第二十六話 二回目の椿焼き
斜面に全員が集まる。ここは窯がある場所だ。火の精霊椿による陶器の焼成を再び行っている。忙しいのは当の椿と、その椿と交信をしているオレ・コクヨウ、それの記録を取るルーガ少尉に、椿の存在が消失しないように念のために外部でつけている火を管理しているウココの4人だけだ。後はのんびり待っている。
やがて、オレが合図をすると、窯の蓋をギョウコが取った。そしてしばらくして、中から椿が出てきた。
パチパチパチ
全員が拍手で出迎える。まだ2回目だが、恒例行事になりつつあるようだ。
ふんす
椿は片手を上げて天を突き、自慢げにしていた。いやいや、椿大先生にはいつもお世話になっています。
これからゆっくりと冷やしていくのだが、それはオレ達だけが残って待つ事にした。キノト王子と椿たち女性陣は先に家に戻る。オレ達も冷めるまでどこかで時間を潰せば良かったのだが、なんとなく残った。
オレとルーガ少尉は書き留めた記録について、話をしている。残念ながら、オレはまだこちらの文字を読めない。幼児用の読み書きの教本を先の船便で手に入れているが、習得はまだだ。しかし、数字は分かるので、この場合の記録を見るのにそこまで苦労はしない。
「まだ、中の出来具合は分かりませんからね」
「一応、椿の感情的には、上機嫌だったから、出来は良いと思うよ」
「そうですか。やはり日干しする日数が肝要なんでしょうね」
「それに、温度上昇だねえ。今回はゆっくりとやってもらったから」
温度計がないのは、不便かな。結局は、そんな感じの温度っていうしかない。ゆっくりと温度を上げてもらったというのも、感覚だけの話しだ。
ルーガ少尉と話をしていると、ウココが火を使って吸い物を作ってくれた。昆布茶で出汁を取り、焼いた魚のブロック一つずつ入っている。オレ用のは少々大きい椀で魚のブロックは三つ入っている。
ズズズー
ハムハム
うむ。
こちらの出来も良いものだ。こんぶのおだしー。
数時間が経ったとき、キノト王子が戻って来た。出来が気になったのだろう。
やがて、冷却が終わった窯の中から出来た陶器を慎重に取り出す。キノト王子が作った椀もその中にある。
「これ、父様に差し上げるんだ」
「おう、王様も喜ぶよー」
「えへへ」
それは、キノト王子作の陶器で、今作の中でも出来の良いものだった。やっぱり彼は才能あるのかな。オレなどは手の短さから不恰好なものしか作れない。しかもそのオレ作は窯の容量的に却下されてしまった。同じ手の短い桜の物は窯に入れられたというのに。
キノト王子は慎重に布に包んで、家の方に持ち帰った。その後、オレ達は残りの陶器を取り出し、確認する。
「出来はそこそこか」
「何作か、欠けがありますね」
「これは、発色が良いんじゃありませんか」
陶器には草木の灰を塗っている。簡単な釉薬だ。草木の種類だとか、部位だとかの区別はしていない。色はバラバラで、濃淡もバラバラだ。それでも釉薬としては使えたようだ。
これを、各人で家まで手で持ち運ぶ。ソリや大八車を使うと、振動でせっかくの陶器が欠けたり、落ちて割れたりしかねない。出来上がったものを全て家に運び終える頃には、日が落ちていた。
キノト王子たちは今回の船便で、一度大陸に戻る予定である。火竜島攻略と入植の中間報告だ。
そして、入植も目的なので、大陸からの一方的な支援をいつまでも受けられない。自給自足を基本とするにしても、大陸との航路を活用しない手はないだろう。交易をするというのは、元々の構想のひとつだったらしい。そこで、輸出をする品目として筆頭に上がったのが陶器だ。次点は昆布茶・お吸い物。
ただ、問題はある。陶器の製作に、火の精霊椿が関わっている事がバレてしまったら、それも面倒だ。各地で火の精霊狩りとか発生するかも。それ故に、陶器の出来が良すぎて注目を浴びるのは不味い。だからと言って、売れないレベルでも不味い。ちょうど良い具合の出来の物を選別しないといけない。
例外は、キノト王子作の王様・・・・・・えーと、プレグフル王への献上品だ。これの出来が良くても、一品だけならばたまたまと思われるだろう。また、出来るだけ他者に見られないようにお願いする事も可能だ。
そして、昆布茶。
輸出品の次点ではあるが、煙幕代わりには丁度良いだろう。ルーガ少尉が残念がっていたが、昆布から作った事は公表する。火竜島の限定の特産にしたくはあったが、秘密にして探られても困るからな。
公表してしまえば大陸でも作られてしまうかも知れないが、人気が出なければ真似されもしないだろう。どうだろう、人気出るだろうか。昆布茶より、お出汁の方が人気でるかもなあ。
大陸で昆布の採れる場所とかは分からん。そもそも、昆布なんて意識もされていなかったから、あるかどうかも分からん。食べられていなかったものだしな。だから、真似しようとする者が出ても簡単には行かないだろう。
陶器の選別はハーサ王妃に頼んでいる。誰も彼も、陶器、芸術品の良し悪しなんて知らない。しかし、そういう事を考えるまでも無く、割れ・欠けのない物が選ばれただけだ。大したものは出来ていないわけで、ただの素焼きに過ぎない。
「売れることは売れると思いますが、大した金額にはならないと思います」
ハーサ王妃が無慈悲に答えた。もっと良い釉薬を調達するか、もっと高温にして磁器を作るか。これ以上良いものを作っても、怪しまれなさそうなのは助かるが・・・・・・
「なかなか、ままなりませんな」
「そうだねえ・・・・・・」
コリン隊長と一緒に溜息をついた。