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第一話 火竜の目覚め

 意識がゆっくりと覚醒していく。やがてまどろみを抜け、目を覚ました。

 周りをうかがってみたが、何故か真っ暗だった。


 ゴツゴツ


 周囲を叩いてみると、何かがある。さらに叩いていくと、ひびが入り外の光が差し込む。

 ひびの部分を叩き上げて穴を広げ、そこから外に這い出てた。

 外は黒ずんだ土ばかりだった。


 後ろを振り返ると、そこにあったのは、穴の空いた大きなタマゴであった。


 自分の手足の感覚を確かめ、目で見る。体中に粘膜がくっついている。そして、ふいに理解する。


 自分は竜。

 それも火竜だと。


 もう一度、周辺を見回してみた。自分のいる場所は、すり鉢状の斜面の途上で、タマゴがあるのは周囲と比べて整地され、窪みが作られた場所でだ。タマゴが転げないようにされていた。


 タマゴは自分が這い出たもの以外に、もう一つあった。そのタマゴは割れておらず、まだ孵化する様子はない。


「兄弟か」


 もう一つのタマゴに変化は見られないので、周りの確認を続ける。


 ここは火山の噴火口のようだ。

 遠くの窪みの中心には溶岩が湧いている。

 斜面はなだらかで凹凸もあるので転げ落ちることはなさそうだが、あまり良い気はしない。周りに生命の気配はなく、兄弟のタマゴが一つあるばかりだ。


 自分が何者かをもう一度確認する。


 火竜・・・・・・


 それ以外に、どうもなんらかの知識がある。


 日本?


 本能か、竜の特性か、生まれた時点でなんらかの知識を持つことを認識する。多岐にわたる知識がある。ただ、あるのは知識だけだ。


「なんだろうなあ」


 どうも、竜とはそういうものらしい。タマゴ時代になんらかの高度知識を得るようだ。


 ただ・・・・・・


 もう一度自分を見る。自分が持つその知識の中に竜の情報はない。

 空想世界の産物か、せいぜい過去に恐竜ってのがいたくらい。どうやら、この世界とは全く違う異世界の知識を得たようだ。どうして、異世界の日本の知識が・・・? ああ、島の形が龍に似ているからか?


 いや、こじつけが過ぎるか。

 オレはあんな細長い龍ではなく、胴体が割りと大きい竜だから。灰色の鱗、尖った口、尻尾、そして、


 ばさり


 背中に二対の翼も持っていた。日本の島の形とは全然違う。


 ばさりばさり


 翼を動かしてみるが、飛べるような気配はない。生まれたばかりでは、無理なのだろうか。そもそも飛び方も良く分からない。


 さて、これからどうしようか。つれづれと考えていると、お腹が鳴った。辺りを見回してみるが、食べられそうな物はない。とりあえず、体に絡み付いている粘膜を舐め取る。これは多くはないものの腹の足しになる。


 ひととおり舐め取ると、火山の出口を見る。そこまで遠くはないので、ゆっくりと出口まで登った。

 登りきった山の頂上からの眺望は、ものすごく広かった。

 眼前には海が見える。そして、周囲も見回すが、ここは海に囲まれている。


 う~ん、遠くに別の陸がみえる? 違うかな。薄っすらしていて良く分からない。


 ここは島、火山島だ。でこぼこはあるが、基本円形で、そして結構大きい。

 どれくらいの大きさだろうか。淡路島とか、佐渡島とかくらいか? よく分からない。

 眼下には灰色の山肌、続いて森。その向こうには川があり林が長く続いて、少しの平野の後はすぐ海となっている。山は1000・・・・・・いや、2000m級か。高いな。


 食べ物があるとして、少なくても森まで行かないと無理か。ふと振り返り、タマゴを一度確認すると、オレは山肌をゆっくりと下り始めた。

 どれほども歩かないうちに、森にたどり着く。思いのほか簡単だった。


 火竜は・・・・・・雑食か。

 歯を舌でなぞると、犬歯は尖っており、奥歯は平たかった。人間に近いようだ。

 いや、人間よりも牙は大きくなりそうだから、肉食寄りの雑食かな。ただ、それでも草は食べられるだろう。その辺の下草の匂いを嗅ぐ。


「食べられそうかな」


 食んでみる。

 苦い。

 食べられない事もないか。


 スンスン


 地面を嗅いで、あたりを付けて掘ってみると、芋が出てきた。なんの芋だろう。

 さらに周辺を掘って芋を集め、生で齧ってみる。食べられなくはない、か。


 ジャリジャリ


 食感は悪いが、さっきの苦い草よりかはマシか。

 そうだ焼いてみよう。

 掘った穴に芋を入れ、森の奥から枯れ葉を集めて、一緒に入れる。


「火竜だから、いけるはず」


 オレは息を吸い、そして、力をこめて


 フッ


 と吹くと、火が出た。原理は良く分からない。火炎袋でもあるのか。

 それともメタン・・・・・・ゲップ? に着火か。

 はっきりとは分からず、謎のままだが、燃えればいいか。

 枯れ葉は火が着くと、一気に燃え上がる。枯れ葉を順次追加して、芋を焼いた。最初にしては上手に出来だろうか。


 ハフハフ


 焼かれた芋に食いつき、熱さに耐えながら・・・・・・

 熱くない。

 火竜だからか、熱耐性があるようだ。


 あまり美味くはないが、それでも生のままでかじるよりかはマシだ。満腹になるまで食べた後は、残った焼き芋を抱えて山を登った。


 住居は当面のところタマゴのあるあそこにするか。噴火も早々には起きなさそうだし、耐熱の高い火竜なら大丈夫だろう。


 山をひょいひょいと登っていく。竜の体力は高いな。人間や鹿なんかと比べても登るのが速い。調子よく登りきって、火山の中を覗き込むと、何かがタマゴに絡み付いている。


 なんだあれ?


 嫌な予感がする。芋を放り投げて慌てて近寄ると、タマゴに絡み付いているものが動いた。大蛇だ。かなり大きい。


「兄弟に何してくれてんだー!」


 蛇が頭を上げて威嚇してきたが、そんなの知るか。蛇頭に一撃食らわせると、タマゴに絡んでいる胴体に噛みつく。


 ブチブチ


 蛇を噛み切ってやったが、向こうの戦意は衰えることなく、こっちに襲い掛かって来る。だが、タマゴから除けるのには成功した。

 蛇はオレを締め付けて来た。

 戦いは向こうの方が上手で、オレは最初の噛みつき以外に、何もで出来ずに蛇に巻きつかれるままだ。


「こんのやろう」


 オレは蛇に巻きつかれながら斜面を転がり落ちた。目指すは溶岩。


「耐熱勝負じゃー!」


 火竜に分があるはず。生まれたての自分が、この蛇に勝てるとすればそれくらいだろう。それは、功を奏したのか、溶岩の間際まで転がり落ちると熱を嫌った、蛇は拘束を解いて上に逃げようとする。


「逃がすか!」


 オレは蛇の尻尾を噛んで、思いっきり振り上げる。そしてそのまま溶岩にぶん投げてやった。


「ギシャー!」


 溶岩に投げ入れられた蛇は断末魔を上げ、身をグネグネとよじりながら燃え上がり、やがて動かなくなった。


「はあ、はあ、ざまあみろ」


 オレは、その様子を確認した後、タマゴを確認する。

 なんともないようだ。


 体力を使い果たしたため、足取りは重いがそれでも早く登った。近寄ってタマゴをもう一度確認するが、蛇に巻きつかれた跡も噛まれた跡もなかった。


「丈夫だな。当たり前か。竜のタマゴだもんな」


 慌てて蛇を追い払ったが、そこまでしなくても良かったのだろうか? 蛇程度でどうにかなるものではないか。

 いや、もし丸呑みでもされていたら、竜のタマゴでも無事じゃなかったかもしれない。

 そう思っていると、


「クアー」


 タマゴの中から声がする。兄弟、弟? どうやら、生まれるらしい。


「クアー」


 オレはタマゴの中の声に応えて見た。


「クアークアー」

「クアークアー」


 しばらく、鳴き合っていると、タマゴの殻にヒビが入った。

 そのヒビは大きくなり、やがて一匹の火竜が現れる。それは白色の強い桜色の鱗を持っていた。弟、ではない、なんとなく体躯が違うので、妹のようだ。


「クアー」


 しばらく体に絡みついている粘膜を舐め取る。そして、自分に視線を向けると近寄ってきて、頭を擦り付けてくる。これが竜のスキンシップだろうか。なんとはなしに自分も擦り返した。


 擦り合いに満足すると、投げ捨てた芋の場所まで一緒に移動した。ひとつ食べてみせて、妹にも食べるように促した。


「クアー」


 焼き芋を食べると、気に入ったようで、残りの焼き芋も食べ始めた。全部食べ終わると、身を寄せてきて、そのまま眠り始めた。


 日も傾いてきているので、もう少しで夜になるだろう。自分もうとうとし始めた。

 蛇の来襲があったので場所を移したかったが、どうにも睡魔に勝てず、そのまま一緒に眠ってしまった。

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