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第十八話 雨を家でしのいで、のんびりと お茶談義

 仮設ではあるが、家は完成した。


 50cmほどの石垣

 礎石にのった丸太

 梁は丸太に釘で打ちつけている。


 打ち付けている丸太の部分は削っていて、梁をはめ込む形にしている。木組み、などと言える工夫ではないが、釘は打ち易かったとの事だ。この工夫を教えたとき、随分と驚かれた。そういえば、木組みは異世界でも、日本くらいの特異な技術だっけ。


 しかしなあ、ただ削って、平面を作るだけの話しだ。これくらいならば、海外でもあったような気がする。こっちの世界にもありそうなものだけどなあ。単純にこの島に農家とか大工とか、人員が足りないだけじゃないかなあ。


 火竜が恐れられているから、技術のある人は来ないか。入植者の人員を見ても、兵士と侍女しかいない。島暮らしの先が思いやられるなあ。火竜のオレが気にする事ではないかもしれないけどさ。


 丸太で作られた柱と梁で四角く囲う。それにハーサ王妃と侍女達で張り合わせた天幕で覆った。この家のありがたさを、今実感している。今日も今日とて、火竜島は風雨で荒れる。


 風雨の多い島だなあ。嵐レベルの強風豪雨のそのうち来るのだろうか。


 全員がこの家の中にいる。オレと桜、火竜も入れる大きさだ。火の精霊・椿もこの中では自由に飛び回っている。避難用の椀は背負っているけれど。椿には、あまり壁である天幕に近づかないように言ってある。引火したら危ない。もっとも、火そのものの制御が出来るので、引火しないようにも出来るとの事だ。火の精霊すごいな。


 雨が降っていて、寒さがあるためか、椿は人気である。暖かい。


「あーうー、雨だけじゃなくて、風も強いと何も出来ないなあ」

「それでも、以前と比べれば、お茶が沸かせますよ」


 ユズが侍女を伴い、お茶を沸かして持ってきてくれた。そのお茶を啜る。紅茶であった。


「茶葉を持ってきていたんだねー」

「はい、嵩張りませんから」


 用意されたお茶を啜る。ちょっと苦味があるかな。保管は、この環境なので良くは無い。桜は首を傾げながら舐めている。初めての味なのだろう。


「この世界にも茶木があるんだねー」

「コクヨウの知識の異世界・日本にもあるのですか」

「うん、ある」

「似通っているんですね」

「通用する部分が多くて、助かっているよ。こっちでも使える知識がある」

「そうですね。私達もその知識に助けられています」


 ユズがオレの頭を撫でてくれる。


 スリスリ


「茶木、茶の木は、熱帯に生息するから、この島でも出来ると思うよ」

「そうなんですか」

「えーと、島の面積的に、量は期待できないけどね」

「火山島でも出来るのですか」


 確か、スマトラ島でも作っていたよなあ。スマトラ島は火山島だったはず。お茶で有名なのはセイロン島だけど、あっち火山島だったかなあ?


「うん、いけるはずだよ。既に自生しているかもしれない」

「それは、楽しみですね」

「ユズ様、お一人でお探しにはならないようにお願いします」


 侍女がすかさず、注意をする。


「うっ、分かってますよ」


 大丈夫かなあ。一人で探しに行きそうだなあ。そうだ。少し話を逸らしてみよう。


「ますは、他のお茶とかハーブティーの方から作らないか?」


 茶木を探すなり栽培するなりするには時間が掛かる。その間、数に限りのある紅茶を消費するよりも、ハーブティを作った方が良いだろう。白湯は味気ないしなあ。


「ハーブティーは分かりますが、他のお茶とは?」

「うーん、ハーブティの別称かなあ」

「?」

「どくだみ草で作ったどくだみ茶とか桑の葉で作った桑茶とか」

「そういうのもあるんですね」

「俗称でお茶。茶の葉は使わないけどね」


 竹とかあると良いんだがなあ。笹茶とか。ああ、筍とかも欲しいなあ。甘茶なんかも作れるといいな。どうにも島暮らしだと甘味が不足する。しかし、甘茶って何の葉っぱから出来ているんだっけ。えーと、そのものの名前のアマチャヅル? だったか。

 どくだみ草は分かり易いんだけどな。アマチャヅルとか言われても見分けつかんなあ。ツルの植物でいいよなあ。


「しかし、う~ん、見分けつくかなあ」

「だ、大丈夫ですか?」


 漢探知で行くか。火竜のオレなら毒に当たっても大丈夫だろう。逆に大丈夫過ぎるのが問題か。オレが大丈夫でも人が大丈夫とは限らない。多分、オレが苦味を感じるようならば、避けた方が良いだろうな。


 生物の味覚はそういうものだ。基本的に、体に良いものは美味い。体に悪いものは不味い、苦い。今飲んでいる紅茶もちょっと苦いけど。うーん、この辺はよく分からんなあ。


「それに、ユズの回復魔法で、解毒出来るんだよね」

「出来ますけど、だからと言って、毒を飲むのは勧められませんよ」

「あー、まあ、念のためだよ」


 ユズが顔をしかめる。不審げだ。


「コクヨウ、無茶をしては駄目ですよ」

「危なさそうなのには、わざわざ手を出さないよ」


 大抵の植物は、天日干して火で炙れば、お茶に出来たはず。やばいのは、トリカブトとかスズランあたりか。


「まずは分かり易い奴で作って、それが上手く行けば、他に手を出す必要がない」

「そうですね。ただの白湯の彩りに命を掛ける必要はありません」

「竹とかがあれば分かり易いけどね。そうそう、海藻の昆布でもお茶が出来るな」

「竹に昆布ですか。聞きなれない言葉ですね」


 ユズが困惑している。

 オレのは異世界の日本の知識に拠っているからなあ。


「知っているのは桑くらいですよ」


 うん、そうなんだよね。異世界日本の知識が全く通用しないわけじゃない。知られているものと、知られていないものがある。名称が同じだが、これは念話による賜物だ。実際の、ユズ達の発音は異なっている。念話って便利ね。


 日本の知識であるもので、ユズ達が知らないものってどうなんだろう。知られていないものは、こっちの世界にそもそも存在しないのか。こっちの人間が発見していないのか。はたまた、この島に入植した人間が知らないだけなのか。専門家いないし、20人くらいだし、知識量少ないよなあ。


 うーん、大陸から取り寄せの本に、植物関連もお願いしておけば良かったかな。本の都とは言っていたけど。オレは周りの人間を見渡す。


「どうしましたか?」

「いや・・・・・・」


 誰もサバイバル本や、食べれる野草全集など、そういったものを持ち込んではいない。こっちの世界には、その手の本は無いのかも知れない。日本だと、野草全集みたいのは江戸時代にはあった、かな。だが、何かに特化したものは、やっぱり現代まで待たないとないよなあ。


 そうやって、雨が上がるまで、つらつらと雑談と思案を重ねて時間を過ごしだ。

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