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第八話 ミザリーの処遇

小難しい話が増えつつあります。もう少ししたら収まるので御容赦ください!


  少年の目にはしっかりとザイモールが映し出されている。それは遠くからでも良くわかるほどに直視されている。それに、隣の少女は明らかに動揺しているように見える。


  すると、敵では無いと判断したのか次第に感じている気迫が薄れていった。もはや隠れていても無駄だと思ったザイモールは少年少女の元へゆっくりと歩みを進める。


  装束を身にまとい、圧倒的強者の様な風貌をしていてもザイモールは自力で潜在するオードを欺ける為、オードの感知が出来る者になればなるほど警戒心を持たれることが無い。


(随分と面白い子供だな、よく見れば見るほど闇の魔力オードが右手で渦巻いているよ)


  少年も御多分に漏れず、力の感知を出来る者として、ザイモールへの警戒を解いたのだろう。所詮はこの程度、ザイモールは心の浅い所で軽く笑う。それに、この程度の子供の力であれば自身の足元にも及ばない。


  悠然と構えるザイモールにディンは適確にザイモールを視界に捉え続けている。ディンには僅かだが、オードではない個人の秘めた気の流れが読めている。ザイモールが隠したオード以外の力。


  悠々閑閑と流れる様な気の流れ。想像もつかない、尋常じゃない場数を踏んだと見える。


  今ではその流れすら収めこまれているが、一目見た時に初めて心の臓を握り潰されるような強大な特異な力を感じて取ってしまった。これは勘違いなんかじゃない、とディンは確信する。


  その後一気に力が抑え込まれていく謎の男をディンは敵視しても一瞬で殺害される事が理解出来た。それ故にディンは逃げても無駄だとわかってしまった。そして、誤解を生むことなく如何にやり過ごせるか、それを優先してディンも殺意の波動を抑えたのだ。まずは相手の素性を知ることから始まる。


  そこまで考えられた少年の考えをザイモールは知らない。強者ゆえの驕りが下等生物を平等に蔑視している。少し秀でた才能があった所で相手にする気もなかった。ザイモールからすればそんなもの、大した期待もできなければ、面白くもなんとも無い。

 

  だからこそ油断して、目の前の少年。ディンに少しでも力の片鱗を見抜かれたは思わないザイモール。無味乾燥とした庶務と割り切り、薄ら笑いで少年少女に声を掛ける。


「やあやあ、君達キマイラを倒しちゃうなんて凄いね。少し見せてもらったよ。僕は冒険者協会の者なんだけどこの辺りの調査に来ててね」


  とりあえず、警戒心を和らげるかのようにお世辞から入るザイモール。その時、ディンの付けている趣味の悪い黒蛇の腕輪に目がいった。


(さっきの黒い渦の正体はこれか)


「えっ、協会? こんな所にどの様な調査をしに来たんですか?」


  少女が協会という言葉に反応した。


「もう済んだことだと思うよ。この辺一体の魔物が凄い勢いで絶滅しかけている。何か強力な魔獣が誕生したんじゃないかって話だよ」


「なるほど、そうなんですね。それなら多分私達と言うよりも、このディンがほとんどやったという事になると思います」


  確かに、目の前の少女は兎も角、この少年は恐らく普通では無い何かがあるとみた。そう思うとどれ程までの人間なのか少し試してみたくなる。そして、ディンと言われる少年の腕輪を見てザイモールは推量する。


(確か、ミザリーとかいう奴が変なもの作っていた、あれか? 形が似ている。そうだとしても、何故この子がこんなものを付けているのかさっぱりわからない……)


  記憶を遡りザイモールは答えを模索する。


「へぇ、やっぱり君なんだ? どうしてこんな事してるの?」


 考察しつつディンへと質問をするザイモール。


「オレはえっーと、強くなりたいんだ。その為にこうして魔物倒したりして……。鍛錬してたっていうか……」


  まごつくディン。そこに答えを見つけたザイモールが畳み掛ける。


「それと、一ついいかな。その’’腕輪’’、普通の物じゃ無い事は知ってる? それは魔物に扱われる物だと思うんだけど、君は魔物じゃないでしょ?  いつから付けているのさ。」


  初めてザイモールの深紅の瞳がディンに対して真っ直ぐに向けられる。思考まで読まれていそうな不思議な目力を感じる。


  ディンは勘づかれた事に一瞬表情が曇る。そして、一旦間をあけて深く呼吸をする。


「あんたは……これについて何か知ってるのか?」


「知ってるよ。その首輪みたいな物持って訳わかんないこと言ってるちびちっこいのが居て困った事があるんだよね。大体、三年前かな?」


  困ってミザリーをリダズと共に脅したのは黙って話を進めるザイモール。


「……そっか。これを知ってるなら話は早いよ。俺はこれを付けてもらったんだ」


  誤魔化しきれないと、ディンは折れる様に白状する。


(もし、その話が本当ならそんな事許される訳無い……はず。何が目的だあのチビは……)


「へ、へぇ、どうして?」


  流石のザイモールにも若干の戸惑いと焦りが見える。これはもう、禁忌とされる人体実験であると発覚してしまったからだ。そんなことに関与したとなると結末まで責を問われることとなる。


  やれやれ、面倒臭い事になりそうだと自分の不幸を呪うザイモールは調査任務を遂行するか、と腹を括った。


  それにしても、見れば見るほどこの腕輪の禍々しいオードの量、只事ではない。一見ただの黒い渦が巻いているように見えるが、この錯綜の渦は捻じ曲げられ屈折した闇の魔力の集合体だ。深すぎる。


「これで、俺のオードの力が覚醒すると思うんだ」


「覚醒ねぇ、どう覚醒するのかは分からないけど、覚醒は多分きついんじゃないかな? これ爆発するとか聞いたよ?」


「そこら辺はミザリーが何とかしてくれるって言ってるし、これはもうそろそろ取れる予定だから。俺だって無駄に待ってたわけじゃないし何とかするさ」


  一気に緊張も解れてきたのか楽しそうにザイモールに語るディン。だが、ザイモールの心中は一片たりとも楽しくなかった。


 食い気味に質問をし、怪しまれないために、問いただすことをせず少年の口から犯人を聞くことに成功した。そして、ディンという少年の口からミザリーという名が出て来た事にザイモールの推測は正しかったと再確認する。この少年も嘘をつくようにも見えないまっすぐな瞳をしている。


「やはりあのミザリーの仕業か……」


  ザイモールは呟いた。そして、頭いっぱいに個人手な憶測が飛び交う。


(これはなぁ……どうしようか……。禁呪だって誰でもわかるレベルだし協会を誤魔化すのも面倒だなぁ。多分このディン君も恐らく、魔物同様に解放時に命ごと弾けるんだろう。ミザリーは何故……この様な無謀な真似をしたのか。それを一番分かっているのは研究者本人の筈なんだが……)


  「ちょっといいかな?」


 そう言うザイモールに頷くディン。許しを得たザイモールはその腕輪に一度触れてみる。


(やっぱりこれは俺がどうこうできるやつじゃないな……)


  ディンの腕に貼り付いて剥がせないこの腕輪は、あらゆる生命の成長を妨げる妨害リングであり具現化された強固な呪いの一種。


  協会等は特殊な物だと理解しており、呪術師ミザリー協力の元、提供されるアイテムである。

 

  危険なアイテムであるだけに、完全に数の管理がされており、使用した実例の記録もあまりない。更には人に付けた前例などまず聞いたことがない。


  なぜこの少年が…? とザイモールが不思議がるのは当然である。


  その首輪の形をしたアイテムはある程度の強さを持ち、成長の余地が有りそうな中級程度の魔物に使用されている。討伐不可の時などそれだけでも付与できていれば成長を全て妨げる為次回に生きる、そういうアイテムであるとの見解はザイモールでも聞いたことがある。その点は面白いとザイモールは思っている。


  それに、こんな物あまり見ることもない。ザイモールの実力からすれば不必要であり、一度持ち出せば管理が面倒になるのだ。


  基本的には魔物の位置も分かるように装置の情報を照合して、逃さないようになっているが少年は照合されず、野放しになりながら成長を阻害されているのだろうな……。そう推測すると、この首輪は実験機か何かなのだろうとザイモールは頭を働かせる。


  同時に、ザイモールはミザリーに対しての猜疑心が強まる。こんなことを仕出かしている上に余罪を欺いた事となるミザリーに次会う時は容赦しないと思いながらも、少年の解放まで立ち会わねばと思うザイモールの隠れた生真面目な顔が垣間見えた。


「そうか……それなら、僕も協会の為に立ち会わせてもらうよ。その、ミザリーも何か確証があってのこの事なんでしょ?」


「それでいいって言うならいいけど? 確証ってのも、大したことないと思うぜ?」


「それはどうかな。ミザリーがどう考えているかによると思うよ。僕にはどういう理屈があってこんな事になっているのか分からないけど危険な賭けだよね」


 ディンがそう言うなら、とザイモールも腹を割って話す事にした。


「そんなこと最初からわかってる。これだって、オレがミザリーにやらせたみたいなもんだ。あいつは悪くないよ」


 ミザリーの肩を持つディンにザイモールも少し硬くなった頭が和らぐ。


「んー……それでもあのチビはそれを報告する義務が有りながら隠してたからなぁ。協会も黙っちゃいないだろう。多分だけど、協会の耳に入ったら処罰を受けるだろうね」


「それなら……大丈夫だと思います」


よろしければブクマ、感想お待ちしております!


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