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第三話 決着、そして

  そのまま降下する勢いを利用してダークウルフの頭蓋に思い切って剣を突き刺した。


 ドスン!!


  ディンの会心の一撃は完全にダークウルフの顎まで貫いている。


  剣を引き抜くとブシャアアア、と盛大に血飛沫が上がる。ディンはダークウルフの前でよろめきながらも一度距離を置き、再び剣を構え続ける。魔獣等の魔物は不意の一撃として全力を解き放ち自爆する事があるからだ。


  だが、このダークウルフは暴れることも無く、生臭い体液の噴水も止まる。ただ、静かに陣の上で息絶えようとしていた。


「よくやったわ、もう休んでていいわよ」


「お、おう……。ちょっと俺もうヤバいかも……」


  そう言うと気が抜け、ヘロヘロと座り込むディン。そのまま壁にもたれ掛かり、疲れ果てた虚ろな目で陣を眺める。


「これから起こることは誰にも言っちゃ駄目よ。恐らく禁術になると思う。自分が痛い目見たくないなら、黙っておく事ね」


「はいよ、もう力入らねぇよ。体も何だか熱くて……少し休ませてくれ」


「あんた、結構やられてたもんね。でも、大した怪我してる様には見えないけど?」


  事実、ディンの体には大きな傷は無く、流血は殆ど止まりつつある。魔力(オード)での治癒にしては素質がかなりある事が伺えた。


(でも、魔法使えないって言ってたはずだけど……。治癒魔法の自覚が無いのかも? とことん変わった奴ね)


  ミザリーはディンの回復力を見て疑問に思う。


「俺の事はいいよ、怪我の治りは結構早いんだ。それより面白いもん、見せてくれよ」


「わかってるわよ。腰抜かすんじゃないわよ?」


「抜ける腰は売り切れたよ」


 ヘラヘラするディン。


「じゃあいくわよ……」


  そう言い、ステッキからダークウルフの首輪目掛けて光の粒子のようなものがサラサラと流れ込む。



  パキキッ、パキン! と綺麗な音を立てて首輪が砕け散った。


  それに合わせ、ダークウルフの体がピクピクと叩かれているように蠢く。砕け散った破片から膨大な量の生命魔力(オード)が流れ込んでいる。その体には段々と力強いエネルギーが満ちていく。


「上手くいきそうね」


  まるで、生命という概念を弄び、嘲笑うような禁術。安寧の死すら許されず、強制的に再び望まれない生命を吹き込む。恐らく、世に出てはならない絶対的タブーとなるだろうとディンでも理解出来た。


(なんか気持ち悪ぃな……)


  先程とは比にならない悪しきオーラが爆発的に充満し死の淵に居たダークウルフが覚醒しつつある。


  ムグ…ムググ…と体がうねりながら、体躯を更に大きくしていく。


「なぁ、これ、やばいんじゃないの?」

 

  苦笑いを浮かべるディン。


「ちょ、ちょっと……おかしいわね、成功したら、逆にヤバいわ……」


  ダークウルフの風貌が完成に近づく度に頬が強ばっていくミザリー。


 ムググググッ、グウウウゥゥゥッ!


  ダークウルフは完全に再生した。しかも、充実した生命オードに満ちた体躯は更に強固になり、更なる強大な力を得ている。


  完全体になった魔獣がこの洞穴から出たら週域は滅ぼされかねないだろう。類を見ない程の力を瞬時に得られるこの儀式は正しく禁術であり、更なる隠匿性を要する事になりそうだった。


  それほど、ダークウルフは凶悪な覚醒魔獣へと進化してしまった。


(ヤバイヤバイヤバイ、何この感じ! 本当にヤバイわ!! 殺される!! 殺される殺される殺される!!)


  歯をガタガタと震わせ軽いパニック状態に陥り、禁忌に触れた事を後悔しつつあるミザリー。


 グギャアアアアアアァァァアアアアッッ!!


  ダークウルフは闇の魔力を込めて咆哮を上げた。洞穴内に鼓膜が破けそうな程強烈に響き渡り、声に共鳴する地響きが辺りの脆い壁を破壊する。


  だが、惜しげも無く咆哮を上げたもののダークウルフは次第に悶え、何か苦しんでいるように見えた。


  首輪の破片からは濃く黒い霧のような闇の魔力(オード)が発生し、無理矢理体に捩じ込まれていく。絶対、首輪の装着していた者の一身に還元されるようだ。


  ダークウルフは苦しみの中、桁外れのパワーで黒色の魔弾を放つ。恐らく何も見えていないのだろう、あらぬ方向へ放っていた。


  洞穴内部の頑丈な壁を大きく崩し、力の強大さをディンとミザリーは思い知らされる。


(こんなの、めちゃくちゃ過ぎるわよ…!!)


「ディフェンディング!!」


  ミザリーは持てる最大限の魔力を使用して必死に防御魔法による結界を張り続け、飛び散る勢いづいた岩石や、ガラガラと崩落する壁から自分とディンの身を守っている。


「しっかり守ってくれよ、オレはもう動けないからな」


「う、うるさいわね……ふんっ!!」


  ミザリーはダークウルフの力に合わせ、防御魔法を更に強める。そして、ダークウルフは自分の力を出し尽くすように四方八方へ黒い魔弾を放ち続けるが、唐突な最期が来た。


  ダークウルフはピタリと動くのを止めた。そのまま制止するかと思えば、ドクン……ドクン……と風船のように体が膨らみ、爆発を伴って血飛沫へと姿を変えた。


  ビシャビシャと辺りを赤一面に染めていく。散らばる血肉。ミザリーはディフェンディングにより返り血は浴びずに済んだが、噎せかえりそうになる血腥さに唐突な吐き気に襲われる。


「うっ……! やっぱり血の臭いは馴れないわね……」


  手で口元を覆うミザリー。そしてダークウルフが途中で果ててしまった為、吸収し尽くせなかった闇の魔力(オード)が辺りに充満する。


「…………」


  ディンには、目の前に起こった凄惨な景色が理解出来なかった。これが、呪術師ミザリーのしたいことだったのかと。


  強大な力を見せつけられ、己の小ささをまた思い知ることとなった。


  一方ミザリーは安堵していた。目の前の出来事を受け入れられずにディンを置いてすぐ様逃亡を図りたいほどに追い込まれていた。


「ふん、あの化け物、解放された力に耐えられずに破裂したわね」


  強がりながらも充満する闇の魔力をミザリーが特別製のステッキにて回収した。


  そして、疲れ混じりに重い溜息をついてぺたりと座り込む。


「はぁ、疲れた」


「そんなにあいつは成長してたってことか?」


「それもあるけど……。それ以上にあいつは力を溜め込んでいたのね。魔物は闇の魔力(オード)から効率良く成長出来るの。闇の魔力ってのはまず、闇の魔力の適性がある極わずかの人間や魔物、魔族の体によく馴染むの。ただ、闇の魔力の制御が上手くいかないとあんな風で暴走した魔獣の様になるのよ。弱い魔物はみんなそれで理性を失っているわ。この事象は闇の魔力だけが顕著に現れやすいのよね。ここには小さいけど魔石もあるし、アイツの首輪には尚更力を集めていた事になるのよ、きっと」


「魔がどうとか闇とか、よくわかんねえなぁ。自分の力で爆発する理由が聞きたいんだよ」


「私だってあんな派手に爆発するとは思わなかったわよ……」


  と、参ったように答えて間を空ける。


「分かるかしら……」と、呟くミザリー。


「あのね、人間に猛威を振るえば人の所有する生命魔力(オード)を少なからず魔物は吸収するの。魔物が魔物を食らっても同様ね。ただ、この装置は成長に於ける魔力(オード)の全てを喰らい尽くす訳。だから装置が取り付けられれば対象が何をしたとしても、全ての成長は止まると言っても過言では無いわ。物理的にも、魔力量的にも。


  それに、成長を止めるだけ止めておいて、その力を無に帰すのも勿体無いでしょ? ここが一番苦労した所なんだけど、無駄を無くすために、その力を蓄積できる様に手を加えてあるのよ。それで、今回はその力の解放が出来るかの実験だったのよ。解放は上手くいったけど……アイツは力に耐えられなかったのね


  魔物が相手なら永遠に解放しないで破壊すれば言い話だし、これを完成させて協会とか相手に売り捌けば幾らになるかしら? って事なのよ」


  長々と話すミザリーにほとんど理解出来ていないディンは「あぁ、うん」等、それっぽく相槌を打つ。


(結局金の話か)


「うーん。とりあえず魔物を強くしない様に使えるなら、次倒せばいいのか?」


「ご名答〜。あんたちんぷんかんぷんな顔して案外冴えてるじゃない! もし、その魔物相手に勝てないなら他の人に頼んでもいいでしょ?


  協会はその辺に溢れかえった魔物の討伐に手を焼いてるのよ。一々でっかい魔物に戦力も割けないのは分かっているから、こっちの都合に合わせて協会に高く売れるわよ……フフフ」


  先程までの強ばった緊張は消えて、ミザリーは悪どい商人のような顔になっていた。妄想の中の算段に心を踊らせている。確かにどの冒険者からしても、強力な魔物の成長を妨げ、早めに悪の芽を摘み取る必要があるからだ。


良ければ、お気に入り、感想等お待ちしております!


活動報告にてあらすじの補足をさせていただきました!御参照ください!


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