表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
29/41

第二十九話 対ザイモール・カルナバロウ

その夜。グランディア学園生徒間ではある噂で持ち切りとなった。


二人の特別編入制度が施行される。その二人はクリメタボールをいとも簡単に破砕してみせたなどなど……と。片方は男であったが、片方はめぼしく可愛らしい美少女だと。特に男性界隈ではあれこれ意見が飛び交う。


一応、ディンもあのマールの禁忌に触れ、編入前から(しご)かれた男としても軽く名を馳せた。


Sクラスに配属はもはや決定的であり、Sクラスでは既に歓迎モードではあったが、よく思わない者もいた。モルオスだ。


彼はワイゼルシティでディンに一蹴され、苦渋を味わいながらも何とか体裁を保ちつつ、オーレンの介入により上手いこと姿を消した。モルオスの中でも非常に許し難い事態であり、状況は芳しくなかった。


だが、モルオスは一矢報える筈もないので、気にする事をやめた。更には一度だけ相見えたことを利用し、リアナに関しては他との男子生徒に対し、アドバンテージを取るつもりでいる。何処までも野心家である。悪巧みに妄想が膨らみ、それだけで愉快な笑みがこぼれる。彼は自室で一人、大きく高笑いを上げ、隣人に壁を殴られた。



ーーーー



そしてまた、闇夜に笑む男が居た。その名もガウズ。彼もまた、Sクラスをさらなる混沌へと落とし込もうと企む。


「グランディア……。最後の仕事にしては面白くなってきたじゃないかぁ……ククク……アハハハ!!!」



ーーーーー


翌日、知識の試験を行うディンとリアナ。所詮村の少年と村娘。体感で分かっていたところで理屈を説明されてもいまいちピンと来ない。


その中でもディンは壊滅的な学力により、グランディア教師陣の頭を抱えさせる事となった。


そして二人は英気を養い、グランディア学園がディオーネ王国最高峰の養成所だと言われる所以である模擬戦闘試験へと赴き、そこで思わぬ人物が待ち構えていた。


「やぁディン、リアナ、久しぶりだね」


ザイモールである。グランディア学園側にもディンの事は伝えてあり、ディンに対しては協会と提携し、対応を取ることとなった。


もしも模擬戦闘でディンが全力を出した時に周りに与える影響を踏まえてどうなるかわからない。また、それと共に危ぶまれる事情や協会側の指示もあり、ディンの実力を受け切るのにはザイモールが適任だった。


「おう! 久しぶり!」


「久しぶりです」


何ら違和感なくディンとリアナに「やぁやぁ」と応えるザイモールにロビンは軽く困惑する。


その模擬戦闘試験立ち会いのロビンは大英雄ザイモールを前に多少緊張している。それに、見たことのないお爺さんのような人までいる。只者ではなさそうな貫禄にただでさえ小さい気がもっと小さくなる。


この試験で殆ど決まると言っても過言では無い。だからこそ複数の試験監督者が立ち会うが、この布陣は何なのかロビンには分からなかった。そして、ザイモールは言った。


「今日は大英雄の力がなんたるや、君達に教えてあげよう。僕が遠く及ばない存在だと認識してもらわないと僕の尊厳に関わるからね」


「ザイモールはザイモールだろ?」


「はぁ、わかってないなぁ。みんな僕を呼び捨てにするディンを見て驚いてるよ? せめて表だけでも敬っている様子を見せて欲しいもんだ」


「敬ってるけど仕方ないだろ。今更’’さん’’なんて付けられないよ」


「一応僕、先生的な立場も持ってるんだからね?」


「じゃあ、先生の力見せてくださいよ」


「いやいや、君達何も出来ないで終わっちゃうよ。まぁ、仮にも一撃僕にお見舞い出来たら好きにしていいけど、そうでなかった場合は僕を敬うんだ」


「ああいいぜ」


ザイモールの小さなこだわりを二人に押し付けるがリアナは一切介することなく話が進む。


「それなら、試験がどうとか言われたけど、めんどくさいから二人一斉に来なよ。君達くらいなら手こずることもないだろうし、丁寧に扱ってあげるよ」


ザイモールは挑発しているのか、二人にニコッと笑う。案の定ディンも黙っていない。


「へぇ、今の言葉、絶対に後悔させてやるからな……!!」


ディンはザイモールの提案に面白そうに答える。



「これ!! ザイモールよ!! さっさと始めんか!!」


「ああバン爺、まだ生きてたんですね。言われなくても始めますよ」


バン爺がヘラヘラとしているザイモールに激を飛ばす。こいつはいっつもいっつもくだらんことに時間を使いおる……とブツブツ話しているのをロビンは聞き逃さない。


(バン爺……バン…バン……バングルド校長!?)


そう、この老人こそがグランディア学園校長であるバングルド。通称バン爺。普段は姿を隠して(変装して)おり行事の時にしか姿を見せない謎多き校長。行事の際でも毎回性別年齢全てバラバラで特定が困難であった。ロビンは赴任して間もない。この姿を見るのは初めてだった。


それに、バングルドは大英雄である賢者ウィンの師匠と言われている。その賢者ウィンはライドの死亡と共に消息不明となった説が強いが、ルブルドシエルにてウィンの痕跡という物が何一つ見つかることが無く、まだどこかで生きている可能性があってもおかしく無いと言うのは有名な話。


そのバングルドが姿を隠すこともなくこの試験を見に来ているのだ。しっかりと見届けなければならないのだとロビンでも理解出来る。


そしてまた、ディンやリアナと仲睦まじく話す大英雄ザイモールの戦いぶりは言伝にしか聞くことがない。彼は手の内を死にゆく相手にしか明かさない。その戦いを傍観していようが、ザイモールの力を一言で言い表すことも出来ない。そんな男の力量を生で見ることが出来る、類まれなる機会。それもまたバングルドを動かした要因の一つである。


「さぁ、用意が出来たならさっさと来なよ」


そう言い、ザイモールは緩やかに浮遊する。強いものは地に足付けることの方が少ない。身体の制限に囚われずに圧倒的な機動力、手数で押し切れるからだ。


「っしゃあ! リアナ、頼む!!」


「う、うん!」


ディンがリアナに合図をする。ディンはそのまま一気に加速して仕掛ける。リアナはその逃げ道を塞ぐように魔法を打ち込む。


「駄目だよ、僕を侮っちゃ」


ザイモールは楽しそうな笑顔を崩すことなく暴風を巻き起こし、全てを無効化する。近づき過ぎたディンは暴風によって羽虫のように吹き飛ばされた。


「ディン!?」


リアナは吹き飛ぶディンを見て思わず声が出る。ズドンッ!! と思い切り地面に叩きつけられたが、ディンの下には抉れた地面。咄嗟に自身の身と地面のあいだに爆発を起こし、どうやら衝撃の緩衝には間に合ったらしい。


(ってぇ……そう言えばアイツめちゃくちゃ強いんだったよな。なら、オレは本気で行かなきゃな)


「どうしたの? まさかこんなので気持ちが折れる理由(わけ)ないよね?」


「あぁ! 今ので目が覚めた!」


ディンは多少、ザイモールが手を抜いたりしてくれると思っていた所もあったがどうやら違うらしいと認識し、気合を入れ直す。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ