第十四話 撃破!火竜正拳突き!
火竜島に新しい入植者が来て、人数が増えた。未だ、天幕と風雨が激しい時の避難所であるほら穴くらいしかない。これだと20人はきつい。しかも未だオレ達火竜は屋外の野ざらしだ。
あー・・・・・・今日も雨が降る。
火竜であるオレ達は、激しくても風雨程度にはびくともしない。しかし、濡れるのはいい気はしない。油断すると、雨が目に入る。
火山頂上に逃げ込めば雲の上になる。だから風雨に晒される事もないが食料確保が難しくなる。一々山の上り下りをするのは手間だし、大蛇もうろついている。という事で、オレ達も入れる家を作る事になった。
「どの様な家にするかにもよりますが、完成は数ヶ月先になりますね」
オレの期待をよそに、ルーガ少尉が冷たく言い放った。やむ負えない、計画を下方修正する。千里の道も一歩からだ。まずは、石垣を作る事にした。なにぶん、雨だけでなく風も強いので、防風となる物が必要だ。
ただ、ここは火竜島は火山島でもあるため、地震の心配が付きまとう。崩れることも考えて、万一があっても大丈夫なように高さは50cmくらいにする。高いと崩れた時が怖い。
オレと桜は大きな石を拾って、拠点に持ち運ぶ。そしてルーガ少尉が線引きした石垣設置場所に置く。
「おいしょっと」
「あっ、待ってください」
サンが手のひら大の石を持って、オレに呼びかけた。
「隙間が出来ますので、この石をはめ込みます。もう一度上げて貰えませんか」
「あいよー」
そう言われたので、もう一度大石を少しだけ持ち上げ、サンが隙間になりそうな所に手のひら大の石を置くのを待った。サンが石をはめ込むと、そこに隙間が合わさるように大石を置き直す。少し大石を動かして、はまり具合を調整する。牧歌的な石垣作りである。
「効率悪いなあ・・・・・・」
ルーガ少尉が隙間に詰め込む用の石を運びながら呟くが、仕方ない事である。本来は、オレと桜は大石を拠点に持ち運ぶだけにした方が良い。積み上げは他の人間に任せたいところだ。しかし、オレ達火竜以外で、こんな大石を持ち上げる事が出来ない。碌な道具がないので、人間がやるよりも火竜のオレや桜が積み上げた方が早いのだ。
積み上げて、隙間に小さ目の石を噛ませるが、それでも隙間は残る。その隙間には、陶器用の土、粘土をユズやキノト王子が詰めていく。それを椿が炙って乾かして固めていた。あまり火力が強いと、陶器のように割れ易くなるので、ほどほどにしてもらっている。
「うんしょ、うんしょ。こう詰めて、なだらかにして、反対側も詰めてー・・・・・・」
キノト王子は楽しそうに、土を詰めていた。土との相性が良いのだろうか。土魔法を使えるようになるのかも知れない。姉は水だったな。姉弟で属性が違うという事があるのだろうか。オレ達は二人とも火属性なんだけどな。
オレはまた、石を拾いに行く。手のひら大の大きさの石を数個抱えている男性陣と行き交う。その時に、大石がある場所を聞いて取りに行く。こうやって積み上げていくが、1日で出来るのは、1周分にも満たない。
はー大変だ。
やがて近辺の目ぼしい大石が尽きてしまった。探索距離を増やすか。運ぶ距離が長くなるのは、手間な上に時間が掛かるなあ。何か別の手を考えよう。そうだ。
オレは、兵士の一人、ギョウコを捕まえて訊ねた。
「ここらへんで、一番近いところにある岩はどこだろうか?」
「え、えーと、そうですね。あそこの岩が近いと思います」
「どこどこー」
「こちらです」
ギョウコに案内してもらった岩は、オレの背より少し高い岩だった。岩としては、中ぐらいの大きさかな。
「どうされるおつもりですか。これを持ち運ぶのですか」
「いやいや、さすがにこれをそのままでは、持ち運べないよ。それに、このままだと大き過ぎて石垣に使えない」
「それでは?」
オレはにやりと笑い。
「砕く」
「えっ、あの熱して冷ますという奴ですか」
「あー、いや、それやると脆くなるから、やらない」
一部だけを熱して冷まして真っ二つにするのならば、大丈夫かもしれない。手間が掛かるという事もあるが、何よりここは、地上だ。地中の状況とは異なり、足場が良いため力を込められる。
「ギョウコ、離れていて、・・・・・・もっと、離れた方がいい」
「は、はい、分かりました」
ギョウコが離れたのを確認して、オレは岩を見る。そして岩肌を撫でる。岩の前で腰を下げ、重心を安定させる。こぶしを腰に溜め、日本の知識にある空手の息吹を真似てみる。
「くああああああ」
オレは気合を十分に乗せて、腰の回転と共にこぶしを突き出す。
「くあああ、くあああああ! (火竜正拳突き!)」
ドガーン
オレのこぶしが岩に突き刺さり、大きな音を響かせた。
ビシビシ
岩はその衝撃でヒビが大きく入る。残念ながら一撃粉砕というところまでいかなかったが、もう一発打ち込めば、砕く事が出来るだろう。
「す、すごい、さすが火竜殿だ!」
そう大騒ぎするギョウコにオレは静かに告げた。
「ギョウコ、すまないが、ユズを呼んで来てくれないか」
「えっ、は、はい、分かりました。ご自慢でもされるのですか」
ギョウコはにやけた顔をみせた。それに答えて、オレはこぶしを挙げて言った。
「うぎゃーー痛い、痛いよー、こぶしが折れたー!!」
オレは尻尾を振り回し、暴れまわった。
結果、ユズが直ぐに来てくれて、回復魔法を掛けてくれた。骨折までにはいっておらず、捻挫だったようだが、物凄く痛かった。
岩はその後、ヒビに杭を打ってから割った。経緯はともかくとして、オレの目論見どおり大石の確保はなんとか出来たのだった。