ワンピ作成
前話
トラ美の日課で起床
「今日はまだ町には降りず、このロッジで待機しよう」
俺の提案に八木ちゃんはこくりとうなずく。
「そうだね。新婚だし、水入らずがいいね」
「違う」
シーツを八木ちゃんの体にくるりと巻いて説明する。
「天使の発言内容だと、どうやら送られてくるのは八木ちゃんだけじゃないみたいだからな。町に降りたいのはやまやまだけど、あの金色の光が人目につくと、さすがに目立ちすぎる」
「うんうん」
八木ちゃんはこくこくとうなずきながら聞いていた。
「それに八木ちゃんみたいに人の姿になれるかどうかもわからない。動物と動物の組み合わせの可能性もある」
「ちなみにハヤト君は、これから合流してくる人とか動物の子に心当たりはあるの?」
俺は口に手をあてる姿勢で少し考え、思い浮かんだ人の名前を告げる。
「知り合いで亡くなった人なんて多いわけじゃないからな……。唯一思いついたのは、俺の祖父で那須じいだな」
「あれ、共有した記憶には那須のおじいちゃんという方はいなかったけど、疎遠だった人?」
自分のほほに手をあてて八木ちゃんは首をかしげた。
「牧場をやってて人任せにできないって言うからさ。会うときは絶対こっちが行ってたから、トラ美とにょろ助は面識はないはずだ。我が道を突き進む変人だったけど、性格的にはこういうのが好きそうだからな。あっちの世界で転生済みじゃなければ同行希望してくるはずだ」
「なるほど。トラ美ちゃんとにょろ助君の記憶だと、亡くなった動物はそれなりに候補さんがいるね」
「家が動物病院だったし、家族全員動物好きだったからな。でも俺が面倒を見てた子だと他には一匹、いや一羽だけかな」
「騒がしいやつだったにゃ」
「ピピちゃんのことだね」
「理性無しって感じだったにょろー」
ピピはモモイロインコといって、種類としてはオウムだ。うちの動物病院にかかっていた飼い主さんが亡くなり、それから我が家で引き取った。本来長生きの鳥だが、来た時点でかなりの高齢だった事もあり、四年程で老衰死した。
「種類的に、怒ってもこたえないというか……しつけがほぼ出来ない鳥だって親父が言ってたから、もし来るようなら大変かもしれない」
俺に求愛行動を繰り返す、騒がしいインコを思いだしながらつぶやいた。
「ってことは、我が道を突き進む変人のおじいちゃんと、奔放で騒がしい熟女のモモイロインコさんが……」
だんだんと声が小さくなる八木ちゃんの心配は、おそらく俺と共通しているに違いない。
「とりあえず、八木ちゃんの服をなんとかしよう」
想像が現実にならないよう、恐るべき生物を頭から振り払って言った。
「じゃーん」
家にこもりがちだった八木ちゃんは裁縫や工作などをとても器用にこなす。
シーツを使ってあっという間に、肩口が広めに開いた白いノースリーブワンピースを即席で作り上げた。
便利なことに、にょろ助は生える場所を変えられるようで、今は左手小指の先から生えて、左手をさかのぼるように巻きついたポジションになっている。
トラ美メインの体に戻る時も見ていてスムーズだった。
紐をほどいて手をワンピースから抜く。
腰紐をほどいて体を変えると、トラ美の首元に白いセーラー襟のような形で布が残った。
「器用なもんだな」
「ハヤトは褒めるところを間違えてるにゃ」
「その通りだよね」
「女性の容姿はすぐ褒めろってお姉ちゃんが言ってたにょろ」
「どっちの姿でも可愛いよ」
半分言わされたようなものだが、苦笑しながら褒めておく。手際のいい着替えといい、会話といい、トラ美と八木ちゃんとにょろ助は本当に息があっているようだ。
その後、朝食を一緒に食べた。
一緒の二匹が肉食なせいか、八木ちゃんは干し肉ばかり食べる。この調子だと干し肉はすぐになくなりそうだ。
トラ美の姿で狩りなどができるかどうか、明日にでも確認した方がいいかもしれない。
二人でロッジ裏手の沢に向かい、口をゆすいでいたら、例の光が現れた。
俺も八木ちゃんも神妙な面持ちで注目した。