第二十七話 野焼きの床
キノト王子達がボートに乗り、沖合いの船に向かった。献上品、そして販売用の陶器と昆布茶を積み込んでいる。
火竜島攻略・入植の中間報告として、大将のキノト王子、キノト王子以外の軍人であるルーガ少尉、王宮対応としてハーサ王妃、護衛役としてコリン隊長にウココとサン、世話役の侍女としてナンシーの計7人が王都に戻る。
彼らが持っていたオレと桜の鱗は回収済みだ。ナンシーが何か恨めしそうだったが、無視無視。
桜の鱗は論外だが、オレの鱗もあまり多くを島外に持ち出すのは不味いだろう。今後の収入源は、陶器と昆布茶が当面は中心になるが、それ以外の物も考えておかないとなあ。オレの鱗を売るのも、一回限りにしておかないとな。
オレは高台で、船が大陸に向かっていくのを見つめている。櫂、というよりもオールと言った方が良さそうだ。あれで漕いでいるのは大変そうだなあ。うーん、ちょっとやってみたいな。でも、オレの力で目いっぱいやってしまったら、オール折れちゃいそう。
船が見えなくなったのを確認して、オレは高台を降りた。
さて、今やりたい事は家の床作りだ。人間用の分は、木板で床を作っているが、オレと桜のところは土のままだ。オレ達の体重で木板に乗ったら、木板が折れる。
このために、雨が降るとじめじめした土の上にいる状態が続いている。雨に晒されていた時よりかは数段ましとなんだが、良い心地ではない。最初は、石を切り出してそれを床にしようかとも思ったのだが・・・・・・石切り鋸も何も無い中で、適当な広さの石が作れない。
石の切断は、未だにオレがナックルで割るという方法しかない。砕いた石を敷き詰めるのは痛いしなあ。
そこで、粘土を焼いて床を作ることにした。土の上に礎石を置き、その上に広い素焼きの土器を置く。土器床になるのかな。それも頑丈とは言えないが、木板より硬ければ十分だ。
煉瓦のように小さく作って、それを積み重ねるのも考えたが、何か尻尾辺りが間に挟まりそうな感じがした。煉瓦と煉瓦の間に入れる、セメントで良かったっけ、あんなものを用意するにも時間が掛かるし、入れても凹凸があると座り心地が悪い。
プロでも居れば話は別なんだろうけど、ど素人集団だからなあ。
大きな石を用意して、その表面に草木の灰を撒く。そしてその上に粘土を盛る。床にするために、厚めに盛る。粘土の上部だけをならして平らにしたが、底は大きな石のでこぼこの形がそのまま粘土部分にもつく。
こちらの方まで平らにする方法が思いつかないし、下部ならば多少の凹凸は気にしなくていいだろう。これを複数枚作って、1週間ほど乾かす。
前回の椿窯を開いた時よりも前から作っていたので、早々に野焼きに移れる。野焼きは椿に頼ることなく、枯れ草や枯れ木を集めて行った。オレ作の陶器が椿窯に入れてもらえないのが分かった時点から、こっちを作っていたんだよなあ。
まあ、よしとしよう。野焼き床の方が重要だ。
火山島故の問題点か、枯れ草や枯れ木を集めるのには苦労した。結構、かなり遠出をして集める事になった。家を作る時には伐ったものの、植えている木に手を出すのは緊急、必要最低限にしたい。数が少ないからなあ。
今後の燃料をどうするか。昆布や藻といった海藻を集めて乾かして、燃料に出来るだろうか。確か、出来たとは思うんだが、効率悪そうだなあ。
ちらりと火山を見る。
遠いな。ただ、火山の溶岩を使えれば、燃料問題って解決すると思う。人間には無理だろうけど、火竜のオレならば出来るんじゃないかなあ。しかし、今は無理だな。
ボッ
オレは火を吹いて枯れ木に着火し、野焼きを行う。順次枯れ草や枯れ木を投入して、火勢を保った。火をつけて3時間。野焼きを終了して、土器床を取り出したが・・・・・・
「あちゃー、割れてるな」
「上手く行かないもんさねー」
「上手く行きませんね。どうしますか?」
そばでずっと見ていたスゥーイとユズとが残念そうに言った。
「駄目だったの~」
桜と椿がひょいっと顔を出した。椿は、これまでも再々こちらを見ていた。どうやら、自分がやりたいようなのだが、この前椿焼きをやったばかりだ。負担を掛けすぎたくはない。
「ま、器ほど拘る事もない。口に入れるわけじゃないからな。割れた部分は粘土でくっつけよう」
「それでいいのですか」
「うーん、多分、それでも問題ないと思うよ。それに問題があれば、また手を打てばいい」
「そうでうすね。やってみれば、上手く行くかもしれません」
そんな会話をしていると、椿がアピールしてくる。
困ったな。
なんとなくではあるが、この前の窯焼きで椿が消耗している事が分かる。負担は掛けたくないんだがな。特に窯焼き、そしてこの野焼きにしても、椿の拘束時間は数時間から4~5時間と長いから、それをした後は出来るだけ休ませたい。
「椿、ここはオレに譲ってくれないか。お前はこの前に大仕事をしたばかりだろ。オレにも火竜としての、男としての意地ってものがあるんだ」
そういうと、仕方ないなあとばかりに椿は桜にしたがって家に戻って行った。
「ツバキちゃんに、あまり無理させられませんからね」
「全くだ」
「なるほど、あの火の精霊を休ませるために言ったのかい」
「まあな」
「確かに、火竜の意地が野焼きじゃ、しまらないもんさね」
グハッ
スゥーイよ、少しはあったのだよ。火竜としての意地が、その・・・・・・
「そもそも、野焼きをする火竜ってなんなのさ」
「そう? 海を泳いだり、気球に乗って空を飛ぼうするより、よっぽど火竜らしいと思うわよ」
・・・・・・
気を取り直して、割れた土器床を家に持ち帰る。
土器床を設置する前準備として、両手で持つくらいの大きさで、表面が出来るだけ平たい石を選抜して、オレと桜が座る場所に置く。これを土に押し込んで、上部の平坦を維持し、その上に土器床を置く。ついで、土器床の割れたところに粘土を塗り、繋ぎ合わせる。
これで、オレ達は土から離れることが出来る。そっと乗ってみたが、大丈夫そうだ。乱暴に扱わなければ、割れることはないだろう。
ビタン
完成に喜んだオレは、思わず尻尾を振った。
「あっ」
「コクヨウ」
「ありゃ~割れちゃったね~」
しまった。オレが尻尾をふっただけで、土器床が割れてしまった。完成したばかりだというのに。オレは泣く泣く、割れた部分に追加で粘土を塗って修復した。
土器床の上に、クッションとなるものを置いた方が良いな。そのまま座るのも地味に痛い。何かの布を敷きたかったが、そんな余剰の布も無い。何かないものだろうか。
枯れ草・・・・・・引火するな。
昆布・・・・・・乾かせば、いや、食べれるものだし。
はー、なかなか良いものはないなあ。
現状はそっと乗ることで対処しよう。