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第十一話 火竜の鱗の価値

 新しく火山島の仲間になった者達は、サン達に島の概観の説明を受けていた。一方でコリン隊長達は、同船便で着いた物資の確認をしていた。


「目録はこちらです。確認出来たら、受け取り印をお願いします」


 ルーガ少尉はコリン隊長に書類一式を手渡していた。コリン隊長は書類を片手に保存食やら天幕やらの追加を確認していった。しばらくして、落ち着いたところで全員集まっての会議である。議題は、次に必要な物資の注文だ。


「さて、次の船便による補給要請の明細を作りますよ」

「次の船便には、入植者の同乗はない。その分、物資が積み込める」


 ルーガ少尉が、組み立て式の机と椅子を備えて、書類を作る準備をした。天幕の中でみんなが集まり、オレと桜は天幕からはみ出ている。


「魚網が欲しいです」

「野菜とか果物とかはなんとかならないだろうか」

「斧や滑車、荷車なども・・・・・・」

「斧は今回で5本入ってきているから、足りるのではないか」

「小船でも良いので、漁船も欲しい。船から島に来るために使っている、あのボートくらいのものが欲しい」

「航路に使われている船は中型です。備え付け以外のボートの積載は少々難しいものとなりそうですよ」


 諸々話が出る。要望しているのは、主に先に入植した方だ。今回来た人たちは、必要なものの判断がつかないのだろう。それに必要と思っていれば今回で持ってきているだろう。


 さて、ここまでは協力者ではあるが、部外者でもあるオレは口を出さなかった。必要なものは、普段からその都度口にしていたから、代わりに言ってくれる人がいる。しかし、ある程度話が尽きたところで、オレは口を出す。


「ところで航路って言ってたけど、その船は通商もするの?」

「え、ええ、火竜島と王都との交易独占権が船・・・南海洋丸には与えられています。船はキノト王子に下賜されたものであり、キノト王子の独占権です。もっとも、火竜島から輸出が出来る物は、少なくても現状はないでしょう」

「ふう、特定地域との貿易独占権は本来であるならば、とんでもない特権なのだがな・・・・・・」

「人の入植がこれからで、特産物なども無い状態ですからね。交易出来そうにないですね」

「う~ん、じゃあさあ」


 オレは自分の体を掻いて、剥がれかかっていた黒い鱗を落とした。それを、ルーガ少尉に手渡した。


「これって、売れるかな」

「えーと、鱗ですか、どうでしょうか・・・・・・」


 ・・・・・・


「えーー!!」

「うおっ」


 ルーガ少尉の大声に驚いた。


「ちょっ、これ、火竜の鱗ですか」


 さっき剥がした後をカリカリと掻きながら、答える。


「そうだね。火竜の鱗だね」

「あっ!」

「そういえば・・・・・・」

「火竜って本来は珍しいのよね。すっかり馴染んでしまって、珍種って忘れていたわ」

「ユズ、珍種って、酷い」


「火竜の鱗は珍品中の珍品ですよ! これ1枚でも金貨10枚はします!」


 ルーガ少尉が興奮している。しかし、オレは金貨10枚がどの程度の価値を持つかが分からない。えーと、多分、コイン、500円硬貨程度の大きさとして・・・・・・10gくらいでいいのか? 100gとして、1g4000円くらいだっけ? ざっと40万円かー。こんな鱗1枚でその金額とはなかなか。こっちの価値と一緒かどうか分からないんだけどね。


「たいていの物は買えそうだなあ」

「ええ、買えますよ。それにしても失念していました。コクヨウ殿は火竜だったんですよね」

「オレが何に見えてたの」


 ガオッ


 口を大きく開けて自分が火竜であることをアピールする。


「そうよねえ、コクヨウの鱗って高価なんだよね」

「あ、あんまり大量に出したら値崩れするよ、そんなに価値無いよ」


 にじり寄ってくるユズから、身を遠ざける。


「ユズ、悪ふざけは止しなさい」

「うっ、はい、お母様」


 今まで誰も気がつかなかったのか、本当に馴染みすぎである。


「しかし、そうですね。これ、サクラ殿の鱗の場合は、どれほどの値が付くか」

「あっ・・・・・・白い鱗って珍しい?」

「珍しいですね。白い鱗というだけで種類問わず値が付きます。まして、それが火竜の物となる、どこま行くか」

「そんなに・・・・・・」


 あれ、一部の侍従たちが、何かを手で覆った。


「えーあー・・・・・・、桜の鱗は島外持ち出し不許可です」

「そ、そうですな、そうしたほうが良い。そうしましょう」


 コリン隊長がたどたどしくも、同意してくれた。多くの人も頷いて同意してくれた。桜はきょとんとしている。


「う~ん?あげちゃ駄目だったの?剥がれただけの物だよ~」

「いや、島内だけならば、問題ないよ」


 スリスリ


 しばらく桜と頭を摺り合わせてから、離れる。


「さて、全然考えてなかったけど、これ、まずいなあ。桜の事が知れたら大陸中から人が集まっちゃうか?」

「来ますね」


 ルーガ少尉がきっぱりと断言する。やっぱりまずいか。白色はなあ。アルビノだっけ?白い蛇とか、白いカラスとか珍重されるんだよなあ。オレの鱗は生まれたては灰色だったが、今は黒色が強い。一方で桜は変わらず綺麗な白さを保っている。


「さすが、サクラさんは人気者ですね」

「そういう問題ではありませんよ」


「そもそもコクヨウ殿の鱗も売るのは控えた方が良いと思いますな」

「あまりに大量に取れるなんて分かったら外から、鱗を取りに来る人が出てくるか」

「可能性は高いでしょうな」

「1~2枚、幸運にも拾ったのを売りに来た。と言う所が、限度でしょう」


 ただの剥がれかけの鱗だってのにね。1枚くらいならば、大丈夫そうか。


「それで、この鱗を対価に、オレ個人が買いたいものがあるんだが、仲介してくれないか」

「ええ、いいですけど、別に鱗を頂かなくても、こちらで用意しますよ」

「いえ、きちんと対価は払います。その辺は節度を持った方が良いでしょう。剥がれ落ちた鱗ですけどね」

「十分ですよ。それで、欲しいものとはなんですか。食べ物ですか?」

「食べ物も欲しいけど、それより欲しいのは本です。欲しい類の本があるかどうかは分からないですけど」

「えっ!? 食べ物じゃないの?」


 ユズが横で驚いているが、無視する。


「王都は色々な本があります。本の種類の多さに関しては、ちょっとした自慢ですよ。本の王都と言う異名まであるくらいです。お望みの本もあるでしょう」

「おおっ、それは期待できる」

「どの様な本をご所望ですか」

「はい、猿でも分かる火竜の飛び方講座初級編とかありませんか」


「「「「ありません」」」」


 綺麗に全員の声がはもった。

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