歓喜
前話
オーガの歴史
ミンカブは思い出すようにゆっくりと語り、語り終えるとゆっくり深く一息をついた。
「創世教の開宗を知る年齢のオーガは、この一族では私だけです。粛清の年が六十二歳で、それ以来、本当に辛いことばかりの連続でした。いや、生き残っているだけでも、処刑されたオーガに比べればましなのかもしれないが……」
日が昇り、明るくなり始める時間にもかかわらず、オーガ一族も俺達も対照的なムードになってしまっている。そんな中、不自然に感じる明るさで那須じいが口を開いた。
「なるほど、なるほど。これで全てがつながったわい。わしらがここに辿り着いた理由もな」
「理由? どういうことだろうか」
セフが顔を上げ、那須じいの発言の真意を尋ねた。
那須じいは何やら意味ありげな目線を俺達に向ける。
「信じがたい話だとは思うが聞いてくれるかの」
那須じいは立ち上がり、腕組みして俺の後ろに場所を変えた。オーガ一族も動向に注目して静まり返っている。
「わしらは元々、別の世界の者じゃ」
オーガ達が再度ざわつき始める。
「想像もしてなかった話だけど、信じられないようなことをいっぱい見せてもらってるから納得だよ」
オーセや子供達もうなずいて、話に聞き入っている。
「なぜ別世界から来たか、……じゃが」
次の発言はゆっくりとためを作った。
「ここに居るハヤトは天の使いから依頼を受けたのじゃ。飢えと差別に苦しむ者が多いこの世界を救ってほしいとな。そして我々はハヤトの従者として、それぞれ特別な力を授かり、この世界についてきた」
「なっ……それでは……まさか……」
ミンカブは目を見開いて、口をぱくぱくさせている。
「さよう」
那須じいはいつもより低い声で、もったいつけながら話を進めている。芝居がかった雰囲気だが、オーガ達は真剣に聞き入っているようだ。
トラ美とアオイさんは那須じいの目線の意味を理解したようで、おもむろに立ち上がってそれぞれ俺の左右に移動する。トラ美は同時に八木ちゃんの姿に変わり、ここでも驚嘆の声が漏れた。
次第に、那須じいは大きな声になっていった。
「ルゼーナ神の御名とオーガの境遇については聞いておらんかったゆえ、族長の話を聞くまでは気づかんかったがの。だがここにきて明らかとなったわい!」
オーガたちの俺への視線が熱い。
「なぜわしらを遣わす先にこの森を選んだか!」
片手を広げて突き出しながら声を張り上げた。続いてちらりとアオイさんを見る。
「そしてなぜこのタイミングじゃったか!」
アオイさんは桃色の鮮やかな翼を広げ、俺を飾るような角度に向けてほほえむ。
「そしてなぜこの特別な力じゃったか!」
八木ちゃんは満面の笑みで招き猫ポーズを構えた。
俺は小学生の学芸会に出演させられている気分だったが、オーガ達は震えながら続きの言葉を待っていた。
既に一同、膝立ちに体勢を変え、両手を鎖骨に添えたオーガの礼ポーズになっている。
「……届いたのじゃ。天に召される幼きオーガの子とその父親の祈りがな……」
大声の後に急にトーンを落として那須じいはつぶやく。
セフをはじめ、オーガ達は先ほどとは違う感涙に濡れていた。質問してくる者、言葉にならぬ叫びをあげる者、祈りを捧げる者などさまざまだ。
「おぬしらはよくぞ今まで耐えてきた!」
「で、ではっ、我らをハヤト殿、いえハヤト様の庇護の下においていただげるどいうごどでじょうがっ」
「ルゼーナ神の御心により、オーガの皆様を手助けいたします」
「ルゼーナ様ば、我らをみずでで、はいながっだ……う、ぐっ」
「あああああああ!」
「やったね! ハヤト君が来たからにはもうなんにも心配要らないよ!」
「ルゼーナ様の御使い様、万歳! ハヤト様、万歳!」
「「「ハヤト様、万歳!」」」
その日、広場の歓喜と熱狂の渦が収まるのにはかなりの時間がかかった。
極限状態にあると洗脳にかかりやすいと聞いたことがあるが、俺はそれをまさに目の当たりにした気分だった。




