第十九話 ディオーネ王国第二王子モルオス
投稿ブースト二発目です。折り返しです。
そのまま何もなく、二人は道中をゆっくりと歩き、ワイゼルシティへ着く。
「でっけえな町って!」
「王都はもっとすごいんだよ」
ワイゼルシティはディグル村の数倍はある都から最も近い町。
その為整備も行き届き、数は少ないが権力者も在住している。
町長は冒険者協会支部から派遣されている。元々名の知れた魔族の男らしい。魔族ではあるものの種族の壁すら関係なく協会内外からの絶大な信頼を誇る人格者と言われる。それ故に都へ出るよりもこの町の方が多種多様の魔族が多く在住していると言う。
「それにしても疲れたな……」
顔に覇気がない。声からも疲労感が感じられる。主にFGDのせいだ。
「私もちょっと疲れたかなぁ、少し早いけど宿に泊まろうか?」
リアナは疲れよりも入浴がしたいと思い、提案する。治癒、浄化魔法で清潔は保たれるが、細かい汚れや土埃等はそのまま残ってしまうため、身なりの清潔感が多少気になっていた。
「じゃあそうしようぜ! 久しぶりに布団で寝られる〜!」
ディンはそのまま浮かれ気分で宿へと向かった。
それを「待ってよー」と追いかけるリアナ。
ーーーーーー
「ーーーあぁ、とうとう来たか。随分待ったよ」
薄暗闇の中、伝令より齎された報告に一人。尖った牙を覗かせ、笑う男。雰囲気に似つかわない上下水色アロハで決め込んでいる。
町長にして、協会における冒険者上級クラスの認定試験のジャッジメントを司る男、オーレン。
ライドやリダズとも昔からの親交がある。中々親しい仲であるらしいのだが、大英雄では無い。謎が多く、数多くの噂は不明瞭である。
唯一の情報は今は世界に殆ど存在しないと言われている吸血鬼であるという事だけ。その事を知っているのは協会の上層部である一握り。隠している訳では無いが、普段。民衆の前ではしっかりと己を魅せている事から、様々な事情があろうがなかろうが種族等の話は関係無かった。
事の顛末は吸血鬼一族の非常に闇の魔力の干渉が受けやすい事にある。その為、吸血鬼一族から魔人化する者が多発。それを恐れた者達が吸血鬼狩りを始めた事もある。
吸血鬼というもの自体がかなり個体差が出るものの殆どの吸血鬼はかなりの力、魔力を誇る。魔族の中でも随一の魔力含有を誇っている崇高なる一族であったのだ。その者が暴徒と化す、それはまさに大量虐殺を意味する。
それ故に認識される個体として残る者は殆ど残っていない。オーレンは最後の吸血鬼家系の可能性さえあると言われる。今でさえも危険視される種族であり、厄災を齎す者として望まれない存在として吸血鬼は言い伝えられている。
「それで? 二人は今どこに?」
「はい。今はマルクの宿に入ったとの事です。」
「そうかそうか。では、その二人を今夜ここに招いて貰えるか?」
「あの若者をですか?」
「いいからいいから」
笑って部下に指示するオーレン。指を外へとクイクイさせる。
(さっさと行け、ということか……)
部下は何か企んでいるのかと思考を巡らせるがオーレンに隠し事は通じない。大抵、思考が見透かされてしまう。
「分かりました」
素直に返事をするだけであった。
ーーーーーー
ーーーマルクの宿。
爆睡するディンの部屋にオーレンからの使いが訪問する。
コンコンッ、コンコンッ。
「在室でございますか〜」
ノックと共に声を掛けることを繰り返す。
「すいませーん、そちらはディン様でよろしいでしょうか?」
反応が無い、隣を訪ねるかと肩を落とす使者。
(隣でも訪ねよう……)
コンコンッ、コンコンッ。
「すいません、急にお伺い立てて申し訳ございません。そちらはリアナ様でよろしいでしょうか?」
「えっあっ、はーい?」
部屋の中遠くから声が帰ってくる。
「少し、よろしいでしょうか?」
ドアの向こうから聞いた覚えのない女性の声がする。
「ちょっと待って貰えますか?」
リアナは返事をする。身体を流していたリアナは急いで髪を握り水気を切る。
濡れた身体をばさばさと急いで拭き回し、急いで下着、肌着を身に付ける。
そして、やや駆け足で急ぐ。
「すいません、お待たせしました。」
少し息の乱れた少女の濡れた髪に、滴る水滴を見て、使者は申し訳ない気持ちになる。
「こちらこそ、急に訪ねてしまい、申し訳ございません。タイミングが悪かったようです。……それでですね、私が使われた理由を聞いて下さい。そちらも、突然な話で悪いのですが町長がお呼びです。要件はその時に話すと仰っております。隣の部屋に居るディン様も招待されております。お誘い合わせの上、リアナ様とご一緒に願えますか?」
使われた者による、申し訳ございません、の一言の後に「いえいえこちらこそ」と言うリアナだったが、町長の招待と聞いて表情を一変させる。
(何だろう……。まだ何かあるの……?)
また、少し憂鬱な気分に陥るリアナ。
「あぁ……そういう事なら、どうせ行かなきゃ行けないんですよね。それではお伺いさせて頂きますとお伝え下さい。」
「まあ、そうでしょうね……。それでは、冒険者協会ワイゼル支部にて今夜、お待ちしております」
妙に物わかりの良いお嬢さんだと使者は感慨に耽り、その場を後にした。やはり、町長の知り合いだったのだろうと。
ーーーーー
日も暮れる頃、リアナは少し長い昼寝から起床する。
起きる気配のないディンを起こしに行くリアナ。
コンコンッ。
「ディーン、起きてー。まだ寝てるのー?」
ドアノブを捻ると、鍵がかかっていない。その扉を開けると既にディンは居なかった。何だか嫌な予感がする。
(どこか行っちゃったのかな)
リアナは一度用意を済ませ、宿をでる。
(変な所へ行ってなきゃ良いんだけど……)
冒険者協会ワイゼル支部前まで行くと、嫌な予感的中。威勢のいいディンの声が聞こえてきた。
取り巻くヤジもやいのやいの言いながらその場を楽しんでいた。
「だから、その試験とやら受けさせてくれよ!」
「いえ、ですから……その……」
受付も困った表情をしている。そんなものディンはお構い無しで続ける。
「大丈夫だって! それなら、試験とかじゃなくていいから!」
ディンが一方的に要求し続ける。
すると、一際気品を漂わせる若い、学生服を身を纏う男が野次を切って進んできた。
「騒がしいと思って来てみたら……。何をしているだ? こんな所で」
「モ、モルオス様!?」
受付が驚き、野次もザワつき始めた。無理もない、かなり奇抜な髪型をしている。有名人なのだろう。
「フン、こいつが発端か。どうした? 平民風情が世間に迷惑をかけようなど言語道断だぞ?」
ディンに向かって注意するモルオスという名の男。モルオスに背を向けるディンの肩を軽く掴む。見た目は若く、ディンと同じくらいに見える。
ただ一つ、とんでもないトレードマークがある。それは、とてつもないキノコ頭である事。本人曰く威厳があり、権力の象徴を表し、唯一無二。それでいて目を惹く素晴らしい髪型と自負している。
ちなみにモルオスはディオーネ王国のアルフバン・ハスベルン・ディオーネ王の子息であることをディンは知らない。
肩を掴まれたディンは不快そうに振り返り言う。
「はぁ? 何だよキノコ野郎。お前に言ってねえっての。だから頼むよ、ね? ほらお姉さん?」
キノコ野郎というストレートな不敬に周囲が更にザワつく。ディンは自分の事で精一杯だ。モルオスからすぐ顔を背ける。
「何がキノコ野郎だ……愚民が。俺を知らんと言うのか? 良いだろう、そんなに試験がしたいと言うのなら、俺が直々に相手してやろう!!」
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作者のやる気が非常に出ます!




