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第二十五話 火竜は空を飛びたい

「気球って、聞いたことある?」

「ありますよ」


 ルーガ少尉が呆気なく教えてくれた。ないんじゃないかなあ、と思っていただけに、嬉しい誤算だ。一方でユズ達は首を傾げている。多分一般的な物ではないのだろう。

 ついでに桜と椿も一緒に首を傾げている。こちらは真似ているだけのようだ。


「気球ってなんですか」


 ユズが代表して聞いてくる。


「空を飛ぶ乗り物ですね」

「人間が発明したものだよー」


 ルーガ少尉の説明にオレが付け足してみた。

 そう、気球は空を飛ぶ事を願った人間の道具だ。だから、人間にも作れるし空を飛べない人間でも飛べるようになる。つまり、現状では空を飛べないオレにも空を飛ぶことを可能にする道具でもある。


「鳥でも竜でもないのに、空が飛べるのですか?」

「どうして~?」

「えーとだね。焚き火なんかした時に、煙とか空気とかが上昇するだろ」

「お~、煙は上に行くねえ~」

「・・・・・・そうですね。湯気の上にスカーフを広げると浮きますね」


 その通りだけど、ユズは以前にスカーフを湯気の上に乗せた事があるんだろうか。妙な事を試しているな。


「そうそう、熱すると空気は上に行く。その特徴を生かして、上昇する空気を袋に溜めておけば、飛べる。それが気球だ」


 うん、これでいいはずだ。


「気球って奴はさ。昔、大霊峰の竜に会おうって使われたって聞くのさー。でも失敗したって聞いているんだけどな」

「気球は難しいですよ。飛び続けるために大量の燃料が必要で、移動方向も速度も風任せです」


 スゥーイとルーガ少尉が否定的な意見を出してきた。


 あー・・・・・・

 

 気球だとそうなるか、飛行船の方がいいかな。しかし、動力と、ヘリウムか水素が必要になってくる。ああ、こっちはやっぱりハードル高いなあ。まずは気球を考えようか。


「軍部での運用は、最前線付近での観測気球ですね。浮かぶだけで、縄で地上と結んで移動はさせません」

「ほー。今の軍では、そんな事をやっているのか」


 ルーガ少尉と退役軍人のコリン隊長が話を続ける。そうか、浮かぶだけとは言え、実運用されているんだな。作れる人がいる、作り方が分かっているのはありがたいな。


「空を飛ぶならば、気球よりも飛竜の方が使われますよ」


 クッ、飛竜に負けるか。そりゃ、自由度は飛竜の方が上かもしれないが、飛竜はレアだろうに。


「そんなに、飛竜っているの?」

「数は少ないですね。しかし気球と比べれば、まだ数はいます。それに自由に動き回れますし、餌は必要ですけど燃料の心配も要りません」

「そうじゃのう」

「観測気球以外では、一部の好事家が持っているくらいです」


 ううむ


 入手も製作も少々ハードルが高いか。だが、座して待つよりも空を飛べる可能性がある。


「それでコクヨウ。気球を作ってどうするのです? 話を聞いている限りでは、浮かぶだけですよ」


 ユズの指摘に一瞬固まる。


「それに、火竜島での生活に必要とも思えません」

「うぐっ、いや、ほら、えーと・・・・・・」


 その通りだ。火竜島の内情的に、まだ余裕があるわけではない。以前と比べると遥かにマシになってきたが、早急に必要というわけではないければ、後回しになる。


「上部からみる景色は、地図を書くのには使えますね」


 ルーガ少尉がフォローしてくれたので、それに乗ってみた。


「そうそう、火山に再々登るのは、手間と時間が掛かる上に、大蛇がいるよ」

「それに風任せになりますが、島内の移動に使えます」

「そうそう、使い道はあるよ」


「ただ、現状で優先する事ではないでしょう」


 ガフッ


 上げて落とすか。しかし、反論は出来ない。今の段階で必要かと言われれば、やはり要らないとなる。だが、ここで諦めてなるものか。


「材料も燃料もありませんな」

「いや・・・・・・燃料なら当てはある」


 そう言って、オレは椿大先生に視線を向ける。そう、火の精霊の椿ならば、気球をずっと熱する事が出来るのだ。本当、彼女の燃料元ってなんだろうなあ。


「なるほど、確かに可能ではあるでしょうね」

「そうなの~?」


 桜が浮かんでいる椿を鼻で指してみた。それに合わせて全員が注目をする。


 ふんす


 椿は自分が注目されているのをみて、胸を張った。椿大先生は、頼りになるなあ。


「しかし、気球の袋はどうしますか。気密性が必要です。その辺の布を縫い合わせるわけにはいきませんし、天幕は余ってませんよ」

「そっちも考えてある」

「ほう?」


 ルーガ少尉は興味を持った様だ。気球の新しい材料ともなれば、関心がわいてくるのだろう。


「布で袋を作り、その布に昆布を貼り付けて気密性をつける!」


 昆布先生は万能なのだ、食べれる、お茶に出来る、吸い物に出来る。そして、気球にもなる! ちょっと生臭いってくらいだけが、欠点なだけだ。


 ・・・・・・


「無理です」

「デスヨネー」


 一言で返された。

 どうやら、昆布先生は椿大先生ほど万能ではないらしい。

 いや、オレもどことなく無理じゃないかなーと思っていたよ。気密性は高いけど、柔軟性もなければ頑丈でもない。破かずに張り合わせるのも難しいし、熱で変質して縮む可能性も高い。


「いやー、冗談だよ冗談。はっはっは」


 みんなの目が冷たい。


「昆布はまだしも、布に気密性の高いモノを貼り付けるのは、有効でしょう。ただ、その気密性の高いモノの入手が出来そうにありません。船便で気球を持ってきた方が良いでしょう」

「そだねー」


 無理矢理作っても、浮かびそうにも無いしね。完成品を大陸から持ってきた方がマシかー。


「ただ、今は漁用の小船の方が優先されますね」


 あうっ


「小船を持ち込むのだけでも大変ですからね。南海洋丸は大して大きくはないですから」


 そうか、そっちも必要だな。そして大物だ。小船を持ってきた場合、気球を置く場所が難しくなるのか。そうだよね。南海洋丸って大きくないもんね。


「あー・・・・・・そう言えば、大八車なんかも欲しいねえ」

「今回で一台は用意していますが、もう2~3台欲しいですね」

「何を優先させるかは、また相談しなければいけないでしょうな」

「でも、コクヨウ、気球はないですよ」


 ううっ


 いや、でも、待てよ。


「小船を曳航して、その中に気球を・・・・・・なんでもありません」


 みんなの目が急に痛くなった。そんな中だが、一人、ルーガ少尉が妥協してくれた。


「仕方ありませんね。注文しておきますよ。どの道、気球なんて注文して直ぐには手に入りませんから、火竜島に持ち込めるのは、次の次の便になります。その時ならば余裕もあるでしょう」


 そのルーガ少尉の提案には、誰も反論しなかった。さすがに、その時には余裕があるだろう。なるほど、注文してもすぐに手に入りはしないだろうからなあ。そういうのもありか。


「おお、ルーガ少尉、ありがとう」

「いえ、代金は、コクヨウ殿の鱗を売ったお金から出していいですね?」

「いいよー、まだ残っていたんだね」

「予想以上の値が出ていたようですからね。ただ、多分、これで使い切りになると思いますよ」

「いいよ、いいよ。それじゃ、気球よろしくねー」


 交渉は成立した。


「それと、多分、入手出来るのは軍が使っていた2人乗りの観測気球の中古になると思います。そちらの方が入手は容易いし、安上がりですからね」

「構わない、構わない」


 いやっほー、ルーガ少尉愛してる。軍部の不用品整理に使われた気がしないでもないが、構いやしない。

 こうして、オレが空に上がれる日が近づいた。


「でも結局は浮くだけで、飛べるわけではないのでしょう?」


 ユズ、そこは突っ込まないで。

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