第二十二話 トイレと発酵所完成(引続き汚い話です。ご注意下さい)
トイレの土台を作る。壺を置くための一階部分の石垣を組み終えた。壺の高さで済むから、石垣よりは楽と思ったが、壺の高さって50cmくらいある。結局、家を取り巻く石垣と同程度の高さで、四角く囲った小さい石垣を作った。形としては、家を囲う石垣を小さくしたようなものになった。
トイレの設置場所は家からやや離れたところを選んだ。遠いと利便性が悪く、近いと匂いが来る。
臭い。
難しいものだ。そして、周囲よりも高い場所を選んだのだが・・・・・・
「高い場所は遮蔽性に劣るので、もう少し窪んだ所にしませんか?」
「駄目。窪んだ所だと、水没する危険性がある」
雨の多い火竜島なので、そういった心配があるのだ。女性陣を代表したユズの提案は、却下する。恨みがましい目で見ても駄目。水没したら、便壺から溢れてしまう。
やばいやばい。衛生悪化まっしぐらだ。
ここ火竜島は人が住まなかった場所だ。そこでの生活なのだ。羞恥心とか、その辺に捨てて欲しい。つい今までだって、その辺で・・・・・・おっと。
4つも作るのは閉口したが、逆らえなかった。高台に作る事と引き換えの、暗黙の条件だ。ユズの無言の圧力が強い。
しかも手間の掛かる事に、隣接ではなく男女で場所を離せとの事だ。隣接で良いのならば、一辺分は共同に出来ると考えていた。最初の構想から大きく変わる。この件に関しては、オレの味方は誰もいなかった。コリン隊長はむしろ積極的にユズの案に賛同していた。
いくら王族だからってなー・・・・・・
ルーガ少尉も反対せず、黙々と次の船便用の注文書に大きな壺と書くだけだ。
「ユズが望むなら、そうすれば~?ねえ、コクヨウ~」
桜もユズの味方をした。魚の干物を食べさせてもらいながら、更にユズに撫で回されながらの発言だ。買収されたようにしか見えないが、元々桜はこっち方面には無頓着だ。ユズの要望を聞いても問題ないと考えているのだろう。
改めて、火竜であるオレにはこの感覚は分からない。
人と竜の認識の違い、感覚の違い。人間がこういうのを秘め事にしたがるのは知ってはいる。知識としてだけだが、オレも知っている。それに配慮するのも、拒否する事でもない。しかし、時と場所を選んで欲しい。そんな事を言える状況ではないと思うのだがなあ。つい昨日まで、その辺で・・・・・・おっと。
今日何度目かの同じ愚痴に対して、ユズの目がまた光ったように感じる。
岩を砕く、大石を運ぶ、石を積み上げる。もう、慣れた物だ。
大石と大石の間の隙間に中くらいの石を挟み込み、残った隙間に粘土を詰める。こちらはユズ達が分業してくれた。何か、妙な情熱を感じる。そのおかげかどうか、4つ分を作り上げるのに、2日で済んだ。
オレやユズ達が土台を作っている間に、コリン隊長達は丸太で柱と梁を作った。天幕はどこからか引っ張り出して、覆いになる程度の物が用意された。家用に作られた天幕で全部使われたものと思ったいたが、どこから出したのやら。
ただ、この天幕は一つ分しかなく、人間の女性用にのみ設置された。コレが、女尊男卑という奴か・・・・・・いや、女性の桜用のもないけれど。
一階部分に大きな壺を入れる。二階の床に開けた穴に合う様に調整した。こうしてトイレが完成した。それを見て、女性陣は拍手で完成を祝っていた。そんなに嬉しいのかね。たかがトイレだぞ。
日本の知識をフルに活用して、最新のトイレでも作ったらどうなるんだろう。周囲の荒野を見渡す。現状では、作るのは無理っぽいがな。
そして、便壺を発酵させる場所も作る。日本の昔では、肥溜めが土に埋められていた。地熱も利用していたのだろうか。だが、ここ火竜島では埋める方式は採らない。ここの温暖な気候からすれば、地上でも大丈夫だろう。それに雨が多くて、下手すると溢れる。
あれ? 日本も雨は多かったはずだ。川の氾濫とかも頻繁にあったと思うけど、肥溜めどうしてたんだろうなあ。
疑問に思いながらも、適当な斜面をみつける。南を向いている、ほどよい場所だ。日が差し込む場所にしたかったのだ。太陽熱で発酵を促すつもり。家の場所よりちょっと遠い。近いとまずいからな。匂いも問題ならば、衛生的にも問題だ。消毒をどうするかなあ。消毒液なんてないし、やっぱり熱処理か。
椿にさせたくはないしな。枯れ木や枯れ草を集めて燃すか。コリン隊長のウインドスラッシュで風を送れば、燃えるだろう。えーと、必要な温度は、60度だっけ70度だっけ、その辺だ。燃やして熱すれば、そこまで行くだろう。煮沸の100度まで行くと、酵素が壊れるんだっけ? どうだったかなあ。うろ覚えだ。
試していくしかないなあ。そもそも、竜糞の適正値なんて、日本の知識にありはしないのだから。試行錯誤、トライエンドエラー、温故知新、七転び八起き。手間が掛かるな。
よし、細かいことは、ルーガ少尉に任せよう。記録係よろしく。
作るのを決めた斜面の設置場所に穴を掘る。高さ数十cmの位置からだ。そこから横穴を掘った。高さがないと、水が入り込んでしまう。その穴を石で囲い、丸太で作った柱を入れて支えにする。石材は豊富だなあ。
通風をどうするかは悩んだ。穴を高くしたり、横幅を広くしたりすれば、掘る手間が増える上に脆くなる。だからと言って通風をせず、空気がこもる状態にしてしまうとどうなるか。
メタンって発生したかなあ。下手をすると、爆発するとかあるかなあ。
メタンかー・・・・・・
せっかくの資源とも言えるが、これを集めてどうこうってのは無理か。火気厳禁、取り扱い注意な代物だ。収集も難しければ、保管も難しい。まあ、そっちは諦める。安全第一だ。通風に関しては、毎日朝晩、コリン隊長にウインドしてもらうか。うちわか何かで扇いで、循環させてもいい。手間が掛かりすぎるかなあ。構造的に通風できるようにしたいな。
結局、一度壊してもっと広く、高くした。支えに、木柱に加えて石柱も作った。石柱は、そのものの長方形の代物は作れなかったので、積み上げて作った。多少の不安は残るものの、これが実際に使われるまでには時間がある。様子をみて、壊れなければ大丈夫だろう。・・・・・・多分。
これらを作るのだけでも十数日掛かった。ほとんどオレ一人だったし。もっともこちらは急ぎではないので、のんびりと作らせてもらった。
こうして、火竜島初のトイレと糞肥料製造所が出来上がった。