。黒色の石だ」

「へ~。名前に凝っているんですね」

「そうかな」

「それに、随分と物知りなんですね。サクラという花もコクヨウという石も初耳です」

「そりゃまあ、そうだろう。これは日本の知識だからな」

「日本?」

「あー、竜の恩恵だか何か分からないが、オレには日本って国の、多分異世界の知識が産まれた時からある」

「い、異世界の知識ですか。サクラさんも?」

「う~ん?私の知識は精霊の知識だよ~この子の知識~」


 火の精霊を鼻で示す。火の精霊は、嬉しそうにくるくると飛び回っている。


「ほへ~。そう言えば竜は様々な知識を持っていると言われていました。すごいなあ」

「ふふん」


 妹、桜は自慢げだった。


「そうだ。コクヨウ~。この子にも名前付けてあげて~」

「うん、そうだな、オレが付けていいのか?」

「うん、私は思いつかないから~」

「ならば・・・・・・」


 何か、火の精霊がワクワクしているようだ。

 目が輝いている。赤色に、目は黄色? 赤より黄色が温度高いが、それとは関係なさそうな気がするな。えーと、


「椿、でどうだろう。赤い花の名前だ」

「うん。分かった~。火の精霊。今日からツバキだよ~」


 桜がそういうと、名前を付けられた火の精霊が喜びに廻り出す。火の精霊、椿は何度か廻ったあと、強い光を発した。


「きゃっ」

「うぉっ、まぶしっ」


 やがて、光が収まり目を開けると、火の精霊はまだはしゃいでいた。


「は~びっくりしました。この子、なんと言いますか、存在が強くなっていませんか?」

「そうだよ~。精霊は名づけられると、確固とした存在になって強くなるんだ~」

「へ~ってか、そんな重要な名づけをオレがして良かったのか」

「うん、コクヨウにしてもらいたかったから~」


 そんなこんなで、話をしていたら、潮の匂いと共に人らしき匂いがしてきた。作っているという拠点に近づいたのだろう。人の匂いは濃くはない。ユズの言ったとおり、人数は多くないようだ。

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