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第三十五話 アーリア大工房のミルシス

  コロネ商店を後にし、モルオス一行はミルシス、デモスの親が頭領を務めるする鍛冶屋の大工房へと向かう。ミルシスの父親は国有数のスミスであり、古来より王家に武具のみならず、近頃では開発した魔導武器等も献上をしているディオーネ王国御用達。そんな鍛冶屋一家の大工房は遠い先祖から国と密接に関わりがある為、ミルシスやデモスはモルオスと幼い頃から付き合いがあるらしい。それに、ミルシスからも招待されているのもあり、案内コースとしても外せない要所であるらしい。


「うわぁ、思ってたよりもかなりデカいな。ミルシスってかなりのボンボンって奴か?」


「そういう事になるだろうな。この俺には負けるが」



  大工房は周りの建造物とは一線を画すおおきな建造物で、円状に建てられている。その辺の工房なんて比にならない大きさであり、在籍するのも各地から集まる名工ばかりである。それを纏めているミルシスの父もまたかなりの名工で、それは技術が物を言わせている。


  それに、特別的な伝統の技術という物はミルシス家の中でしか伝承されることの無い門外不出の極意。どんな名工でもたどり着けないと言われる至高の技術らしい。その一子相伝の技術を若くして会得したミルシスもまた稀代のスミスのして名高く、新兵器には自国だけでなく他国家も多大な興味を示しており次期コンペティションにも参加予定である。


  「よう! 来たかお前ら!」


  「お前も昨日こいつらを誘っていただろ? だからこの俺がこの辺りの案内を兼ねて連れて来てやったぞ」


  「おう、なんも出せねーけどゆっくり見ていってくれよ」


  「元よりそのつもりだ、さぁ見て行くがいい。我がディオーネ王国の中でも随一の大工房。そんじょそこらのスミスとは違い、ここに居る職人達の腕も確かだ」


  モルオスが我が物顔で大工房に触れる。


  「おうおう、王子からありがたいお言葉貰っちまったな。みんな喜ぶぜ。よし、色々見せてやるから着いてこいよ」


  ミルシスは上機嫌で一行を案内する。


  大工房の中はやけに活気づいている。ここで精を出し汗かき働く職人は皆揃って体が大きい。ドワーフの血が混ざっている者も少なくなさそうだ。そして、一人の職人が声高らかにミルシスに声を掛ける。


「よう、ミルシスの坊ちゃん! 連れてるのはモルオス王子と、見た事ない顔だが……お友達かい?」

 

 その職人はムー……とゴツゴツとした顔からじろりとした目でディン、リアナ、ガウズの三人を眺める。そして、リアナに目が止まる。リアナは何用かと思い、軽くはにかんで見せた。


「あぁ、ドラムさん、そんなとこです」


  ミルシスがそう答えるとドラムは「そうかそうか」と言いニッ、と豪快に笑みを見せる。


「じゃあ、ごゆっくりしていきなよ客人! 坊ちゃんもめんこい女子はしっかりもてなしてやんだぞ!」


「分かってますって」


  先を行こうとする時、ドラムがリアナに耳打ちする。


「ウチのミルシス坊ちゃんは狙えるならさっさと狙っておいた方が良いぜ」


「そ、そんなつもりは無いですよ!」


  とリアナはあせあせ答えた。すると茶化した反応が面白かったのか「そうかそうか」とガハガハ笑い始めた。


  ミルシスは大工房とは画した自分のスペースへと四人を招待する。ずらーっと立て並ぶ武器や魔導武器。全てミルシスの自作武器らしい。形状は特殊な物からシンプルな剣まで。ランスや試作したガンソード等も見受けられる。


「どうだ? ここが俺のマイスペース(マイ工房)よ!」


「すごいよミルシス! なんだよこれ! どーなってんの!?」


「こんなもの中々見ないぞ。こっちこそどうなっているんだ?」


「お、これはな?」


  と男子は熱い論議を交わし始めた。確かにリアナのような女子から見れば扱いにくいものばかりかも知れないがここは男のロマンの結晶である大工房。申し訳ないが多少心が浮くのも承知していただきたいと思う所もある。


  そんなリアナでも、とある魔導具に興味を示した。


「ミルシスさん、これは何ですか?」


「それは篭手だよ」


「篭手……ですか。どんな風に使えるんですか?」


「まだ試作段階だけどね、俺がまだオードのコントロールが足りてないってのもあるかもしれないから出力が安定しないんだ。リアナちゃんみたいな女生徒でも篭手から剣とかがでるとするならかなり軽量に扱えるでしょ? そんな感じにしたいと思って作ってみたんだ」


「それは凄いです!! オードを保ち、尚且つ切断する保持と言うのは出来る人が限られていますもんね!」


「そうだね、男ってのは遺伝子的にオードのコントロールがあまり得意じゃないし、だからリダズさんなんてとんでもない存在なんだよ」


「実はそうなんですよね。これ、少しお借りしても良いですか?」

 

「どうぞどうぞ」


「私もまだオードの保持コントロールはあまりした事ないですけど、やってみます」


  篭手を通して創造されるオードの剣は質量を伴わない為、物理的な衝撃を与える事は難しいが、斬撃等の威力は本人のオードの力にかなり左右される。篭手を通さない場合、剣の保持にかかる技量がかなり必要とされる。剣が必要な場合でも大体は地属性の魔法にて剣等を生成する方が多いのだが。


  リアナは、ミルシス製の篭手を装着する。試しに剣の形状になる様力を篭手に注ぎ込んだ。


 シュパタンッ!!


  一瞬覗かせたオードの剣はそれまた一瞬で篭手の限界出力を超えて、機能が止まった。リアナは驚きの声を上げる。パシュウウゥ……と情けない煙を上げる篭手を見て、全員が理解出来ない一瞬の出来事に口を紡ぐ。


「……まじ? 出力オーバーだわ」


  ミルシスが言い、リアナは自分の手元を見つめる。


「リアナ、昔から力だけは凄かったもんな!」

 

  とディンがフォローする。若干語弊のある言い方ではあるが、リアナはオードの潜在的能力はかなり高い。行使する際の技量も伴い、一般的な魔導師と比べても火力に恵まれている。


「ああ、あの、すいません、壊れちゃいました?」


「いいよいいよ、すぐ直せるから。それにたった今次の課題が見つかった所だよ。むしろ感謝してるくらいさ」


「はい、すいません……。そう言ってくれるとありがたいです」


  リアナは少ししょげた。


「いいって事よ。俺なんてもっとやらかしてんだから気にすんな!」


  リアナの背中をポンッと叩く闊達なミルシス。今はそんな荒さの残る優しさが身に染みる。


  それからディン達はしばらくミルシス製魔導器を存分に楽しみ、大工房を後にする。何となくミルシスの人柄の良さからリアナもすぐに笑顔を取り戻した。


「また来いよ!」


  ミルシスは手を振り、ディン達を見送った。そして、ガウズはミルシスよりガンソードの試作機を贈られていた。ソードとして使うのは勿論、敵の不意を突くような射撃まで出来るような優れものだという。世の中にあまり出回る事がない希少な魔導武器。


  ガウズが珍しくもかなり興味を示していた為、ミルシスが交にならと試作も兼ねてガウズに使って欲しいと言い出した。ガウズなら使いこなせるだろうと見込まれたのだろう。普段、何をしていても静観していたガウズだが、今ばかりは少し、笑みがこぼれて見えた。


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