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第三十六話 冒険者登録!

「そう言えばお前達、冒険者登録は済ませたのか?」


不意にモルオスが口を開いた。ディンは「あ」と口を開く。学園で説明を聞いた際に事前に登録しておく事と念を押されていたのにも関わらず、すっかりと忘れていた。


「あっ! まだです!」


とリアナ。その言葉に対してモルオスはやはりな、と先見し勝ち誇った表情。


「ふふん、そんな事も有ろうかとこのモルオス。協会本部へと向かっているのである」


「ここに来たばかりじゃ、何も出来てないもんな。手続き、手伝ってあげるよ」


とモルオス、ガウズは先輩として割と親身に手伝ってくれるらしい。


「ここに来てから忙しくて、そういうのあまり気してなかったな」


ディンが言葉を漏らす。ここに来てからは殆どの時間、遊んだり寝てたりしてただけでしょとリアナは思う。かく言うリアナも長旅の疲れから気の赴くままのんびりしていて、何かしていた訳でもない。


「呑気な奴らだな。お前達ニュービーは俺のような先輩冒険者を目指し、精進するがいい」


調子に乗るモルオスは顎をクッと上げ見下した目付きでディンとリアナに言った。これがモルオスの殿下である悪い体質。


「おう、お前みたいにはならないようにするわ」


ディンはモルオスの言葉は戯言だと、気にせず飄々と答えた。


「勝手に言っておけ、なんならそのような口が聞けなくしてやろうか?」


モルオスは腕を十字にクロスさせ、中指一本立ててディンへと威嚇する。王族がこんな事を街中でするのは如何なものかとリアナとガウズは少しばかりヒヤリとしながら見守る。


「あ? またやんのか?」


売り言葉に買い言葉。ディンはまたモルオスを返り討ちにしてやろうと思い言い返す。


「いや、今はいい。取り敢えずお前達は俺を敬えば悪いようにはしないぞ」


「なら変な事言うんじゃねぇ。決闘なら何時でも受け付けてるぜ?」


「ふん、血気盛んな奴だ。所構わず噛み付く、まるで獣だな」


「お前に言われたくないっつーの。こんな事までしちゃってさ。お前なんて王族なんだろ? こんな所で何してんだよ」


ディンはモルオスの真似を変顔を混じえてやり返し、モルオスに根本的な質問をする。


「この俺はそんな醜くないぞ? それと、俺の事は気にするだけ無駄だ。俺は俺の行くべき道を進む。王族なんぞただの飾りに過ぎない」


(飾りに頼りすぎじゃない?)


リアナはふと思うが何言ってんだろこの人程度に会話を聞き流す。


「まぁまぁ二人、目的地もそろそろだしここらでやめておこうか。目立っちゃうよ」


「目立つ事は悪い事ではないが、こんなチンケな奴を相手にしているとは思われると俺の輝かしい経歴にキズがつくかも知れん。そんな事は俺がモルオスである以上許されんからな」


「何言ってんだてめぇ……」


一言多いモルオス。勝ち誇らしげに大声で笑うモルオスを他所目にディンは怒りマークを浮かべながら口を紡ぐ。なんせ、これから分からないことを教えてもらう立場。ガウズも抑止してきた為、これ以上は強気にいけない。そんなディンを「ここは抑えて……?」とリアナが宥める。


それに、モルオスによるディオーネ王都案内も残すところ、冒険者登録で終わり。モルオスは協会本部へと足を踏み入れるや否や受付へと一直線。ずいずいと自信ありげに迫るモルオスに気圧されて困り顔の受付嬢は「モルオス様、本日はどんなご用事で?」と言うとモルオスは大声で答えた。


「このモルオス!! 今日は冒険者登録の手伝いに参った!! この二人の事、よろしく頼むぞ!!」


このモルオス、冒険者協会でもこんな感じらしい。明朗快活な性格故、王族である事を隠そうともしない。なんなら大声を上げて人助けをして徳を積んでいますよ、とアピールしている。


「しょ、承知しました〜」


受付嬢は、そう言いながら苦笑いしている。


「じゃあ、登録の方はこちらはどうぞ」とカウンターへと案内される。先ずは、書面を、読むようにと伝えられ、書面を読み始める。


各地に存在する各国が運営費をだして冒険者協会は成り立つ。 協会所属の冒険者として登録するのは無償であるが、運営費が全て国からの補助によって賄われるものでは無い事から、登録後は協会費の徴収がある。各国の協会本部は国と密接に関係を持ち、国の為、人の為に活動するという事。断じて反社会的勢力との繋がりを持つことは禁じられている。


冒険者協会に所属する冒険者は協会による手助け、パーティの斡旋、悪事を働いていない限り冒険者なら使用可能。


簡単に噛み砕くと、会員になれば協会の設備が使用出来て、協会の恩恵を受けて満帆な冒険者生活が出来るというものであった。一般的な冒険者であれば。あくまでもどの冒険者であろうとこの一般的な冒険者コースから始まる。との説明を受け、ディンとリアナは納得した。


あとからモルオスに聞いてみれば結局の所、冒険者として生活するにあたってここを使用しないとろくな冒険はできないらしい。


協会を通していく目的としては次世代の管理も兼ねて悪どい因子等もフィルターに通されて逃れる事が出来なくなる。恐らく、その目論見は国、協会側の狙いである。特定の依頼に対し、死亡率が高くなりそうなものや難易度が高いものは一般的な冒険者への依頼は伏せられ、特殊な案件として精鋭に依頼が下るらしい。


「よくそんな事知ってるな。意外だったわ」


とディン。


「馬鹿にするな、俺はエリート冒険者様だぞ?」


モルオスは誰かから聞いた協会の内部的な話を披露して以下にも’’知っている男’’を演出したかったようだ。


「まぁ、俺なんかよりもこのガウズの方が尤も、エリート冒険者だがな。この一年でその名をほしいがままに活躍している」


モルオスはそう言い、ガウズに目を向ける。


「ありがとう。まぁ、僕にはやらなくちゃいけない事があるからね……」


強い眼差しに言葉を乗せるガウズ。一年前に起こったグランディア学園生徒が三人も帰らぬ者となってしまった不幸な事件の生き残りである。その時、他の三人の分も強く生きると決め、額に受けた深い傷跡に熱く誓った。それからは冒険者としても目まぐるしい活躍を見せる。グランディア学園期待のニューホープとして名を馳せていて、巷ではちらほら話題にも上がることもある、金の卵。


「そうなんですか……」と呟くディンとリアナ。いくら察しの悪いディンでもガウズの事情は良くわかる。皆を守る力を欲して一心不乱に己を鍛え上げたのだろう。大切な人を二度と失わないように。


「まあ、シモンは未だに引きずっているようだけどね……」


そうガウズは言うが、無理もない。皆誰しもが立ち直れる訳では無いのだ。それにシモンは一番に敵前逃走した事実に反し、情けない男扱いされること無く、学園へと逃げ帰ってみるとそれは、冒険者としては一番利口なやり方だったと褒められた。そして、仲間を見放していながらも誰からも責められることなくやきもきした自戒の感情を抱え、今でも苦しんでいるらしい。誰かが優しくしようがシモンの深い傷跡は癒えやしない。


その時ガウズは、俺の力が足りなかったから皆を救えなかったと言うが、魔獣を何とか撃退できたが、逃げられてしまった。その撃退の犠牲になったのが三人であり、もしかしたらシモンが居れば犠牲は出なくて済んだのかもしれないと思う者も少なからず居たが口には出せない。二人も生還した事自体が奇跡の様なものだからだ。


一方で命からがら生還したガウズは不幸の冒険者であると共に学園のヒーローへと一躍名を上げた。あの時のガウズの哭する姿を見せられた者も皆、涙を流したという。それからもガウズはへこたれた姿を見せること無く不屈の精神で上を目指し邁進している。そして、この一年という月日で生徒の鏡とも言える存在まで上り詰めたという。ただ、その光と影が、シモンには痛い。


「シモンさん、優しそうですもんね」とリアナ。フォローするが、自分でもその立場になれば辛いものがある。


それから、何事も無く冒険者登録を済ませたディンとリアナ。


「今日は世話になりました」と礼を言うとモルオスは相変わらず付け上がったがガウズは「冒険者は助け合いさ」と綺麗事を言い、まだこれから寄るところがあるらしく、そっちに行ってしまった。どこか、心を閉ざしているような気がするガウズという男。そんな風に思うディンとリアナであったが、このまま少し重い雰囲気に包まれたまま、帰路に着く。ただ一人、ムードメーカーのキノコ頭を除いて。


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