第十三話 ストーンバレットとウインドスラッシュの未知なる可能性
火竜のタマゴの欠片を削って作った銛を抱えて、オレは今日も海中を潜る。泳いでいる魚では飛ぶオレから逃げられるわけがない。今日も魚を突きまくる。
今日は桜も一緒に魚を獲りに海に入った。海を走る一筋の白い線は鮮やかに見えた。
「ほ、本当に、火竜が海を泳いでいる」
「すごいでしょう」
驚くルーガ少尉に、何故か胸を張るユズだった。魚の日干しは、椿を中心に、ユズやウココ、サンにルーガ少尉も引っ張り出した。日が頭上に昇って、海水温が上がってから魚を獲り、日が傾いたら終わる。その後は川で体についた海水を洗い、魚の日干しを持って拠点に帰る。
スコーン
オレはこの日、川原のコケに足を取られて盛大にこけてしまった。
「クゲエエー」
痛い。
「ユズ~、治して~」
「はいはい、甘えん坊さんですねえ」
グゥ。
ユズは得意そうな顔で、回復魔法を掛けてくれた。ちょいちょい、ユズの回復魔法にはお世話になっている。無下にはできない。ちょっと悔しい。
「魔法って、他にはどんなものがあるの?」
「魔法ですか。土魔法、火魔法、風魔法、水魔法の4つです。ちなみに私の回復魔法は水魔法に属してますよ」
「へー。他の人は魔法を使っていないようだけど、どうなの」
「魔法を使える人は少ないですね。特にユズ王女様ほどの回復魔法の使い手は少ないですよ」
「ふふん。コクヨウさんは幸運なんですよ。私の回復魔法をふんだんに受けられるのですから」
確かに、ユズの回復魔法を当て込んでいる面もある。
助かるなあ。
オレはユズに頭を摺り寄せて、感謝の意を示した。
スリスリスリスリ
そうすると桜も真似してユズに擦り寄った。
スリスリスリスリスリスリスリスリ
「ちょ、ちょと、もういいですから」
オレ達のスリスリ攻撃にユズが音を上げた。仕方ないので離れたが、もう少し擦り寄っていたかった。桜も一緒に渋々離れる。周囲でそれを見ていたウココ達は呆れていたようだった。
「それで、他に魔法を使える人っているのかな」
「私は土魔法のストーンバレットが使えます。しかし、期待はしないで下さいね」
そう言って、ルーガ少尉は、オレ達から少し離れて、手を突き出した。
「ストーンバレット!」
そう言うと、彼の足元の小石が浮き上がり、勢いを持って飛び出した。その小石は数mを飛ぶと、勢いを無くしてバラバラと地面に落ちた。
「この程度です」
「おお~!」
当人はこの程度とは言ったが、初めて見た攻撃魔法に感動した。
「い、いや~、私が使えるのはこれだけで、自分の身を守るのがせいぜいですよ」
そう言いつつも照れていて、嬉しそうだ。
「宮廷魔法士ともなれば、桁違いに強力な魔法が使えます」
「ほへ~」
「ストーンバレットで使われる石って、その辺にある石なの?」
「上位者になれば土さえあれば石そのものの形成も出来るそうですが、私は小石がないと無理です」
ルーガ少尉はそう言いながら、腰につけた入れ物から小石を幾つか取り出した。
「ですので、小石を常備しています。小石がない場所ですと、全く使えませんから」
「ほぅー、用意周到だねえ」
「一回分だけですよ。用意周到というほどではありません」
そう言って、彼は小石をしまった。
「何回くらい使えるの?」
「1日で20回くらいです」
嬉しそうな声で答える。誉められたのは少ないのかな。
1日20回程度、1度に飛ばせるのは十数個くらいを数mか。ルーガ少尉のストーンバレット、これ、使えるな。
「あとは、コリン隊長が風魔法のウインドスラッシュが使えます」
ウココがそう答えた。へー、コリン隊長も魔法が使えるのか。
「ただ、その、衰えたとのことで、斬撃の範囲が拡大してしまうようになったと」
「今では、ただのウインドですね~」
ユズが酷い。しかし、ふむ。
「コリン隊長のウインドスラッシュは、高低は付けられるのかな。地面スレスレでも使える?」
「さ、さあ」
「また、変な事を考えていませんか」
「え、えーと、一般的にはウインドスラッシュを意図的にすれば地面スレスレでも放てます」
ほう、なるほど、出来るんだ。
「ただ、あまり効果的ではないので、普通はやりませんよ。地面に当たって威力が削がれます」
「コクヨウさん、何を考えているんですか」
「いや、ね、その、地面って石だらけで、転がると痛いじゃないか」
・・・・・・
「ウインドスラッシュとストーンバレットで野営地の小石を排除するんですか!?」
「出来る?」
「え、いや、その・・・・・・そんな事は考えた事もないですから」
「うん、ちょっと考えてみてくれるかな」
「は、はあ」
ルーガ少尉はそう言われて、指を折りながら考えてくれた。
「えーと、ウインド、スラッシュ・・・で小石を飛ばす」
考えをまとめながら、話をしているのでたどたどしい。
「それで・・・・・・排除できなかったものをストーンバレットで飛ばす???」
「うん。順序は逆でもいいけど」
「えーあー、多分、出来ますね、これ」
「よしよし」
・・・・・・
こうしてオレと桜とキノト王子は、自由に転がり回れる大地を手に入れたのである。これで存分に転がり回れる。ただ、転がりまわるオレ達を見る皆の目は痛い。天幕の下の小石も全部排除しているから、薄い布だけでも座れるようになったじゃないか。たまに、薄い靴の上から小石を踏んで、痛がっている人がいる事を、オレは知っているんだよ。
お役立ちだよ?