第十六話 穴にする?石にする?
オレと桜、ユズ、ルーガ少尉、コリン隊長で、今後の家作りの思案をする。石を積み上げ終えて一休みしているオレは、石垣の中に置かれている日干し中の丸太を見る。
「材料が足りないねえ」
日干し中の丸太の数は多くは無い。運搬に使われていたソリもその横に置かれている。オレ達が大石を運んでいる際に、コリン隊長達で伐り出してきた物だ。兵士の何名かも石運びに動員していたため、丸太伐り部隊の数は少なかった。あんな簡単なソリで少人数でよく運べたものだ。
「柱の分としては十分ですが、あれを板にして壁なり屋根なりを作るには足りませんね」
「板にするための道具もないでしょ」
「う~む。日干しの時間も足らないかもしれませんな」
「日干しって?」
ユズと桜が首を傾げる。
「あー・・・・・・材木に含まれている水分を飛ばす作業工程だな」
「作業って、放りっぱなしのようですけど」
「うん、あれで十分に水分が飛ぶ」
「ほー・・・・・・」
ユズ、ちょっと半信半疑でないか?
「それでどうしてわざわざ水分を飛ばすのですか?」
「それは、水分が無くなると、材木って縮むからだ。縮む前の材木で家を建ててしまうと、その後に水分が抜けて縮んでしまって、長さが変わる。そうすると、家が歪んじゃうんだよね」
「だから、先にある程度、水分を飛ばしておけば長さが変わりにくくなるんです」
「なるほど、そのための日干しなんですね」
納得してくれたようだ。しかし面倒なんだよね、日干し。放っておけば良いだけだけど、今すぐ使いたいって時にはどうにもならん。あれ、どんくらい時間掛けるんだっけ。数ヶ月だった気がするが、それだと時間が掛かるなあ。
「う~ん、椿にやってもらえば~?」
「水分抜くのはゆっくりやらないと、木が割れたりするんだ」
「だから、自然乾燥に任せた方が良いですな」
異世界日本でも、機械乾燥で短期間の乾燥は有りはするな。でも確か自然乾燥の方が主流だったような。それに、機械乾燥も短期間であって、短時間じゃないんだよな。
一週間くらいじゃなかったっけ?
椿に熱するのをやってもらうにしても、拘束時間が一週間とか無茶苦茶だしなあ。椿に頼むなら、長くても数時間・・・・・・うん、割れるな。
「陶器作りと似ているわねえ」
言われてみれば、そうだな。陶器の方も結構長く日干しするな。
「仮屋を前提にするならば、そんなに気にする事もないかな」
「そうですな」
「緻密に組み立てるわけではないですからね」
オレは作る手順を思案して、おぼろげだが提案した。
「柱を立てて、梁を掛けて、屋根と壁は天幕を縫って作るあたりかな?」
「そうですねえ、即興で作るならば、それで良いでしょう」
「そんなところでしょうな」
建築方法を思い浮かべてみうr。日本の知識があると言っても、詳細な技術は知らないし、この環境では大して役に立たないか。道具が無さ過ぎる。
「柱はどうやって建てる?」
「どうやってとは? 立てらせて?」
「えーと、穴掘ってそこに柱を埋める柱穴方式と・・・・・・」
オレは、たどたどしく、日本の知識を思い出しながら答えた。
「石を据えてそこに柱を立てる礎石方式、というのがある」
名称これで良かったっけ?
「・・・・・・礎石?」
「穴を掘るつもりでしたが、それ以外の方法があるのですかな」
ユズとコリン隊長は知らなかったようだ。
「仮設という事で、柱穴方式にするつもりでしたが、どうしましょうか」
「まあ、仕方ないですかね」
一方、ルーガ少尉は知っていたようだ。そして、礎石方式にするか、ちょっと検討に入っているようだ。礎石を使う方法が、この世界にもあるようで助かった。ユズ達が聞いてくるだろうから、説明は彼に任せよう。
「そせき方式とは、どういうものなんですか。そちらが駄目な理由は?」
「コクヨウが勧めるのだから、そちらの方が良さそうですけど」
勧めたってほどじゃないけどな。
「石の上に柱を載せて、その柱を支柱として家を作る方法です」
「えっ、倒れませんか?」
「梁という横木で繋げば簡単に倒れません」
「簡単ではないか? 不安の残る言い方だな」
「柱穴と比べれば、倒れる危険性は高いですね」
「それなのに? 利点はあるの?」
「利点は・・・・・・コクヨウ殿?」
「そこまで説明して、何故こっちにふる?」
ルーガ少尉がいきなりこっちにふってきた。いやいや、そこまで説明したんだから、出来るでしょ。
「私も南部でそういう建築をされているというだけの、又聞きですから」
じと目で見る。こいつ、説明が面倒になったんでは? それとも、オレに手柄を譲るつもりとか? この説明で手柄も何もないと思うけどなあ。竜の知識の探りか、異世界知識の探りか。
まあ、いいか。
「簡単に言えば、柱穴方式は、柱が腐る」
「「「えっ?」」」
三人とも驚く。ルーガ少尉も知らんかったんかい。
「腐るのですか」
「根元が土の穴の中だからねー」
「ううむ。湿気ますか」
「そ、特に雨が降ったら大変」
しばらく、ユズとコリン隊長が思案に入る。桜は理解を放棄して、オレに頭を擦り付けてきた。オレもそれに応じて、擦り付け返した。
スリスリスリスリ
「なるほど、石の上ならば地面から離れるから、湿気からも遠ざかると」
「たった、数十cm・・・・・・いえ、土の穴の中と比較するなら、大きな差ですね」
「さすが、コクヨウ殿、異世界の知識を持たれるだけの事はあります」
「いや、こっちもその建築あるんだし、知っている人は知っているだろ」
「少なくても、私はそこまで詳しくは知りませんでした」
ルーガ少尉はそう言っているが、本当に知らなかったのかな。さっき驚いたこともあるし、念的にも嘘の感情は混じっていないようだけど。
「それで、それを踏まえて、穴にする? 石にする?」
「長持ちするならば、石にしたいところですな」
「作るのは仮屋ですが、どれくらい使うかは分かりかねます。長持ちするに越した事はないでしょう」
「作るのはどっちが早いのかしら」
「うーん、石の場合は、梁、横木で補強が必要かな」
「穴を掘る手間と比較すると・・・・・・」
オレが穴を掘るとして、そこまで時間は掛からないだろう。礎石を持ってくるのは探す手間を含めれば、時間が掛かる。加えて、梁に木組み加工して、組み上げる・・・・・・いや、持ち上げるのはオレがやるから、それも大して時間が掛からないだろう。
「石の方が時間が掛かるが、差が出ても1日分かなあ」
「ならば、石で行きましょう」
ユズがそう宣言した。そして誰も、それ以上の異論を出さなかった。
礎石の確保と運搬、設置はオレと桜が担当。
柱と梁の作成はルーガ少尉とコリン隊長に任せた。
天幕の張り合わせは、ユズがハーサ王妃や侍女達に頼んで、行う事にした。