第十七話 飛び降り式火竜式巨木割斬撃
「クアアアアアアア!」
息吹と共に、正拳突きの構えを取る。手には布を巻いただけの無骨だが、重量のある椿製ナックル。オレは目の前の岩に対して、気合を込めて正拳を突きたてた。
ドガーン
ガラガラガラ
オレの正拳突きで岩は砕けた。
「くふぅ・・・」
息を吐き、次いで岩の砕け具合を見て満足した。そこそこ大きい塊がある。岩を割り始めてたった数日だが、慣れた物だ。以前には力を込め過ぎて、一度爆散させてしまった事がある。しかし、今ではどの程度力を入れれば、程よい大きさになるかが分かる。オレと桜は砕けて程よい大きさになった石を拠点に運び込んだ。
あっ、これちょっと大きい。
ガツガツ
バコッ
家作りにおける礎石担当のオレと桜の仕事は、簡単に終わった。岩を探して数キロ、その岩を割って大石を抱えて持ち帰れば良いだけだ。往復が面倒だけど、石垣作りしていた時と比べれば少ない回数で良い。
ユズ達は天幕の張り合わせをしていた。一方で、キノト王子や椿たちは石垣の隙間に粘土を詰め乾かしている。石垣の穴埋めが全て終わるには、まだ少し時間が掛かるようだ。
ルーガ少尉に、礎石の置き場所を決めてもらい、礎石の設置は完了した。張り切り過ぎたか、大石が余ってしまった。拠点近場に適当に積み上げておく。また後で何かに使うだろう。
コリン隊長たちの木材の加工は随分と難航したようだ。うん、まあ、兵士一同、しかも警備兵なものだから、やった事などない。ルーガ少尉も知識だけはあるようだが、それも詳しいものではない。その手の人間が誰も入植者にいないとか、どうするつもりだったのか。
あー、オレ達だけだと、どうしただろうかなあ。多分、火山かどこかの小山に横穴を見つけて、そこで過ごしたかな。多分、火山のどこかには横穴あるんじゃないかな。しかし人間達は横穴でずっと住むわけには行かないはずだ。火山近くだと、火竜の産卵地に近いからそこで住めるとは思っていなかっただろう。こっちも迷惑だ。
大陸から追い立てられたってのもあるが、拙速過ぎないか。
疑問に思っていると、早く逃げ込まないと、命の危険があると感じてた。と、ウココがこっそり教えてくれた。あー、うん、仕方ないのかね。取るものもとりあえずか。着の身着のままでなかっただけ良かったのかな。キノト王子達にとって、大陸は火竜島より危険だったのか。
それにしても、と思う。
デン
と丸太が転がっている。その丸太には、鋸が突き刺さっている。鋸で縦に切って細くして、それを梁にする予定だ。地道に切っていたようだ。
「この鋸じゃあねえ」
通常、丸太切りの鋸は大きく二人掛かりで使うようなものだ。これは、大きくはあるが、一般家庭用の域を出ない。それで、既に数本は切っているのだから、大したものか。ウココ達が横でへばっている。お疲れ様。
「まだ、数本、欲しいのですが・・・・・・明日にしますか」
ある分だけで先に組み立てておくか? 残りは明日にでも斬って貰って、組み立てる。うん? いや待てよ・・・・・・う~ん。
「ちょっと試してみるか」
「は?」
「斧借りるよ~」
丸太の鋸を外して、代わりに斧を差し込む。差し込み切れなかった。鋸で切った幅は狭いので、上部で斧は止まる。
「まさか・・・・・・」
コリン隊長の呟きを聞き流して、撃ちつけ先を確認する。石に打ちつけたら、勢い余って斧を壊してしまう。土に打ちつけたら、めり込んでしまって割り切れない。掘り起こして来た切り株を用意する。
「薪割じゃないんですから・・・・・・」
「おー、コクヨウやっちゃえ~」
「離れて離れて」
斧は片手で持っている。両手で持つには、オレの手が短いし、斧の柄も短い。もう片方の手で丸太を支える。見物客が離れたのを確認して、オレは膝を何度か曲げる。まだオレは空を飛べない。だが、跳ぶ事は出来る。
斧を持ち、丸太を抱える。オレは気合一閃、空に跳び上がった。
「くおおおおおお! 竜式巨木割斬撃!」
ぽてん
どたん
オレは斧を握ったまま丸太を抱えて横たわった。
「・・・・・・跳躍が足りませんでしたね」
「グアッ」
結構跳んだよ。
この巨体で、2m跳んだよ。
凄い事だよ。
丸太の長さにちょっと足りなかっただけだよ。
いや、丸太の高さ以上に跳んだよ。
だけど、ちょっと、その。地面に丸太の先が引っかかってしまった。
「コクヨウ、どんまいだよ~」
「桜、ありがとう」
桜は慰めてくれる。オレは立ち上がって、丸太を担ぎ上げる。
「そこそこ高い場所に行こう」
「飛び降りて割るんですね」
「うん」
出来なかったのだから、次善策を打つ。
切り替え切り替え。
もう一度やって、上手く飛び上がれるかも危うい。そして、そこから斧を綺麗に打ち付けるのは更に難しい。
5mほどの高さの崖を見つけて、切り株を底におく。そこに向けて、崖の上から飛び降りて丸太を打ちつける。
ズシャーン
飛び降りたオレは見事に、切り株にヒットさせ、丸太割りに成功した。こうして、細長い板が出来あがった。これを数度行う事によって、必要な数の梁を作り終えた。
「さすが、飛び降り式竜式巨木割斬撃ですね」
ガハッ
ユズの突っ込みに、オレは丸太を抱えて倒れた。