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第十九話 お茶の材料を求めて

 本日はユズやキノト王子、ハーサ王妃、そして侍女達を連れ立って、林にまで来た。同行していたコリン隊長達は、いつになく気を張っている。王子達の護衛が気掛かりな様だ。


 しかし、彼らには彼らで木材の伐り出しの仕事がある。こちらの護衛に掛かりきりにはなれない。ちらりと見ると、積まれた材木の横に簡易で作られたソリが置かれている。既に、何箇所かに破損が見られる。あれで運搬していたのだから、大変だっただろう。まともな道具は次の船便が来るまでお預けなのだ。


 家の柱と梁は既に作られているので、急ぐ必要はないのだ。一日中、木を伐り出して運搬は帰りに一部だけ、一度だけにする。残りの丸太に関しては、この場で日干しする。雨に濡れはするが、台座を構えておけば、水に浸ることは無い。今はそれで十分だ。


 だから、コリン隊長達は仕事で手いっぱいになってしまい、ハーサ王妃達の護衛には付く事が出来ない。オレや桜、椿も居るとは言え、護衛対象には侍女達も居て、かなり多い。心配にもなるだろう。だが、そんなコリン隊長達の心配をよそに、オレ達は林に入っていく。


「あまり奥には行かないようにお願いしますぞ。何かあれば直ぐにお呼び下さい」

「は~い」

「おう」

「分かりました」

「大丈夫よ~」


 コリン隊長の呼び声に答えてから、オレ達は林に分け入った。忠告通り、奥には行かない。

 木の下に生えている草を確認する。この島の植生は知らないが、雨の多さ、温暖な気候から熱帯雨林のはず。しかし、林は多くは無い。目ぼしい植物を探すものの、そもそも草が少ない。


 う~ん、火山島だから、こんなものなのかなあ。

 草木が豊かならば、火竜の脅威があるとは言え、もう少し人間が入植者しているだろうしなあ。


「あ、ありました。これ、茶の葉です!」


 そんな風に考えていたら、ユズが声を上げた。そちらを見に行くと、ユズは1m程度の木についている葉を掴んでいた。茶の木の葉っぱは、椿に似た葉だ。濃い緑色で、幅と葉肉が大きく、葉の表面は光沢があってすべすべしている。

 うん、椿じゃね?


「ユズ、それ椿かもしれない」

「えっ」


 火の精霊の椿の方を見る。


「いやいや、花の椿。椿の名前の由来の花の方だよ」

「これ、茶の葉ではないんでしょうか」


 周りの侍女たちも、首を傾げている。詳しく分かるものがいない。


「分からない。花が咲けば分かり易いんだけどな」


 出来る人は茎と葉だけでも区別が付くのだろう。いやー、と言っても、茶の木も椿の一種だったかなあ。桑系な気もしたが、どうだったか。あれ、桑も椿系だったか? 違ったか? 本当に、植物図鑑か詳しい人が欲しい。


「茶の花は白い花びらに中央が黄色い雄しべだ」

「椿は赤い花びらでしたね」

「茶の木も同じ椿の種類? だったはずだから、枝や葉だけでは難しい。花が咲かないと見分けはつけ辛いな。」

「花が咲く時期ならば良かったのに」

「そうだなあ」


 もっとも、それは、茶摘みの季節を大きく外している事になる。今は何月なんだろう。この世界の島の植物の巡りはまた別だろうか。


「う~ん椿のお茶は・・・・・・出来なくはないか」

「同じ種類ですものね」

「一般的ではないし、飲みすぎるのは不味いかな」


 椿茶。確かあったはず。多分、きっと・・・・・・漢探知で行くか。ユズはジト目でこちらを見た。


「ま、まあ、予定通り、はっきりしている奴だけでやろう」

「なければ、ないで仕方ないと割り切るべきでしょうね」


 今回は仕方ないので、諦めよう。


「はあ、飲まないで下さいよ。毒でやられて横たわるコクヨウが目に浮かぶようです」

「グアッ」

「クスッ」


 侍女達も思わず笑っている。なんとも否定できない・・・


 結局、見分けの付き易いものはなく、林では芋を掘っただけに終わった。花がないと見分けが付き辛いが逆に、花が咲いていると収穫時期を外していたか。考えが及ばなかったな。


 ハーブならば、花がお茶になるものもあるけどな。そういう類のモノも見当たらない。仕方ない、成果の無い時もあるものだ。林を抜けて、コリン隊長達と合流する。今日持ち帰る分の丸太をソリに載せ、それをオレと兵士達で引っ張る。


 明日は海に昆布を取りに行こう。昆布なら、見分けが付く。昆布は食用に回したくもあったが、多分、量が取れるだろう。以前に海に入った時、漂う昆布が視界に入った。手付かずだしな。食べる量もお茶にする量も十分だろう。そういえば、ユズ達は昆布を食べるのだろうか。隣を歩くユズに問うてみる。


「なあ、ユズ、昆布って食べる?」

「いえ・・・・・・よく知らないです」


 ユズが侍女たちを振り返り確認してみる。侍女たちも首を振る。知らないようだ。


「今まで食卓に上がった事はないと思います」


 ハーサ王妃が代表して答える。


「ワシも食べた事はないな」


 コリン隊長他、ウココ達も首を振る。


「う~ん」

「異世界の日本では食べられていたのよね」

「まあね」

「なら、食べられるのよね」

「まあね。少なくてもお茶は飲めるよ」


 しかし、昆布茶か・・・・・・ほぼ、出汁だよな。吸い物か、これ。昆布茶ってどういう立ち位置なんだろう。お茶でいいのだろうか。それとも具の無い吸い物?


 こうして、オレはお茶・どくだみ茶・桑茶を諦めて、お吸い物を作る事にした。この際、お茶か吸い物かは別にして、飲み物を作るという事で。その辺は拘らなくても良いだろう。飲めれば良いのだよ。飲めれば。

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