第二十五話 リダズの憂鬱
「おいおい、それは何処までも協会都合ではないか……? 貴様らの手の上で踊るつもりは毛頭ないが、お前らの協会がそういうつもりなら今の我では飲み込むしかなかろう。弱みをついたな? リダズ……」
「おっと、気を悪くするなよ。あくまでも提案だ。ここから何か譲歩するにあたってお前からも意見は聞くからその気を抑えろ」
「ふむ……」と少しだけリダズの意見に相槌をうち、ホムラは頭の中を今一度整理する。
「まぁ、確かに人形とやらの金額も分からんからな。金づるとして扱いたいのなら金脈を教えてもらいたいものじゃな」
「金脈ねぇ……。事が事だしお前の事はあまり自由にさせることはできねえが、お前程の力があれば借金なんぞ全然大した事ねえと思うけどな。それと、金額についてはまだ知らん。多分メティウスからの取り寄せになるだろうしな」
机を指でとんとん叩きながら思い起こしながら話すリダズ。
「メティウス、か。我の兄弟が一人いたな。また会いたいものだ」
「お前の他にも居たのか!?」
リダズがガタン! と足を机にぶつけ、勢い良く問う。
「知らぬか? 無理もなかろう……。隠していたわけでは無いが兄弟達は我よりも賢い。故に身を潜めているだろうがな」
「それは初耳だな……」
「聞かれたことが無いからな。あまり答えたこともない。だが我の目的はそれにある。兄弟を今一度集結させたい……」
ホムラは決意に満ちた顔でリダズへと訴える。
「それで、兄弟とやらはお前みたいに癖が強い訳? それなら扱いきれねーぞ」
ホムラをみて、リダズは危惧する。これを四人は受け入れきれないと。
「それは無い。兄上達は思慮深く、慈愛に満ちておる。我のような劣等的存在では無いからな。だから我のように扱われずに済んでいるのだろうが、それでも今か今かと助けを求めているはず。それに、兄上達がいれば、ここ(ディオーネ)の更なる地位向上にも一役買うのではなかろうか」
事実、現在ディオーネはアトラスには武力、国土、人材等で圧倒的な差を付けられ、埋めきれずいる。
メティウスはここ近年世界に力が満ちることにより、魔導機巧の可能性が広がった。国全体が目まぐるしく発展し、技術力の進歩の留まる所を知らない。それに、現在大英雄の中でも頭一つ抜けた実力を持つムルディストがいるためにライド不在のディオーネの小粒感が否めなずに居る。
ディオーネの強みは他と比べてトップ層のバランスが良い事や、オードの力に関しては長けている者が多い、位か。
次なる世代で最も優秀なのはアトラスにあるニーストラス大学校のゼクス。他にもアトラスは驚異的な実力の持ち主が跋扈しており、全体的にレベルが高く、先が明るい。
メティウスは現在から過去までめぼしい人材は聞かないが最新鋭のテクノロジーを用いた戦法を得意としていてそのテクノロジーの普及を急務としている。それが実現した際には、存在する事を世界から望まれるアトラスと並ぶ大国家になるだろうと言う噂がまことしやかに囁かれている。
ホムラの言うことが真実だとしたらディオーネから見て、喉から手が出るほどの甘美な案件。一考の余地があり、早急にホムラの言う兄弟を捜索をするべきでは有る。それがディオーネの為になるのなら。
リダズはそれらの全てを考慮した上で頭が行き詰まり、ため息を吐く。所詮は武闘に生きてきた者、日頃から頭を使う事をあまり得意としていない。メルサでも呼んで、協会の頭脳と相談の必要がありそうだと思うと憂鬱になる。
(また仕事が増えそうだ……)
「……まだ、何も決まってないのに駆け引きか? お前も随分とせっかちなんだな」
「どれ程待ち望んでいたと思っているのじゃ?」
そう言いながらホムラは茶を啜る。
「さぁな。三日かそこらだろ」
それどころではないリダズは他に思考を寄せ、無碍な返答をする。
「そんな訳……まあ良い、貴様らにとっても悪い話では無いだろ? どうせこき使われるんだ。気持ち良く事を進めるにも、少しはこちらの言うことも聞いて頂きたいものだ」
その言葉を最後にホムラは形態を解除し、刀身の状態へと姿を戻した。
「どーすっかなー」と空に放ち、リダズは頭上で手を組んでふんぞり返った。




