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第三十三話 迷子の少女

  翌日、グランディア学園は休校だった。グランディア学園では週に一度、休校日が制定されているらしい。基本的にはこの通りである。


 月 訓練日

 火 オード知識兼オード訓練

 水 オード知識兼オード訓練

 木 自習日

 金 自習日

 土 訓練日

 日 休み


  自習と言うのは冒険者志望であれば冒険者としての活動が認められている。騎士や兵士志望であれば冒険者に準じ、それ相応に活動することが許されて居るが、基本的には自分に必要な鍛錬を積むこととなる。


  ただ、名を売るためにも冒険者家業をしている事騎士志望者も少なくは無い。それに、生徒による冒険者としての依頼の管理は全てグランディア学園にて管理されている。冒険家業等の自意識を育てていくためにも、しっかりとした報告を学校へとすることが必要とされていて、何もせずサボタージュ決め込んでいました。なんて言った日には反省文の提出を求められる事もあるらしい。一概に自習と言っても面倒なことが多く、基本的には技の鍛錬していましたという生徒が多数である。


  その例外がSクラスやAクラスであり、その時間を補う様に実戦を交えた育成プログラムが組まれている。よってSクラスに配属されているディンにとって自習イコール魔物の実戦討伐とも言える。冒険者志望で無い場合は現役騎士団から来たる、厳しい担当による鍛錬が待ち受ける。


  訓練、と言うのは自習における足りない部分を補う自分の調子を整える事に使われていたりするが、そこでもまた様々なことは要求される。その際には個別の指導を貰う場合も珍しくない。ただ、この時間は生徒同士で技を磨いている事が多い。日によって来る担当教師が変わる為、やれる事も限られてくる。


  これを要約すれば、自習日は校外での活動が二日間認められていて、訓練日は校内での活動にとどめられている。


  そして本日、グランディア学園休校日。

 

  気候にも恵まれ、絶好の王都探索日和である。こらからクラスメイトになる「ディオーネは俺の庭」と豪語するモルオスが街案内をしてくれるらしく、そのお守りにガウズが同行する。


 そして、街の商店を巡っていると早速、一人で居る小さな女の子が困り顔で周りをキョロキョロ見渡して何かを探しているようだった。「どうしたものか」とモルオスは女児に歩み寄り屈む。


  「コロネ商店の所の店番よ。これからコロネ商店へと出向こうと思っていたのだが、こんな所で何をしている? 」


  困った顔した女児にモルオスが問い掛ける。


「あっ、モルオスさん! ここの通りでベルガーの薬草をコロネさんに頼まれたんですけど。何処にあるか分かりますか?」


  女児は一転、表情が明るくなった。嬉しそうに淡い桃色の髪を揺らす。どうやら、顔見知りに出会えて安心したようだ。


「という事は、今日は店主が居るのか。ふーむ、薬舗へと向かいたいのなら、この通りではないぞ。一本隣の路地だ。場所は分かるのか?」


「そ、それが……」


 と女児は声を震わせ、僅かながら目頭に涙を溜める。モルオスは恐らく迷子になってしまったのだろうと察し、胸をポンと叩き言う。


「そうか、ならこの俺が案内してやろう。多少の寄り道になるが、お前達もそれでいいか?」


 ディン、リアナ、ガウズの三人は頷く。モルオスは了承と取り、「ではついてくるが良い」と女児を引き連れ歩く。


 モルオスはリーダーを気取りながら偉そうに露店の通りを闊歩しているが、意外と優しい所が有るのだとディンとリアナは思う。


  それにしてもモルオスは商業区周辺では抜群の名声を誇っているらしい。行き交う露店や商店に良く声を掛けられている。どうやら、この辺によく出没するらしい、まさに主である。


「ちょっとモルオス様! 喉乾いてないかい!? 今ならお安くして引き連れている部下の分もお安くしますよ!」


  なんて言われた日には付け上がって全員に飲み物を奢った。


「ほう? 部下の分もか! どうせお前達も飲みたいであろう。店主よ、いつも新切にして貰って悪いな。よし、お言葉に甘えて、ここは俺が持つとするか」


  うんうん、一人で頷きながら、勝手に話を進めて買い上げたドリンクを押し付ける。ただ、店内をよく見れば通常百マーニなのだが、百五十マーニで五人分買わされたモルオス。一時の優越感を手にする代わりに、店主に上手いこと割高でふっかけられて、普通にぼったくられていた。この主、カモである。


「まいどありぃ!」


 と威勢のいい店主。


(ククク、これで俺様が優しいとこいつらは思ったろう。舎弟計画、順調だ)


  モルオスは浅はかな企ての為に恩を売ったつもりになっていた。陰の深い笑みを浮かべる。


「モルオスのお兄ちゃんありがとう」


  女児は、上目遣いで純粋に感謝する。そして、モルオスがドリンクをぼったくられた事に気づかずにチュウチュウとドリンクを細い管から美味しそうに啜っている。


  モルオスは女児の感謝心に少し照れているのか「礼には及ばん」と顔を逸らした。続けてディンもモルオスの粋な計らいに礼をする。


「俺達まで良いのか? ありがとな」


「ふん、気にせず飲むがいい。お前達にも一度飲ませてやりたかった」


  と、モルオスはドリンクを一口味わい、


「相変わらずの味だ」


  と呟く。そして、割高ドリンクをモルオスはギュオオ、と音を立て一気に飲み干すと、ダストボックスに容器を落とし、すぐ様「行くぞ」と先を急いだ。


  それから少し歩くとモルオスが口を開く。


「着いたぞ。キッド、行ってこい」


「わかりました!」


  そう言って少女はスタコラと店内へと消えていった。


  そして薬舗で女児はベルガーの薬草をコロネに頼まれた分購入する。その際素直に買い物をせず、何故か値切っていた。何かとちゃっかりしているらしい。値切った銭を懐へと忍ばせ、満更でもな笑みを浮かべていた。


  「ありがとうございます、モルオスさん。無事に買う事が出来ました!」


  少しすると女児は薬舗から荷物を抱えて出て来てから礼を言った。何と礼儀正しい子供なのだろうとリアナは感銘を受けた。


「間違えずに買えたのか? それにしても量が多いな、ちょっと貸せ」


  モルオスは女児の三つの紙袋にたくさん詰め込まれたベルガー草を何事も言わずディンとガウズに渡し、自分も一袋持った。そこら辺紳士として弁えているらしい。

 

  「良いですよ! 自分で持てますよ!」


 なんてピョンピョコ跳ねる女児にモルオスは「こんな物、俺の部下に持たせれば良い」と一蹴。その言葉にディンとガウズは、


(奢ってもらっちゃったしな)


  まぁ、良いか。なんてディンとガウズは思い、なんだかんだでモルオスはこの場を収めた。


  そんなモルオス一行が向かう先はコロネ商店。モルオス行きつけで、様々な物を取り揃えている問屋の様な商店である。各地に店を構えるらしいがここ本店では明確に取り扱っているものは無く、コロネの気まぐれでその時その時で珍しい仕入れることを信条としているらしい。口をきける様になればどんなルートを利用しているのか分からないものまで取り寄せることも容易にできる。


  裏稼業とまではいかないが、様々な噂や、情報等も取り扱っている。モルオスは勿論VIP会員らしく、自慢げに会員へ付与される証のカードを誇らしげに見せてきた。ここで金を落とせばどんな者でも力を手に出来るとあって、この店へと冒険者達は足繁く通い、常連も多い。


 店近くまで来ると、お使いに出した女児が心配なのかコロネが店先の方まで出て来ていた。そんなコロネに女児が気付き駆けて行った。


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