第二十三話 冒険者協会とは
それから間もなくリダズの秘書がタイミング良く登場する。
眼鏡が似合っている。タイトなスーツを着こなし、仕事のできそうな凛然とした女性。若干目が鋭いからか、真面目そうな見た目に拍車がかかる。
「ふーん、お父さんなかなか家に顔出さないと思ったら……」
リアナはジトーっとした目でリダズ、それと秘書を交互に見る。
(こいつ……俺たちがデキているとでも言いたいのか!?)
「リアナ様、私はリダズ様とは仕事上でしか関わりありませんからどうかご心配なく」
リダズの秘書はリアナのあらぬ想像を読み取り、食い気味に否定してきた。
「こんな奴だよ。何かあろうが間違えが起こるわけなんてないだろ?」
「そーかしら」
リアナはリダズから顔を背け、ふーん、と鼻から息を強めに出す。
「つまらない事はいいんだよ、こいつが来たのも理由があってだな」
「つまらなくはないけど?」リアナが指摘するがリダズはお構い無しに話を進める。親には結構強気で攻めるリアナ。ディンですらその鬼気迫る尋問じみた追及に苦笑いを浮かべる。リダズも秘書も、否定しているのに、それはリアナなりのジョークで楽しんでいるのか。それがわかるのはリアナ本人だけである。
「こいつはディオーネの冒険者協会所属の秘書でな。大体の事はこいつが記録、記憶してる。優秀な秘書だ。弱みを握られるからあまり変な所は見せない方がいいぞ?」
「お褒めの言葉、ありがとうございます」
秘書は皮肉にも律儀に礼を返す。
「こう、仕事上の付き合いでは硬っ苦しい奴だけど仲良くしてやってくれ」
「はい」
「わかりました」
リアナとディンが返事をする。
「じゃあ後はメルサ、頼む」
「わかりました」と言ってリダズは三人掛けソファの真中から右にずれて座り直す。リダズから少し距離を開けてその隣にメルサが座った。薄い黒タイツが綺麗な脚を更に際立たせている。その光景はまるで美女と野獣、とでも言っておこうか。
(綺麗な人だなぁ……)
「それでは、本日お越しいただいた訳とその概要をご説明させていただく思います」
メルサの眼鏡のズレを直す仕草を見てリアナは大人の女性への憧れを抱く。
そして、メルサの口から冒険者協会についての説明がされる。
まず初めに冒険者協会とは各地に存在する各国が運営費をだして存在する組織である。現在制定されている限りでは、協会本部長は各国王の次くらいに権限を持つ。大英雄になれば国の騎士団長よりも権限が上になる。大英雄と言うのは枠が決まっている訳では無いが、誰でも彼でもなれる訳ではない。それ相応の力の持ち主であったりする必要が生じる。現在はディオーネのリダズ、ザイモール。アトラスのトラモント、ブレイド。メティウスのムルディストの五名である。
冒険者は騎士団とは差別化されているが、騎士団所属の人間も何かあれば調査等に赴く事もある。その為、騎士団だが冒険者としての活動が多い者もいる様に、大きな役割として差別化されている。騎士団は直接国から大体固定のマーニを貰うが冒険者はそうではない。見返りが大きい分下手を撃てば報酬はゼロである。というのは冒険者は国に所属していることとなっていないからで、それを考慮した上で冒険者になるべきであると。
あくまでも冒険者協会というのは有志である。それでも八年前の魔王との対戦で冒険者協会は無事に地位向上を果たし、今現在冒険者協会本部長は各国の王の次にも位置する強力な権利を有している。その為からその他権力者たちからは白い目で見られている。それ故に権力者による有力冒険者の闇討ちも横行しているらしいが詳しくは話すことができない。限られた層での秘匿案件だ。ただ、自分の身を自分で守ることが冒険者としての前提で必須条件の一つとされている。
冒険者の手助け、職業等、悪事を働いていない限り冒険者なら冒険者協会は使用可能。と言うより普通に冒険者家業をするにあたってここを使用しないとろくに冒険はできない。(目的としては次世代の管理も兼ねて悪どい因子なども完全管理される)
常に最新の情報がある訳では無い。死亡率が高かったり難易度が群を抜けて高いものは基本伏せられている。そういう物は上位の冒険者等に直々に指令が行く。拒否するも承諾するも自由であり、報酬が多少弾むのはもちろんの事、条件の指定等も臨機に応じて可能である。
そして今の冒険者協会は大き過ぎてあまり細かくは動かせない所もあったりする。それに、大きいがために裏が存在している事は確認されているが炙り出しが思う様に進まない。あまり表立って目立つと目をつけられる可能性も有る。いくら冒険者協会内部だからといっても身の振りは細心の注意を払うこと。悪いことを考えている者はごまんと存在する。
特に、協会に属さない冒険者と言うのはルールも何も滅茶苦茶なので賊等には要注意。因縁を付けられたり、協会に属する冒険者狩りも横行していれば、反協会組織とされる団体も各地で確認されている。
最後に冒険者なら、大体冒険者協会で必要な事や物が揃っているから何かあれば頼ると良い、と再度プッシュする。
基礎的な事はここまでで、後はグランディア学園で学べばいいとメルサは言う。
ディンは頭が途中でショートして煙を上げていた。それをニヤニヤと見守るリダズ。あまりにも不真面目なのでメルサはそんなリダズを時々睨んでいた。結局の所、リアナだけがしっかりと話を聞いていたという事になる。
「以上です」とメルサが言うとリダズが続いた。
「なぁ、ディン、ぶっちゃけ良くわかんなかったろ? 俺も冒険者としてまだまだ現役だから、そこまで良くわかってねーんだよな」
ディンがうんうん、と強く頷く。なぜか腕を組み偉そうだ。
「はぁ、だから駄目なんですよ。リダズ様はもっとディオネーネ王国冒険者協会本部長としての自覚を持ってください」
長ったらしい生真面目な肩書を突きつけるメルサに「うるせえ小娘だ」とリダズは頭を掻きながら小言を言う。
そして、リダズはディンの背負っていた太刀を見る。昔、ライドと共に見た懐かしい代物だ。
(これがあの魔焔刀ねぇ……)
「それから、ディン様の扱いになりますが……」
メルサがそう言うと、多少場の空気が締まった。
「保護監視の下、グランディア学園への通学が認められました。編入試験結果によりクラスは後から決まります。そしてそのクラスにそぐう形でグランディア学園所属生徒宿舎への配置となります。リアナ様も同じくグランディア学園生徒宿舎への配置の希望はありますか? リダズ様が言う分には、リダズ様と同じ御屋敷でも構わないとの事ですが」
ディンの処遇についてはリダズも噛んでいるが、ミザリーは勿論、特にザイモールが強く掛け合ってくれたらしい。ザイモールはどうしてもディンが放っておけないのだ。だがその本当の理由をまだディンは知らない。
そして、リダズが我が子に向けてグッと親指を立てる。だがリアナは即答した。
「生徒宿舎でお願いします」
「ええ、わかりました。そういうと思っていましたし、仮手続きは済んでおります。二方とも生徒宿舎を使用出来るようにグランディア学園で残りの手続きをこの後、お願いしますね」
メルサはリアナに優しい顔で笑む。笑顔の威力が普段ツンケンしているせいでかなり高めである。そして、ディンやリアナが思っていたよりも淡々と話が進んでいく。リダズは蚊帳の外に居る気分になってきた。
「なあメルサ、俺が宿舎へ行く事は可能か?」
「それは不可能です。それと、訪ねる事が限界でしょうがグランディア学園の方針としてOBや外部の関係者でも手続きをしないと宿舎へ踏み込むことは叶いませんし、相手方の許可が必要になりますから不用意に立ち入る事も出来ません」
端的に言い終えたメルサの眼鏡がキラリと光る。リダズは撃沈し、ディンはそれを半笑いで眺めていた。そしてリダズの伏せた眼が何か閃いたように見開く。
(……ディンに協力してもらえば突破可能ではないのか……?)
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