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アオイさんの技能 〜アオイさん視点〜

前話

アオイさんの技能はSMグッズ

「希望者様の種族を確認し、最適な組み合わせにて既に二組をお送りしております。最終出発の三組目は、葵由香様と藤ピピ様の適性が一致する『ハーピィ』と呼ばれる神話の種族です。皆様の中で、唯一空が飛べる貴重な存在となるでしょう」


 神話に登場するハーピィ――顔と胸が人間、翼と下半身が鳥の生き物――になるという驚きの話を、天使さんはさも当然というようにお話してくれました。


「ただし、葵様はハーピィとなって飛べるようになるメリットがある一方、手が使えなくなるデメリットも生じます。また、ピピ様は伝承通りの姿にそもそもメリットがありません。これではもともとの合成要望の意義を欠くことになってしまいます」


「たしかにそれなら、鳥と人間で別々の方が役に立ちそうですね」

「そこで、互換部位の選択や追加は自由にできるよう変更します」

「具体的にはどういうことでしょうか」


「全身が人間の姿に、翼だけを追加することも可能です。つまり飛行しながら人間の手で何かを持ったり、道具を使ったりも可能です」

「それはすごく便利そうです」

「ご満足いただける提案ができて幸いです。飛行重視では鳥の姿、人間社会での活動は人の姿、飛行しながら何かしらの活動が必要となる場合はハーピィの姿を適切に使い分けていただければと思います」



「続いて、技能についてご希望はありますか? あちらでのご自身の目標に応じた技能の相談も承ります」


 声をかけられて、大空を舞う自分の姿を想像していた私は話に引き戻されました。


「ピピはシャワーが大好きっピ! お湯シャワーと水シャワーどっちも欲しいっピ!」


 ピピちゃんは即答のようです。


「かしこまりました。藤ピピ様には温度調整が可能な『シャワー』魔法を付与します。葵由香様はいかがなさいますか?」


 少し考え込み、決めきれないので、質問をしてみます。


「あちらでの使命とフジ君のお願いはわかったんですが、私もしたい事のお願いはできるでしょうか?」


「依頼の遂行をおろそかにしない範囲で、新しい人生においての皆様の目標達成は尊重されるべきです。また、すでに合流済みの方々において、相互協力の意思確認と実践がなされています。他の方の目標と衝突する、または実現不可能な目標でない限りは、ご心配には及びません」


 文字通り、人生の大事な選択です。天使さんにはちゃんと具体的に尋ねておきたいと思いました。


「私は……」


 言いよどんでしまいましたが、息を吐ききり今度こそと意を決します。


「私は、フジ君のペットになりたいです。今までの人生のしがらみが無い世界でフジ君に調教されたい。そう期待して同行する事は許されるのでしょうか」


 天使さんは数秒の間を置いた後、深くうなずきました。


「検索を完了しました。四つの理由で容認される可能性が高いと判断いたします」


 意外にも、天使さんは何でもない事であるかのように答えてくれました。


「一つ目、通常の成仏を諦めて危険の多い世界への転生に協力する以上、自身の希望も叶えてほしいと期待することは信義誠実の原則により妥当と判断できます。すでに同じ理由で、一人目の八木様の妻になりたいという要望を聞き入れていらっしゃいます」


「なるほど、頑張って尽くすから私のお願いも聞いてくださいって事ですね。先に着いてる子と結婚してるっていうのは、人間関係的な部分でも大丈夫でしょうか」


「二つ目の理由で問題ないと判断いたします。二つ目、葵由香様の目的が、依頼及び他の方の目標達成の支障になると判断できる理由が不十分です」


 そうですよね、奥様とペットは別腹ですよね。


「ただし、藤隼人様と婚姻関係にある八木すみれ様には一と二についてしっかりと理解を得る必要があるかと思います」


 たしかにその子に嫌われるのはまずいですよね。


「三つ目、藤隼人様の前世における性格及び習慣において、ペットとしつけは日常的に慣れ親しんだものです」


 フジ君はご主人様適性があるってことですね。


「四つ目、『調教』について検索したところ、『両手を使わずにお口でご奉仕する』という慣例があり、ハーピィの身体的特徴と高い親和性を有します。先ほどの仕様変更を活かし、人の姿から腕だけを翼に変えて存分に調教されてください」


「あっ、そうですね。たしかにその姿を想像して、今すごくときめいてます……。ありがとうございます。私、頑張ります。ところで、あちらの世界にSMグッズは販売されているのでしょうか」


「販売されておりません。また文明の水準から判断して、作成も困難な物品が多い事が予想されます」

「ではSMグッズをいただきたいです」


「かしこまりました。破損や故障、清潔性の懸念を踏まえ、持ち込みではなく新規で産出できる技能が適切と判断いたします。幅広くSMグッズを生み出す『SMグッズ』魔法として付与いたします」


「本当にありがとうございます。私……、立派なペットになります!」


「有能な天使として当然の事をしたまでです。それでは、皆様の目標が叶うよう、協力してお過ごしください。皆様の今後のご健勝とご活躍を心よりお祈り申し上げます」


 金色のまぶしい光は、私の未来を祝福しているかのようでした。






「こんな感じです」


 無能天使と思った事は、今回に限っては撤回したいと思う。


「『祝福しているかのようでした』……じゃねーわ! 天使の誘導かと思ったら自主的にかよ!」


 アオイさんにチョップを落とす。


「あんっ……早速素敵。調教される時に掴みやすいよう、首輪も用意してます。ご主人様の手でこれをつけていただけませんか」


 正座のまま黒い革の首輪をくわえた体勢であごをあげる。


「アオイさん! ハヤト君は私の旦那様だよ?」


 猫科の俊敏さを人間の姿でも発揮しながら、八木ちゃんが止めに来る。


「八木さん、ご心配なく。奥様として大事にされる八木さんと、ペットとして調教を受ける私、役割は別々です」

「なるほど。そう言われたら、たしかにそうだね」

「SMグッズのコスチュームも提供できます。私が着た状態で出てきますけど、脱げば八木さんも使えますから」


 そう言いながら、エナメル素材やレースの下着、襦袢じゅばん、メイド服などを、ぱぱっと数種類変えてみせた。


「八木さんの幸せな結婚生活、私の充実したグッズとピピちゃんのシャワーで支えます」


 アオイさんはにっこりわらって言ってのけた。


「確かに! 私達仲良くなれそうだね!」


 それにしても八木ちゃんはちょろすぎる。今は満足そうな笑顔になって、アオイさんに 

 いそいそと首輪をつけていた。


「勝手に話がまとまってるな」

「ハヤトも内心は嫌いじゃないはずだにゃ」


 トラ美に反論できない俺であった。


「でも、バスで隣になっただけなのに参加するって、よっぽどハヤト君の事気に入ったんだにょろ」

「そうですね。それに……」


 アオイさんは暗い雰囲気で語り始める。


「私、家が厳しくて中学高校は女子校、大学は女子大だったんです。ずっと『小柄で幼い男の子に調教されたい』って願望はあったんですけど、でもどこをどう探したらそんなご主人様が見つかるかわからなくて……それで、二次元ばかりに逃げてました」

「わかるぞい。他人とは違う幸せが必要な人間は、決して世間から理解されないものじゃ」


 じじいが感情のこもった声で同調している。


「バスでご主人様を一目見た時から、このチャンスは逃せないって思ってたんです。そしたら死んじゃうし、持ってたショタおね本は、全部家族に見られてあきれられてるし……、もう消滅したいぐらいだったんです。そんな時に来たお話だったので、迷わず飛び込んで来ちゃいました」


 可愛い感じで言っても、内容はシュールだ。

 しかし常識外れ同士で通じるところがあるのか、八木ちゃんと那須じいとは早くも連帯感が生まれはじめている。


「心配は要らん。ハヤトは懐が深い男じゃ。わしら全員、これからしっかり協力しあって、前世の夢をかなえようぞ」

「ピピもはーちゃんにお尻をこすりつけるのが好きだっピー!」

「トラ美の優秀さがきわだつパーティになったにゃ」

「にぎやかになって嬉しいにょろ」

「つらかったね……私は避妊と妊娠をコントロールできる魔法があるから、そっちでサポートするよ!」

「そんな……、調教されるだけでも最高ですのに、この上ボテ腹ファッ――」

「やめとけよ」


 素早く正面から、ほほを片手でつかんで黙らせる。アオイさんは恍惚こうこつの表情のまま身を震わせていた。



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