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第二十話 昆布の佃煮作りに挑戦

「火竜・コクヨウ、いっきまーす」

「かりゅう・さくら、いっきまーす」


 青々とした海に黒と白の二筋が走る。オレと桜はもう何度も銛突き漁に出ていた。その泳ぐスピードも最初と比べれば増している。オレは泳ぐ方法も変えてみた。


 頭を下にして潜る。

 膝を抱える。

 そこから翼を羽ばたかせ、背中方向への推力を得ると、体を伸ばす。翼を折り畳んで抵抗を減らし、尻尾で舵を取って一気に目標の魚を銛で突く。羽ばたくタイミングが遅すぎて、海上に出てから羽ばたいてしまったこともある。あれは、海面に翼を打ちつけてしまって、痛かった。


 弾丸のような速さが出る。スピードのノリが良い。以前ならば、数度羽ばたく必要があった。しかし、今は一度の羽ばたきで、このスピードが出る。

 数度羽ばたくと、海中に流れの乱れが出来てしまい、それに巻き込まれてしまってスピードが出ない。特に羽ばたいている翼が巻き込まれ易い。羽ばたき一度でスピードをつけると、その乱れた海流から瞬間で脱出できる。


 この泳ぎ方では、距離は100m程度が限界になる。しかし速度は、異世界の人間の日本、いや世界の最速記録を上回るだろう。それどころか、たいていの陸上生物が相手ならば、まず泳ぎ勝てる。ライバルはペンギンくらいだろう。


 オレはペンギンに勝てるだろうか。小さな体、泳ぎに適した進化。一方で、オレは体躯が大きく太い。ほっそりとしたペンギン相手では不利は否めない。


 ・・・・・・


 クッ


 オレはペンギンに勝てないかもしれない。これからは、ペンギン先生とお呼びすべきなのだろうか。


 なお、この泳ぎ方は、桜は真似しなかった。短距離限定だが、力の全てを直進に回せる分、こちらの方が速い。通常の泳ぎ方だと、斜め下に羽ばたくのが限界で、浮上に力が持っていかれる。


「変な火竜はコクヨウ一人で十分です。サクラさんは泳げるだけでも十分でしょう」

「うん? そ~なの~?」


 ユズの反対にあってしまった。火竜が泳ぐというのにも、何か抵抗があるようだった。


「大体、その泳ぎ方でスピードが出るようになったとは限らないじゃないですか」


 いや、浮上に力が回らない分、早いはずだよ。きっと多分。


 そんな事もありながら、魚をいっぱい獲って、漁に一区切りをつける。次にオレは桜と一緒に昆布を取ることにした。誰も獲っていないからだろう。海の中の昆布はたくさんあった。豊漁だ。抱えるほどに取ると、海から上がる。


「うわーーー!」

「ば、ばけものー!」


 いきなりウココとサンが大声を上げた。

 なんだ? どうした?


 全く予兆無く、不意に海から二体の海坊主が彼らの前に現れた。異様な動きをする二体の巨人は、ゆっくりとユズ達に近づいていた。その体表はぬめぬめとしており、その奥から見える目は赤く充血していた。


 って、オレ達だ。それ。

 昆布を頭から被ってしまい、顔も鱗も見えない状態だ。ぬめぬめとした昆布の塊の化け物、海坊主にしか見えない。


「お、驚かさないで下さいよ~」

「えー、昆布大量に取ってきたってだけだよー」


 ウココ達の抗議に不満を表す。ユズは何故か微動だにしていなかった。


「? ユズ、どうかしたの?」

「なんでもありませんよ。なんでも」

「そう」

「ほら、早く取ってきた昆布を干してください」

「あっ、うん、そうだね」


 オレは、取って来た昆布を砂浜に伸ばしておいた。その間に、ユズはなにやら侍女を伴って茂みの方に行った。何をしているのか、深くは追求しない方が良いのだろう。


 桜はまだ昆布を被ったままだ。椿と一緒にキャッキャッと騒いでいる。


「おーい、桜~、その昆布も干すよー」

「は~い」


 桜が昆布を干し終わったオレのところにやって来た。そして、頭を下げる。オレは桜から昆布を剥ぎ取って、砂浜に並べる。


 なんだろう。


 桜は自分でやるよりも、オレにやってもらいたがっていた。甘えたがりかな。


 ふむ。


 全てを干し終えた後、オレは桜と頭の擦り付け合いをした。


 スリスリスリスリ


 擦り合いが一段落すると、川で塩水を落としで、その後はただ時間を潰す。日が落ちる頃に、日干しをした後に取り込む。いくつかはまた明日に日干しをする予定だが、数枚はもう加工する。やり方のお試しでもあり、練習でもある。まずは、おいしいものを作るという観点は外す。一気に製造方法の確立なんて出来はしない。そもそも調味料がほとんどないのだから。


 夕食後、月明かりを頼りに作業をする。昆布を切り分け、鍋に入れる。取ってきて置いた海水を加える。そして、煮込む。


 昆布の佃煮だ。残念ながら味付けは塩だけ、しかも海水での代用だ。みりんも醤油も砂糖もありゃしない。


 侍女の一人、ナンシーが佃煮と似た食べ物の作り方を知っていた。これは助かった。オレ一人だとどうにも不安が残る。そして、佃煮作りは、オレとナンシーで行った。他には記録係のルーガ少尉と、念のための解毒薬のユズもいる。


 あとの連中は家で休んでいる。火力は、林で拾った枯れ葉や木の枝、そして薪で賄っている。いつでもなんでも椿頼りにしていても問題だ。椿にやってもらいたい事が多いために、絞らないと過重になるだろう。そんな考えもしながら、薪をくべる。

 ナンシーが呟く。


「ああ、調味料がないのは辛いですね」

「全くだ。塩、しかも海水でどんな味になるやら」

「食べられはすると思いますよ」

「まあ、毒でもなければ、煮込めば大抵は食える」

「大雑把ですねー」


「解毒出来るからって、無理はしないで下さいよ。昆布って本当に食べられるのですか」


「大丈夫大丈夫」


 たわいも無い話をしながら、火に薪をくべ、交代で掻き混ぜる。やがて、煮汁が蒸発して少なくなった頃合を見て、味見をする。オレが先に食べて、安全を確かめる。


「う~ん、しょっぱいなあ」


 続いて、ルーガ少尉、そしてナンシーも少しだけ口にした。回復役のユズは食べさせられない。彼女がダウンすると回復させられなくなる。


「しょっぱいです。しかもちょっと苦くありませんか」

「あー、海水の・・・・・・カリウムかマグネシウムだな。これ。煮込み過ぎたか」


 ナンシーと相談しながら、入れる海水の量と、どれだけ煮込むかを研究していく。そしてルーガ少尉にそれを記録してもらう。


 3度試したら夜遅くなったので、その日はそこで終了した。続いて、翌日の午前いっぱいを使って、食べられる味に調整する。しかしただ、食べられるというまでであり、試食した皆の顔は芳しくは無かった。


 ちくしょう。


 ルーガ少尉に次に船便が来た時の注文で、砂糖を予約しておいた。この世界、いや、カミン王国に醤油はないという事で諦めた。みりんもないが、代わりに料理酒を頼んでみた。


 今回の船便でも、砂糖や酒は注文してはいるが、あまり量はないそうだ。佃煮に回せるかは微妙か。しかも酒は・・・・・・場合によってはワイン煮になるかな。ともかく、今は待つしかないか。


 塩っ辛い昆布を噛みながら、オレは船便を待つことにした。

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