第三十九話 Sクラスメイト
「俺はデモス・アーリア! そこのミルシスは俺の兄貴だ。リアナちゃん、なにかわからないことがあったらなんでも俺にきいてくれ! 例えば、子供の作りかt、ブゴドォ!!」
隣のガウズがデモスをぶん殴った。右ストレートで一撃KO。そのまま垂れて気絶したデモスを机に突っ伏させて放置する。いつも見せない暴力的な一面を見せた事に周囲も驚く。
「デモスは言葉を慎むべきだね。リアナちゃんの耳が汚れる」
「良くやったガウズ。私はお前を責めない」
「当然の事をしたまでです」
(なんだアイツ、リアナがどうとか)
ディンは未だにガウズを好きになれないでいた。今の所は悪い奴では無さそうだが、鼻につくやり方や、相性もあまり合わなさそうに思える。
「じゃあ次は僕だね。僕はカイセル・ミルドット。この前はごめんね。皆と一緒に君たちを向かえに行きたかったんだけど、買い出しに手間取っちゃってさ……。僕でよければ仲良くして下さい。何かあれば力になるよ」
一目見た時から思っていたがこのカイセル、好みでは無いがかなりの美形だ。このクラスの男子にしては珍しく変な癖もなく性根も腐っていない。とリアナは思う。
事実、カイセルにはファンクラブが作られる程の人気がある。人当たりもよく一本気な性格。それでいて昨年末に、一年にしてこのグランディア学園剣技部門では優勝を納めている完全無欠のイケメンと言うことだ。
次はミルシス。事前にアーリア大工房で話しているのもあり、「俺はミルシス・アーリア。何かあったら工房まで来いよ!!」と笑いながら簡素なダイレクトマーケティングだけで終わった。
ミルシスの後ろにはディン、リアナと続く。先程自己紹介は済ませているのでミルシスの左隣であるモルオスの番となる。トラブルメーカーである彼が何か余計な事を言わなければいいが、とディンとリアナを除く皆が唾を飲む。
威勢よく立ち上がるモルオス。何か言ってやろうという思惑が見て取れるがマールが思い切りガンを飛ばしているのに気づき、少し怯えて言う。
「こ、この俺は知っての通りこのディオーネ王国第二王子のモルオス様だ。学園では分け隔てなくどんな者であろうと相手はしてやろうと思っていたが、この生意気な馬鹿三号は別だ。いつか跪かせてやる」
マールは「ふんっ」と鼻を鳴らし首をモルオスへとクイッと振る。モルオスはそのサインに従い大人しく着席する。
(おのれ、年増め……)
モルオスは平然を装いながらもマールを心の中で罵る。口に出せば恐らく、現世から消される。そして、静かにヨルが立つ。人形のように整った可憐な容姿に妖しさを兼ね備えるグランディア学園最強の魔導の使い。
昨年末のディオーネ学園魔導部門、アトラス、ディオーネ、メティウス各学園代表を招集した武闘祭でも魔導部門での優勝を納める。強者であるが故の悩みが常に頭の中を巡る。
「私はヨル・シュナルダス。とりあえずよろしく」
ヨルは言葉短に挨拶を交わす。彼女は余計な事は言わない。オーレンという詮索魔が根掘り葉掘り娘の情報を掻き集めんと血眼になっているからだ。そして、ヴェイルが物音を立てずにスッと立ち上がる。そして、パチンッ! と指を弾いて小気味の良い音を鳴らす。
「お? なんだこりゃ」
ディンとリアナの机上にひらひらと揺れながら降りる一枚の葉書サイズの紙。その紙を見てみるとこう書いてあった。
『俺はヴェイル・クラム。年齢は十六。血液型は秘密だ。趣味は秘密だ。好きなものは秘密だ。嫌いなものは詮索してくる奴。P.S 俺も豆腐は嫌いではないぞ』
紙に目を通し終え、ディンとリアナがヴェイルに目をやると、「どうだ?」と言わんばかりのキリッとした決め顔をする。黒いスカーフを口元まで巻いているせいで笑っているかは不明。普通にしていればクールな見た目で様になっているが、癖が強すぎる。
「えぇ・・・」
とめちゃくちゃな駄文に困惑するリアナ。こういう謎な行動をしてくる奴が一番扱いにくいのだ。しかも困惑させてきた当の本人はやけに満足気である。一方ディンは「今のすげぇな、今度俺にも教えてくれ」と内容には一切突っ込まない。殆ど秘密にしたいなら書くなよとリアナは言いたかったがやめておく。そして、メイルが騒ぐ。
「何それ!? 私も見たいよ!」
ヴェイルが再び指を鳴らし、メイルを満足させる。ついでにヴェイルは再び悦に浸り始めた。一通り、生徒の自己紹介は終わる。
「よし、後は個人的に仲良くやってくれ。それと、こいつは副担任のロビンだ。私の手となり足となり様々な雑務をこなしている。こいつを使いたければ私の許可を取れ。そして、最後、私がこのSクラスを任せられているマール・リーブロムだ。以後よろしく頼む」
マールはそう言い終えるとパンッパンと両手を叩き、続けて言う。
「じゃ、場所を移すか。何時までもダラダラする意味も無いしな」
ーーー
マールに言われるがままグランディア学園の校舎から出る。強固な魔法陣が張り廻らされた広大な屋外フィールド。一面に広がる草原には特殊な草木が植えられており、非常に壊れにくくなっているらしい。わざわざ作られた草木は景観を損なわない為の処置である。そのおかげで、所々隠れられる仕様になっている。
ここだけでグランディア学園の土地面積の二十%も割いている。屋内では魔法や技の制限がかかる事もあり複数人ともなると場所も狭いのである。
それに、管轄する者も人目につかない所で何かされてもSクラスともなると実力が実力だけに把握しきれないのだ。
そして、朝会ったばかりのバングルド、グランディア学園校長がそこで待っていた。
「ディン、リアナ、朝はご苦労だった。マールちゃんから事前に話を聞いていたから応援に来たぞ」
「応援?」
二人は疑問に思う。
「マールちゃん、後は頼むよ」
「はい、分かりました。とりあえずだな、三号と四号の実力を見ておきたい。試験での模擬戦闘は割と見られる内容だったが、相手が違えばそうはいかない。わかるな?」
「わかります」と三号と四号は返事をする。
「今回はな、接待無しの同年代の戦いだ。どうだ? 負けられないだろう?」
マールは言葉巧みに発破をかける。その言葉に強く反応するのはディン。
「当たり前です」
早くも瞳の中には闘志が宿っている。折角グランディア学園へと来たのだから強者との手合わせがしたくて今か今かとうずうずしている。
「なら、カイセル。三号と手合わせしてやれ。それと手合わせの際は本気で向かっても構わん。傷の治癒はしてやる」
「はい、わかりました。それじゃあ、よろしくディンさん」
カイセルは爽やかにはにかんだ。
グランディア学園最強の剣士であるカイセル。相手にとって不足は無い。戦い方は実にシンプルで特殊な仕掛けは無い。それでいて魔法をものともしない立ち回りで多様な技を操るという。
「ああ、頼むぜ」と、ディン。緊張感のないカイセルにふと思う。
(こいつ、本当に強いのか? なんか拍子抜けだな……)
「僕は魔法を使いませんけど、ディンさんは僕に合わせず好きにしてくださって構いません。それでは開始に合わせて、少し距離を空けさせて貰いますね」
「強者の余裕か? 嫌でも力を使わせてやるぜ?」
そう言い十メートルの距離を空けるカイセル。ディンの軽い挑発をものともしない。
(けっ、それなら俺も力を使わないでやってやるよ)




