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第二話 火竜対大熊 そして必殺少女

 うっ


 火山の噴火口の中にも日が差し込んで来る。日に照らされたオレは眩しさに思わず頭を下げて、それから目をゆっくりと開いた。


 妹はオレに寄りかかったまま、まだ眠っている。一方のオレは昨日の大蛇の来襲のために、ぐっすりと眠る事は出来ず、浅い眠りのままだった。用心深く周りを確認するが特に変わりはなく、大蛇の様子はない。


 何故、昨日は大蛇がやってきたのか。偶然だろうか。

 山肌は土だらけだったから、大蛇が来るようなところでもないはず。しかし、周りを注意深く見回すと・・・・・・大蛇が這ったであろう古い跡がいくつも見られた。


 あれ、あの大蛇ってひょっとして、何度か来ていたのか?

 全然分からなかったが、襲われていたのかもしれない。それでなんともなかっていたとはタマゴ固いな。丸呑みは・・・・・・ああ、下手に丸呑みすると転げ落ちるか。あの蛇、そういう分別はついたのかな。


 ちらりと、オレ達が置かれていた場所をみる。整地され、窪みがある場所は二個分の広さだ。この様子だと他の兄弟が犠牲になっていたということはなさそうだ。


 やがて、妹も目を覚ます。


「クアークアー」

「クアークアー」


 互いに頭を擦り合わせた。

 その後は、食料である芋を調達しに山を下りる。

 しかし、声はクアーとしか言えないのは不便だ。念話とか出来ないかなあ。


「おーい、言葉分かるか?」

「うん? な~に~?」


 簡単だった。念話出来るのか、竜って便利だな。


「言葉分かるか」

「うん」

「タマゴの時になにか知識が入らなかったか?」

「知識~?」

「ああ、何か、こう、そうだな。オレは異世界の知識がある」

「異世界?」

「うん、日本って国を中心とした知識、かな」

「?」

「そうだなあ・・・・・・」


 説明が難しいな。どうしたものか。


「こう、今目にしている風景以外の知識かな」

「う~ん、ひょっとして、精霊のこと?」

「精霊? 精霊って、火の精霊とか水の精霊とかの精霊?」

「そうだよ~」


 少し、不安げな声で答えて来た。どうしたんだろう。


「でもねえ。ワタシ達火竜でしょう」

「ああ、そうだな」

「精霊の知識があると言っても、火の精霊以外は使えないから、あんまり役に立たない」

「そうなのか?」

「うん、そして、火の精霊で出来ることは、火竜のワタシ達にも出来るからー・・・・・・」


 死に技能ということか。でもなあ。


「そんな事はないだろう。手数が増えるのは強力だ」

「そうかなあ」

「詳しく何が出来るかは、これから検証が必要だけど、強力なのは間違いない」

「えへへ~、そうかなあ~」


 機嫌は回復したようだ。

 会話が一段落したところで、森についた。そこで二人で芋を掘り出し、一つの穴に入れて枯れ葉を乗せた。


「そうだ、火の精霊で火をつけられないか?」

「う~ん、やってみる」


 桜が何かを呟くと、小さな火をまとまった人型が空中に現れた。これが火の精霊か。

 呼び出された火の精霊は枯れ葉に火をつけてくれた。


「うん、ありがとう」

「えへへ~」


 火が尽きないように枯れ葉、そして枯れ木も一緒に投入して、芋を焼いた。焼けた匂いがしたところで、投入を止めて、余熱で蒸らす。灰を掘り返して芋にありついた。


 二人で芋をたらふく食べて人心地する。


「水を飲みに行こうか」

「水~?」


 一服を終えた後、森を抜けて山の裾野を下り、川に向かう。川は小川程度で大きくはないが、水量はそこそこあり、綺麗な水だった。

 二人並んで水を飲む。


「クア~」

「クア~」


 バサバサ


 人心地ついて、二人で翼を伸ばして、翼の運動もする。だが、飛べる気配はない。本当に、どうやって飛ぶんだろう。


「キャーーーー!」


 二匹でのんびりしていると、突然、叫び声が響いた。

 人の声だ。人がいるのか。どうする? 助けに行くか。

 状況が分からないし、叫んだという事は、危険があるのだろう。火竜とは言っても、生まれたばかりに自分には荷が重いかもしれない。


 どうしよう。

 思考は躊躇するが、体は動いた。


 林の奥だ。悲鳴のする方へ川を渡って、林を駆け抜ける。

 木々の間に走っている人が見える。若い女性で、身に着けているのは白い神官の服装のようだ。


「キャーーー、*******」


 叫び声以降の言葉は分からない。多分、助けを求めているのだろう。日本語ではないな。英語でもフランス語でもないようだ。


 あっ、こけた。


 転んだ状態で手に持っていた杓杖を振り回すが、ゆっくりと近づくそれには何の効果もない。うめき声をあげながら女性に近づいていく、それは大熊だった。


「クアー!」


 叫び声にしては情けない声をあげて、オレは大熊の注意を引いた。大熊はオレを視認すると、立ち上がって威嚇を始めた。多分、威嚇してオレを追い払い、その後で獲物を取るつもりだろう。

 でもなければ・・・・・・


 オレはその姿を見たとき、大熊のどてっぱらに突進した。

 

 隙だらけじゃないの。

 

 立ち上がらずに、うめき声だけで威嚇してきたら、どうしただろう。だが、その隙だらけの格好に思わず突撃してしまったのだ。


 ドズン

 グアッ


 ぶちかましは決まり大熊はひるんだが、押し倒すまでには行かなかった。大熊はなお、立ったまま威嚇を続ける。大熊の腕がオレに向かって振るわれると同時に、足を掴んで引き抜いてやった。


 ドーン


 大熊を押し倒す事に成功した。この格好になると大熊の手はこちらに届かない。オレも短いけど、こいつの手も短いな。しかし、攻撃されないのはいいが、こっちも攻撃手段がない。


 いや、待て。こっちは火が吐ける。足を引っ張って引き倒しつつ、大熊の顔に向けて火を吹く。


 ボボボ


 大熊の顔が一瞬火達磨になるが、息が続かない。しかも延焼しない。


 まずい。


 長期戦になると、体力的に不利か。それに大熊の力は強い。足を引っつかんでいて、体勢的には有利なはずなのに、振り回され始めている。すると、大熊の顔周辺でくすぶっていた火が勢いを増した。

 火を纏った小型の人型が熊の顔の近くに浮いていた。妹の火の精霊だ。大熊のもう一方の足に妹がしがみついていた。


「グアーグアー」


 大熊は苦しそうにうめくが、まだまだ力は衰えていない。二人で交互に火を吹き、火勢を火の精霊が強める。


 強い。


 大熊はまだまだ暴れた。たまらず、オレは人間に声をかける。


「そこの人間! 刃物か何かないか! 決定打、とどめを刺せないか!」

「は、はい」


 通じた。念話便利だな。


 女性は、震えながら懐からナイフを取り出すと、飛び上がって大熊に襲い掛かった。怖がっていた割りに、大胆だな。落下速度を得て、全体重を乗せた一撃は、大熊の心臓に突き刺さった。


 急所への一撃ですか。


「グギャーーー」


 大熊はさらに暴れ、女性と妹は吹き飛ばされた。オレだけはまだ、足にしがみつけていた。

 火をもう一度吹く。そして、火の精霊が火勢を強くする。


「グ、ア、ア」


 やっと、大熊はその動きを止めた。吹き飛ばされた女性と妹の様子を見ると、二人とも無事のようだった。女性は近づいてきて大熊を突くが、大熊は動かない。


 三人同時に、安堵の息を吐いた。

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