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第二十四話 火竜?の奇妙な生態

「ふっふっふーん」


 竜生態研究家のスゥーイは上機嫌だった。


「これで私もトリプルなのさ」


 彼女は、オレ黒曜と桜の鱗、そして、自前で持ってきた鱗とで計三枚。これが入った小瓶をつけた首飾りを振り回して、踊っていた。


「トリプルって?」

「竜から直接鱗を貰った数が一つならシングル、二つならダブル」


 大きく身振りをして、オレの目の前に小瓶に入った三枚の鱗を突きつけた。


「三枚持ちはトリプルと言われて、羨望の的なのさ~」


 それを竜のオレに突きつけてどうするんだ。竜のオレがそれを羨ましく思うなんて事はないぞ。しかし、これだと島のみんなは全員ダブルじゃないか。そんなに珍しくも無い。


「スゥーイ、何度も言うけれど、サクラさんの鱗は島の外に持ち出したら駄目よ」

「ううっ、分かってるわよ。さすがに、これは不味いのは分かるさ」


 ユズの忠告にがっかりしながらも、小瓶を掲げ桜の白い鱗を見上げている。綺麗なものだ。


「綺麗過ぎる。こりゃ知られたら、殺し合いになるさね」

「人間って大変だね~。鱗なんて食べられる物じゃないのに~」


 桜はスゥーイが持ってきたリンゴを齧っている。オレも少し貰ったが、日本の知識にあるリンゴと比べると酸っぱいと思う。こっちは品種改良とかはしてないだろうからな。


 椿もリンゴを貰い、それを燃やしてご満悦だ。リンゴを焼いた匂いを嗅いでいたようだが、嗅覚があるんだろうか。家の中はリンゴの匂いでいっぱいだ。ああ、そうか、酸っぱいリンゴも焼きリンゴにすれば甘くなるな。失敗したな。今度機会があったら焼いて食べよう。


「しかし、鱗なんて拾えるだろ。それに滅多に出ないだろうけど、買える。実際に、我々も1枚だけだが、売りに出した」


 ルーガ少尉が突っ込んで来た。オレの鱗が1枚数十万円クラス。高いと言えば高いが、誰でも買えるレベルだ。それでも島外不出の桜の鱗は別にしても、ステータスにはなるはすだ。が・・・・・・”学者”のステータスになるかと言えば、確かに微妙なのかも知れない。


「チッチッチ、確かにそういうのを持っているってのじゃ、意味無いのさ。高価ではあっても、装飾品としての価値ってだけだろうね。意味があるのは、竜から直接貰ったという事。だからこそのステータスなのさ」


「えっ、でもスゥーイ、それって区別が付くの?」


 ユズの疑問は最もである。拾った鱗と貰った鱗の区別なんかつきようがない。偽証されたらどうするんだろう。そういう不心得者はどこにでもいるんじゃないかな。


「・・・・・・この島のこの状態で言っても、現実味無いかもしれないけどさ・・・・・・拾った鱗の状態って、非常に悪いんだよ。こんなに綺麗な状態で残ってはいないのさ」


 スゥーイが家の中を見回す。ところどころ、オレと桜の真新しい鱗が落ちている。何かあるかもしれないからと、ルーガ少尉が剥落している鱗を集めてはいる。それでも取り零されて落ちたままのものや、今日落ちたものは残ったままだ。これらの状態は、かなり良い。欠けも傷も少ない物から、全く無い完全品すら転がっている。


「それにね。竜に貰ったものかどうかってのは、分かるものさ。当人が竜のいる場所に行ったかどうかは、記録が残るからね」

「そんなもんなの?」

「そりゃー、竜が居る様な場所は少ない上に険しいところばかりだからね。立ち入るには許可が必要なものなのさ。それに学者なんだから、そりゃー、論文の一つも出すものだからさ」


 なるほどねー。

 場合によっては、逆に鱗が論文の裏づけにでもなるのかな。それに金を碌に持ってなさそうな学者が、高価な完品の竜の鱗を持っていたら、それは、竜と親しくしてたって証拠になるだろうな。


「保存にも気を使うんだよー。竜の鱗は劣化しづらいけど、しないわけじゃないからさ。それに何かの拍子で欠けたり割れたりすると、大変だからね。だからこうして、精油を入れた小瓶で保管するのさー」


 へー、竜の鱗の保管方法なんてあるんだ。あれ、ルーガ少尉が青冷めているな。そういや、結構、オレ達の鱗を集めているんだっけ。保管は・・・・・・こういう環境だしなあ。適当に置かれているだけだろうなあ。


 慌てた様子で、スゥーイに保管方法を聞いている。当面のところ精油の入手なんて無理だろうからな。大陸から購入しないと、この火竜島にはない。ルーガ少尉以外の人も、スゥーイに保管方法を聞いている。取り扱い慎重にしないといけないんだろうな。しかし、何も無い状態だと、布で包んでおくくらいか。


 オレはちょっと暇になって来たので、頼んでおいた竜関係の本を手に取る。

 ・・・・・・字が読めん。

 本を開くのにも、竜の短い手だときつい。片手で開くしかない。仕方ないので、ユズに読んでもらうことにした。そうやって、本を読み進める事は出来たが、あんまり大したことは書かれていないようだ。この本はハズレかな。


 しばらくして、みんなから解放されたスゥーイがやって来た。


「ほうほう、コクヨウ君、それは竜の専門書だね。火竜がそれを開くのも妙な話しだが・・・・・・何か知りたい事があるのかね。この竜生態専門家のスゥーイお姉さんが教えてあげようではないか。何が知りたいのさ?」


「うん、火竜の空の飛び方」

「・・・・・・君、本当に火竜なのさ?」

「か、火竜だよ! 立派な火竜だよ! ね、みんな」


 オレは必死に自分が火竜であることを主張する。


 パサパサ


 狭い家だから、翼を大きく広げられないから、小さく動かす。立派な火竜である。だが、周りの人間は何故か目を逸らした。一緒に桜と椿も目を逸らす。いや、二人はよく分かってないだけだよね。周りを真似しただけだよね。


「・・・・・・少なくても、あんな泳ぎ方をする火竜は存在しないと思いますよ」


 ガハッ

 ユズの指摘に、オレは倒れ伏した。


「いやいや、そもそも泳ぐ火竜ってなんなのさ。水竜じゃないのかい」

「火竜です。ワタシハカリュウデスヨ」


 家の中なので、証拠となる火を吐くのは避けた。椿がいれば火をコントロール出来るので、うっかりしなければ着火はしないけど。なんとも反証しづらい状況に陥ってしまった。


 あうあうあー

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