第三十一話 勝負の行方と入寮
ビビ……ビビビッ、バチバチバチチチッ!!!
リアナは圧縮した閃光の剣をザイモールへと差し向け、落雷の様に放つ。その数、四本。光のオードによる力の増長が感じられる。まともに食らえば体の欠損は免れないだろうとザイモールは思い、最重要項目として意識する。
「いきますっ!!」
バァン!バァン! とリアナの生み出したザイモールへと一直線に突き刺さる雷は大きな衝撃を生む。その雷の速度も回避を許さない程に速く、少女が放つには馬鹿げた威力をしている。
(おぉ、結構いい威力してるね)
ドォン!! と轟音を鳴らして着弾するが、ザイモールは余裕を持って雷撃を受け切ることなく防御する。一方、ディンの剣戟の加速は止まらない。リアナを信用してか、全く雷剣を臆することなく攻撃を続ける。このままいけばザイモールも手が塞がりかねない。圧倒的な手数。かなりの数の剣戟を物理的に防御し始めた。
「リアナ! 良いぞ!」
そう言ってディンが更に剣の足を加速させる。
(仕方ないな、ここまで頑張ってるし、少し相手してあげるか)
ダァン!
リアナが間髪入れずに三発目の雷撃を放つ。
ザイモールは再び右腕でリアナの攻撃から身を守る。とんでもない熱量で腕が熱くなる。残り一発か。
「よし、ちょっと退いてね」
そう言って、一度ディンへと反撃して距離を稼ぎ、左手に黒剣を作り出す。久しぶりの感覚に剣を振るう。
(うーん、どんな感じに扱ったっけな?)
ブブブォンと一瞬で十回ほど剣を振り下ろす。切り裂かれた空が波紋となり、ズタズタに壁を切り裂く。その黒剣はとても軽く、ザイモールにとっては心地の良い、圧縮された闇の力を感じる。ザイモールは慣らしに剣先に乗せて力を一撃、振り放つ。人の居ない方向へかなり力は抜いて放ったが闘技場へ甚大な被害を与える。
コントロールを誤り、ドゴォン! と壁を大きな穴を空けると「ごるるぁあああああ!!!」とバングルドの怒声とざわめき悲鳴を上げる見物客の声が聞こえた。
(おっと、やりすぎちゃったみたいだ)
そして、ディンへと目を向けザイモールは言った。
「さぁ、ディン。少し遊んであげるから来なよ」
ディンは構え、答える。
「言われなくても!!」
二人の剣が交わり、剣戟は激しさを増した。その中、リアナが次弾を放ちそうな頃、ザイモールはディンの剣を受け止めずに、ディンごと弾き飛ばした。弾き飛ばされたディンは剣を出させたザイモールとの剣戟に楽しさを覚えたのか、ニィっと笑っていた。
(本当、楽しそうに笑うなぁ)
と、ザイモールは思う。
「頼んだぜリアナ、思い切りでかいのを!!」
「はぁあああ!!」
途端、リアナの声と共に弾き出された四発目の大雷に、意識を向ける。その瞬間放たれた最大出力の大雷を否したと思ったら左側からほぼ同時に小爆発が巻き起こる。ディンの置き土産だ。
(しまっ……)
完全に不意を突かれ、愕然とする。ザイモールは思考せず、反射出来る全速で防御へと力を向ける。
「っつ……!!」
ドゥン、と片腕を巻き込んで小さく爆発する。そして、決定打にザイモールは強ばった肩を落とした。
(あーぁ、やられちゃったよ)
防御が間に合わなかった。左腕からはツゥー、と血が伝う。それを見たバングルドは頷く。
「やったぜ!」
「やったね!」
ザイモールの被弾を確認し、ディンとリアナは勝利の歓喜を上げた。戦いを見ていた者も賞賛を送る。中には「よくやった!舎弟にしてやってもいいぞ!」なんて声も紛れていて、二人の勝利を祝福していた。それも束の間。次の始業も近いこともあり、見物客もそそくさと姿を消した。
「そうか……。うん、なんて言うか……参ったなぁ」
ザイモールはそう言って笑う。
ディンはザイモールが力を出して多少慢心して力を込めて来るのを読み、吹き飛ばされる前提で一撃。その同時にリアナの最大限の力を引き出した雷撃にザイモールの意識が向いた瞬間、どんな形であれ一撃ぶち込むことに専念した気配を限りなく消した小攻撃。
手数で押し切り、休む暇なく力のこもった重い雷撃。あっちこっちに気が取られるザイモールのキャパシティを試したような個人の意識の限界を突かれた形で一撃をザイモールは食らってしまった。試験として成り立たせるために二人にわざと攻撃させていたというのが被弾の原因ではあるが。それでもザイモールは攻撃を受ける気など毛頭もなかった。多少慢心する悪い癖は有りつつも冷静に一手一手の分析を怠らなかった。
それに、戦闘を見守るものですら見落とす程の技術の高さにロビンはギリギリ気づけた。ほとんど見落としたとも言えるが、バングルドが呟いた。「やりおるぞ、こいつら」と。ハッとなり吹き飛ばされるディンを見ると初めから置き魔法をザイモールに効果的に当てるために注意を散漫にさせいたのだと。そんな一杯食わせた形で勝負は決着した。
ザイモールはどういう経緯で自分が被弾したのか直ぐに想像ついた。そして溜息を漏らす。
「まさかこの僕に一矢報いるなんてね。想像以上に戦いの才能がありそうだ」
大英雄に、その言葉を引き出させる。その評価にバングルドも再び頷いた。
「ディン、リアナよ。よくやった! お前達は文句無しの特待生としてこのグランディア学園に迎えるとする! 本当によくやったぞ!!」
「本当にすごいよ! 二人ともよく頑張った! こんな戦い初めて見たよ!」
グランディア学園最高権力者に実力を認められ、思わずロビンも二人を激励した。そして、二人は「ありがとうございます」と礼を返す。
「それで、僕を見る目は変わったかい? 勝負に負けたし、どんな事でも受け入れるよ」
二人に敗北したザイモールが話しかける。
「ザイモールの強さには正直驚いたよ。これからは先生って呼んでもいいかな?」
「わ、私も」
「あははは、構わないよ。二人がそれで良いならね」
悪くない、と笑顔のザイモール。和やかな雰囲気が漂う。その言葉を最後にディンとリアナの編入試験の幕は降りる。
ーーー
その夜、二人はグランディア学園特待生寮へと入寮する。
「ようこそグランディア特待生寮へ。昼間はご苦労だった。入っていいぞ」
寮の管理人でもあるマールが二人を案内する。周りの目が少ない所では私服は大分緩い感じがする。はっきり言えばだらしが無さそうである。
手ぶらだった二人は一階大広間にてすぐさま、歓迎を受けた。
「二人ともぉ!!よく来たな!!」
モルオスが盛大な声を上げながら興奮気味に両手を広げて二人に抱擁を求める。昼間の戦いを切っ掛けに二人の見る目を変え、馴れ馴れしくなっていた。そんな熱烈歓迎も虚しい事に二人はモルオスの横をすり抜ける。「待てやぁ!」の煩い声に誰も構いはしない。マールは「邪魔だ退け」と、一言でモルオスを萎ませた。
すり抜けた先に待つ男達が二人をちょうど良い暖かさで迎え入れてくれる。
(男臭っ……)
リアナは静かに笑顔を浮かべ、「どうも」と小声で会釈をする。
「ようこそ!」と一同が声を揃えて迎え入れてくれた。
「ありがとう!」
ディンは歓迎を嬉しく思い、挨拶を交わすが迎え入れる面々の男らしい出で立ちを見てディンとリアナは若干顔が引き攣っていた。何故か肌をしっとりと濡らした褌姿の逞しい男が居たり、若干マッスルなタンクトップな奴がいる。オマケに大勢の男の中に女子が一人しかいない。その中から一人、落ち着きを見せる大人っぽい少年が一歩前へ出てくる。




