第六話 月日が齎したもの
―――それから三年が経とうとしていた。
ディンは齢十七にして、三年前から髪の毛一本たりとも成長が見受けられない幼い十四の姿のまま。
外見はパッと見た所何も変わらないように見えてしまうが、表情はそれなりの変化をしている。
昔のディンと比べれば歪で、不相応な違和感を覚えるだろう。
それ程に鍛え、鍛え抜いた。自在に使えない力を逆手に、個としての力、自分になせる技術を磨き上げ続けたのだ。それは剣聖への道である。
それに、少年のままであるディンは自分の欲する力も足りず、腕も短ければ筋力も鍛えられることができ無い。もう少し腕が長ければ、もう少し高く跳べたなら……と、苦悶の中見出した個性とも呼べる感覚が目覚めかけていた。
それでも、根本的に力が足りずに反応が間に合わないことが有ると、一つ年の違う幼馴染のリアナと手合わせしてみて実感していた。それと、後になってからではあるが幼馴染のリアナに相談もしないでミザリーに提案した事。決断、実行に至った腕輪呪いの話をしたらこっ酷く叱られた。そして、「もう知らない!」の言葉を皮切りに数ヶ月の間口すら聞いてもらえなくなった。
とある日。リアナと修練をしようとディンは先にあの崩れかけの洞穴へ来ていた。リアナはリアナでディンの相手を真っ向からできる実力者であり、ディンの強みに気付いている。相当の潜在能力を誇る。
すっかりこの洞穴は周りへの影響を考えずに力を出すにはうってつけの場所となっていた。
「あ、もう来てたんだ! 待たせたかな?」
そういうリアナはディグル村もう一人の大英雄リダズの娘である。娘だが、あまり女々しいところもなく性別の壁をディンはあまり感じられない。それに、ディンは昔からの交でその辺を気にすることは無かった。
「大丈夫、今来た所」
「良かった、今日はどうするの?」
「いつも通りにこの辺りを一掃して体を慣らす。その後はリアナの新魔法とやらを見せてもらおうかな」
「そうだね、そうしよっか!」
そう言うと二人は機敏な動きで勢いよく森へと飛び出した。
ディンは優れた感覚で常人の域を超えた速度で移動が出来るが、それについてくるリアナもまた優れている事に変わりない。それどころか、魔法による移動補助をしながら、ディンに合わせてその魔法を自在に調節して追従する。やろうと思えばディンの事なんて即追い抜き、巻ききれる。
ザッ、ザッ、と木々を突き抜けていく。大した事のない魔物は相手にはしないが、人や動植物等、何かしらに害を齎すものは討伐をしながら、ディグル村より数十キロ半径を周り尽くした。
それに、この辺りの魔物程度では気配や魔物の魔力を感知する感覚を研ぎ澄ませることにより簡単に見つけられた。これが、ディンのこの数年の成果である。戦いに応用すれば、ある程度までの相手の気の流れを読める。身体能力の限界により、物理的回避が不可能である事を除けばかなり頼りがいのある観察眼、と言ったところか。
実際、その力に頼ってリアナと模擬戦闘をしてみても毎回、回避不能による敗北を喫している。今のディンは如何に回避不能を回避するか、立ち回りを学ぶしかなかった。
日々、周回の速度も早まっていき、ここディグル地方で出来ることはやり尽くしてしまった。他にもある洞穴もあたってみれば、あのダークウルフよりも強い魔物も当然の様に存在している。
本来であれば、協会に所属している冒険者の討伐対象となる筈なのだが、発見から討伐まで迅速にこなしてしまったため、外部に情報が行き渡ることが無かった。 それに、依頼を出すにもここから一番近い冒険者協会支部と連絡の取れるところまで出向く必要がある。
そして今日、ディンとリアナは最後となる洞穴のボスと、それに群がる魔物の討伐しようとしていた。
「そろそろか、リアナ。気をつけろよ。アイツは中途半端な攻撃じゃこっちが消耗するだけだ。スキがあればでっかい攻撃をお見舞いしてやろうぜ。それまでは俺が引きつけるからさ」
自分一人だけではボスを倒せないことをディンは感じていた。だからリアナを連れてきて協力を仰いでいる。それに、強い魔獣ともなると回復力が異常なまでに高く、傷つけても瞬く間に塞がれていく。
「わかった。やってみるよ!」
リアナはディンに頼られ、二つ拳を胸の前で握りしめながら返事をした。
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そして、ミザリーといえば、この約三年の間で冒険者協会に所属することとなっていた。
協会に多額でアイテムを売ろうとした際にその目論みが甘過ぎた事を悔やむ形となった。ただ、思い返してみればそれが逆に良かったかのもしれない。
そもそも協会は個人であるミザリーを相手にする理由が無い。研究の危険度合いも高い上、ぽっと出の要注意人物として名の知れたミザリー。横のつながりも何も無い弱小研究者が取引した所で無駄なのである。
特別な力を有するわけでもなく、特段に強いわけでもない。ちょっとした魔導師よりも器用に魔法が使えるくらいなのだ。実際その才能で今まで生きている。
そして、もしこの世界への害意が無いのなら冒険者協会に属せと大英雄リダズ、ザイモールを相手に脅され泣く泣く降伏した。散々ゴネたのだが、最後はディオーネ王都の冒険者協会本部に連れていかれた。冒険者協会を単純に甘く見すぎていた罰である。
経緯としては最悪だが、一応特別待遇を受けているらしい。先ず、ミザリーは研究員として研究所等には属さず、個人での研究の自由が与えられている。
だが、協会に所属してからは依頼の形として様々な仕事に従事していたが、自らの趣きである事以外は失敗が多く、仕事を与える事が非常に高いリスクも伴う為扱いにくいらしい。
それでも、成長の妨害をする呪術を施したアイテムは画期的な発明であり、既に協会内での使用、成功は数件確認されているらしく、鼻高々と自慢をしていた。
それに、今はまた別の自由開発に勤しんでいる。中でも、ディンの解放に関しては念には念を入れたい為に協力をしてくれる者を協会内部で探っていた。
そしてとある日、ディグルの森にて。この地で運命の歯車は噛み合う。
協会からの指令を受け、ディグル地方の地域調査のために足を運んだ使者。
大英雄である一人の男によって。
今日は後一話あげる予定でいます。
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