第二十六話 グランディア学園編入試験
グランディア学園にて手続きを終えたディンとリアナは冒険者広場にある協会本部へと戻る。都に辿り着いてからすぐはあまり廻りを見渡す余裕等無かったが、よく見てみれば広場は外とはかけ離れた華やかな冬化粧が施されていて、噴水前の大きな雪像は通りかかる人々の目を奪っていく。
「ホムラのやつ、リアナの父ちゃんと上手く話せてるのかな」
「うーん、お父さんの事だから変にホムラちゃんを怒らせて無ければいいんだけど」
「そんな事よりも、編入手続きってこんなめんどくさかったのかよ」
昼頃には協会本部を出たはずが既に日が暮れようとしている。
「確かに、手続きって言っても編入試験の手続きだったもんね」
グランディア学園では編入するにあたって実力差でクラスが分けられている。
特別な待遇を受けることが出来るSクラスを筆頭に、A、B、Cとクラスがわかれている。Sはかなり優遇されているがAクラスも中々にレベルが高く、このグランディア学園は国の次世代における中枢的機関である。さらに細かく言えば、頭脳が抜きん出ている者にはS2クラス、A2クラスという特待制度が存在する。
ディンはその説明を適当に聞き流した。そして、編入テストが翌日から数回に分け、実施されるという。
本来入学時に執り行う入学テストを特別的に実施してくれる事は本来では有り得ないが、二人の事情を汲んだ結果である。
それ故に他の学生からはよく思われない所も有るだろうと杞憂されたが、既にモルオスという杞憂すべき存在を目にした二人はそっちに気を取られてそれ所ではない。
グランディア学園では身分や出生を分け隔てなく平等に扱われると言うが、王子は王子。一度学園の外へ出れば国の花形である。ただ、学園内では権力者の子息や貴族の子息などが入学に漕ぎ着けたものの待遇に気を損していたり、憤りを覚えている者も少なく無い。
モルオスは完全に実力で入学を果たし好成績を収めていると聞いたが、周りは「はいそうですか」と素直に納得出来ないでいる。これが、王子の持てる誇らしき圧倒的なステータスの弊害でもあるがモルオスはこの実情と向き合い、戦い続けている。それでも、あの性格をどうかと思うのはモルオスを知る者のみであった。
そして、入学試験、編入試験に共通して執り行われる試験というものが、オード発動力(属性等)、強弱柔軟性、操作力。それと知識。全ての手続きが終わり、実施から結果が出るまでは一週間程はかかってしまう。
次に、各試験終了後、自分の一芸披露を兼ねて学園の実技試験官相手に模擬戦闘をする事になる。試験生に様々な技を出させるために試験官は多彩に技を仕掛けて来るのだが、その際、全力を出しても出さなくてもいいと言われるが手加減は無用である。その際、試験の結果に合わせて模擬戦闘のレベルも変わるらしい。
少しだけ、回想し思い出すようにディンが言う。
「それにしても、明日からってさ。ちょっと緊張するよな〜!」
「そうだね」
と笑顔で相槌を打つリアナ。
そして、協会本部で戻り受付に連絡を入れると再びメイサが来る。
「お待ちしておりました。本日、ほかのご予定は有りますか?」
「いえ、ないです」と、二人は答える。
「それではこちらへ」
今度は協会本部に隣接する宿泊施設のゲストルームへと案内された。その際キーを渡され、これを数日間使う事になるので紛失しない様にと注意を促された。
ーーーー
明くる日、グランディア学園で待っていたのはロビンという物腰柔らかな線の細い男。やはり、柔らかい雰囲気を持つが洗練された力を感じる事が出来ると言うことは実力も兼ねているのだろう。
染み付いた癖なのか、かなりディンやリアナを相手にしても気立がいい、できる男であった。
「それでは、ディン君、リアナさん。二人の現在の実力をグランディア学園にて正式に評定し、それに見合うクラスへと配属されるという事はご存知のはずです。
緊張する気持ちも残っているでしょうが、可能であれば本日はできる限りリラックスして普段通りに力を存分に奮ってくださっても結構ですので。では、本日はよろしくお願いします」
その定型文とも取れる言葉を皮切りに多種多様な身体能力、オード力の測定が行われる事となる。ロビンという男も真剣に二人の試験を担当する。
そして第一の試験が始まる。
「このクリメタボールの中から力を入れてみて下さい。一般的な生徒達では、まず壊れる事は無いと思いますが、君達なら壊せてしまうかもしれないけどね」
手よりも大きい、小玉西瓜程のガラスの様な球にディンは思い切りオードの力を込めた。すると、即座に赤く染まった球が破砕音が響く。
パァンッッ!! と音を立てて粉微塵となったクリメタボールを見て、ロビンは感嘆の声を上げた。
「これでいいですか?」
ディンは少し物足りなさそうな表情でロビンを見る。
「んー、やっぱりすごいね。測定不可だよ」
「そうなのか、あまり大した事ない気がしたけど」
「壊せない人が普通だから……」
そう言いながら笑っているが、困り顔を見せるロビン。元より話は聞いてはいたが、こうもあっさりクリメタボールを破砕されてはロビンも脱帽したような気持ちになる。何故なら、ロビンですらこの大きさのクリメタボールの破壊には手を焼いている。それを瞬時に破砕したとなるとオードの瞬発的な力も大したものだとロビンは推測した。
「ま、まぁ……。それじゃ次はリアナさん同じ様にお願いします」
「わかりました。同じ様に、ですね」
リアナの返事に「うん?」と一瞬ロビンは気にかけるが、リアナは集中し、オードを高める。そしてクリメタボールへと一気に力を解き放つ。
パァンッッ!!
ロビンは再度として同じ光景を目をすることとなった。リアナは正しくディンと「同じ様に」という言葉を元に先程のクリメタボールの破砕を忠実に再現して見せ、大きく吸った息を吐いた。
「大体同じ様にできたと思います!」
「よ、よく出来ました……」
笑顔で報告するリアナにロビンは複雑な気持ちが隠せない。
(化け物かこの子達は……)
その後、加工されたクリメタボールをロビンは用意して、二人に次の検査の説明をする。
「このクリメタボールはさっきと違ってかなり純度も高く、頑丈に造られていて破壊目的ではないんだ。そして、今度は二人のオードの属性を見ようと思っています。さっきのでオードを使い果たしたっていう事は無いよね?」
「まだまだいけるぜ」、「私も大丈夫です」と二人が答え、それに頷くロビン。
「じゃあ、このクリメタボールに属性別に力を入れてみて欲しいんだ。その時段々と力を入れていって見てほしい。じゃあ今回はリアナさんからでいいかな?」
「わかりました」




